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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第3章 憧れは未来を作り出す
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秘めた力と不変なる法則

「では、早速始めようか」


 騎士団寮の部屋の中、ロキは一度リディアを見上げた。リディアはやる気に満ち溢れているのか、いつもより強い眼差しでロキを見つめ返す。


「まず、貴様の知識を測りたい。いろいろと質問をするから、答えてくれ」

「うん」

「一つ目だ。人はなぜ、魔法が使える? どうして死ぬと魔石になるか、知っているか?」


「うん。人は、ううん生物は必ず〈魔導器官〉というものを持ってる。それがあるから魔力が生み出せるの。人も例外なくそれを持っていて、訓練することで魔法が使えるようになる。そして、死ぬと〈魔導器官〉が変質して、魔石になっちゃう」


「よくできた解答だ。だが、少し足りないな」


 ロキはそういって、近くに転がっていた人形と金属製のキャップを咥えて持ってきた。

 落とすように離すと、ロキは前足を使って説明し始める。


「確かに生物は魔導器官を持っている。だが、だからといって生物全てが死ぬと、魔石になる訳ではない」

「どういうこと?」


「魔法が生物の身体を変質させる、と言えばいいだろう。一度でも魔法を発動すると、魔導器官に変化が起きる。それと伴い、身体が変質する。ゆえに大きな魔力を秘めた存在が、死しても魔石にならない。まあ、全て魔石になってしまうなら、人は何を食べて生きていけばいいのか、という話になるがな」


 最後の言葉を聞いて、リディアは納得したように声を上げた。

 そんなリディアを見て、ロキは少し微笑ましく思っていた。


「では、そのことを踏まえて問いかけよう。魔法の発動条件とは何か?」

「えっと、詠唱を正しく行うことで魔法は発動する、だったよね?」

「言葉が足りないな。まあ、一つ一つ整理していこうか」


 ロキは目を細める。そして、人形を立てて説明を始めた。


「まず、詠唱を正しくと言ったな。一体何をどう正しく行うのだ?」

「それは、その……」

「わからないか?」


 リディアは頬を赤くして、唸りながら考えていた。懸命に頭の中の知識を掻き集めている様子だが、その答えは出てくる気配がない。


「ではヒントだ。人は生きるために、常に何かをしている。それはなんだ?」

「え? えっと、寝たり食べたり、息をしたりかな?」

「ああ、そうだ。だが、それは人それぞれのタイミングがある。どうしてだ?」

「どうしてって、そんなのわからない。人それぞれだし」


 ロキはその言葉を聞き、小さく微笑んだ。

 そして、リディアに答えとなるヒントを口にした。


「その通りだな。人は、必ずしも同じタイミングを持たない。人それぞれだからこそ、個性が生まれる。ではもし、それが魔法にも適用されているとしたら、どうなる?」

「もしかして――」


 リディアは驚いたような表情を浮かべていた。

 ロキはそんなリディアを見て、魔法とは何なのかを語る。


「確かに魔法には、決まった呪文がある。だが、それは単なる駆動機器だ。燃料とそれを動かす鍵がなければ、意味がない」

「その鍵になるのが、タイミング。でもそれは、人それぞれだから決まっていない。そういうことなんだね」

「ああ、そうだ。我輩には我輩のリズムとテンポがある。貴様も貴様のそれがあるんだ。人それぞれ持っている鍵も、燃料の質も違う。だからこそ、魔法にも個性が生まれるのだ」


 リディアはその言葉を聞いて、とても納得していた。

 詠唱を本に記されていた通りにやっていた。だが、そのリズムとテンポではリディアに合わなかったのだ。

 魔法が上手く発動しなかったのも、自分に合ったリズムとテンポができていなかったためである。


「ちなみにだ。魔法の発動条件は他にもある」

「他にもあるの?」

「耳にしたことはあると思うが、魔法には媒体が必要だ。影だろうと音だろうとな。その媒体が最低二つ組み合わせることができれば、魔法は発動する」


「そんなの聞いたことがない。魔法は詠唱しないと、上手く発動はしないって書いてたし」

「ああ、本来よりは効力が落ちているな。だが、咄嗟な対応には非常に便利だ。覚えておいても損はないぞ?」


 リディアはロキの言葉に目を丸くしていた。

 しかし、ロキはそんなリディアに目を細めて眺める。


「理解しがたいだろう。まあ、これは我輩が発見した法則だからな」

「もしかして、オリジナル?」

「いいや、違う。だが、それには近いだろう」


 ロキの言葉に、リディアは目を輝かせた。

 少しだけ尊敬したような目つきで、ロキに質問をする。


「ロキには、オリジナルがあるの?」

「あるにはある。だが、この身体ではできん。それにあの魔法は、とてもよろしくない」

「すごい! オリジナルがあるなんて、すごい!」

「褒めても何も出てこないぞ? まあ、機会があっても見せることはないと思え」


 ロキは思わず口元を緩ませていた。それだけに嬉しさが溢れている。

 リディアはそんなロキに、見せたことがない無邪気な顔をしていた。


「さて、これから特訓をしようか。貴様の詠唱呼吸がわかれば、多少はマシになるだろう」

「頑張る! 私、絶対に魔法を発動させてみる!」

「その意気だ」


 ロキとリディアは、意気揚々と部屋を出ていく。

 その場に、一つの人形を残したまま。


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