表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第3章 憧れは未来を作り出す
15/37

君が求める強さとは

「ロォーキー!」


 ベネイスの後押しもあり、仕方なくアルアとリディアに顔を見せることにしたロキ。すると姿を見せた瞬間に、抱き上げられてしまった。

 ロキは鬱陶しそうに顔を歪めさせながら、頬をスリスリとしてくるアルアに言葉をかける。


「離せ、暑苦しい!」

「離すものか! 私はこの心地よさをずっと待ち望んでいたんだぞ!」

「我輩は貴様の人形ではない!」


 叫びながら肉球でパンチをするロキ。そんなものを頬に受けたアルアは、若干目をうるませながらも幸せそうに微笑んでいた。


「ロキ」


 アルアと仲良くケンカしていると、リディアが声をかけてきた。

 その評定はいつもと変わりない。だが、どこか安心したかのように、そんな柔らかい笑顔を浮かべでいた。


「ケガはないか?」

「うん」

「そうか」


 ロキは胸を撫で下ろした。そんなロキを見たアルアは、静かに微笑んでいた。


「ロキ、これ」


 リディアは思い出したかのように、赤い魔石を懐から取り出した。それを見たロキは、首からなくなっていることに気づく。


「ヒモ、ボロボロだったから」


 そう言ってリディアは、ロキの首にかけようとした。

 だが、ロキは首を横に振る。


「貴様が持っていろ」

「大切なものなんでしょ?」

「だからこそ、貴様に預ける」


 ロキはあの戦いで感じていた。

 この身体では、何もかもが守れないと。たまたま〈アカシック・アンサー〉が発動したからこそ、どうにかなった。しかし、そんな幸運は何度も続かない。


「でも……」

「必要となれば返してもらう。その時まで、貴様に預けるだけだ」


 冷たい、だがどこか温かい言葉。それを感じ取ったリディアは、静かに笑って頷いた。


「話がまとまったな」

「ああ。アルア、一つ貴様に聞きたいことがある」

「なんだ?」


「なぜ、この身体には痛覚がある? 不便だ」

「神経回路がないと不便なんだ。それに、痛覚はとても大切だぞ?」

「自己治癒能力がない身体に、不必要だと思うが……」


「だからこそ、必要だ。特にお前みたいな奴にはな」


 ロキはどこか納得できないのか、顔をしかめさせていた。だが、アルアは気にしない。それどころか「そのうちわかるさ」と囁く。

 ロキはひとまず感じた疑問を置くことにする。そして、アルアの腕から抜け出した。


「まあいい。ひとまず我輩を直してくれたことに感謝しよう」

「ああ、感謝しろ。そして崇め讃えよ」

「先ほどの言葉は撤回しよう。アルア、いつか貴様を泣かしてやる」


 ロキは自分なりの感謝を口にして去ろうとした。だが、背中を見せた瞬間に「待って」と呼び止められてしまう。

 目を向けると、とても真剣な目をしたリディアの姿がそこにあった。


「どうした? 小説はまだ読み終わってないだろ?」

「違う。それじゃない」

「魔石か? それは先ほども言ったが――」

「それでもない!」


 ロキはその力強い叫びに、思わず怯んでしまった。

 リディアはとても力強い目をして、ロキを見つめている。どうしてそんな目をしているのかわからず、ロキはつい見つめ返してしまった。


「魔法」

「魔法?」

「魔法、教えて」


 その言葉は、とても意外だった。だが、アルアは何かを察したようにため息を吐く。どこか疲れたようなウンザリとした表情は、とても新鮮だった。


「まあ、いいだろう」


 アルアはゆっくりと歩き、ロキの隣を通り過ぎていく。そして、扉の前に立つと「後は任せた」と言い、しっかりと閉めて出ていった。

 ロキはよくわからないまま、アルアの背中を追うように扉を見つめていた。


「ロキ」


 声をかけられて振り返る。すると、頭がぶつかりそうになるほどの近さに、リディアの顔があった。


「魔法、教えて」

「い、いいが、どうして急に……」


 リディアは少しだけ元気なくうつむいた。

 ロキはそんなリディアを静かに見上げる。するとリディアは、少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「私、上手く魔法が使えない。ちゃんと詠唱しても、上手に発動しないの」


 ロキは先ほどの戦いを思い出す。

 バケモノと呼べるマギカドール。それに捕まった時、リディアが魔法を発動させていた。しかし、本来の効力とは違う効力が発揮していた。


「どうしてなのか、わからない。魔法書の通りにやってるのに……」


 その力ない弱々しい顔に、ロキはどこかかわいらしさを感じた。

 そして同時に、ロキはかつてぶち当たった壁と試練を思い出していた。


「教えて、ロキ! 私、魔法を使えるようになりたい!」


 ロキは一度、教えてやろうかなと考える。だがすぐに、その思いを消した。

 魔法が使えれば便利だ。だが、力を持った人間は相応の強さがないと驕ってしまう。

 それにロキ自身、そんなものを教える資格はなかった。


「リディア、一つ聞かせろ。なぜ、我輩から魔法を教わりたい?」


 単純な問いかけ。それにリディアは、頬を赤く染めていた。

 照れくささそうに視線を外して、どこか口籠っている。しかし、数秒もすると吹っ切れたのか、しっかりとロキに目を向けた。


「私、騎士になりたい」

「……ハァ?」

「ヴェニタス騎士団に入りたい。騎士団長のように、強くて優しい騎士になりたい。だから、魔法が使えるようになりたいの!」


 思いもしない言葉だった。だからロキは、大きな戸惑いを抱いてしまう。

 一体どんなことがあって、どうして騎士になりたいのか。いろいろと問いかけたいロキだが、リディアの顔を見てやめた。

 その決意に満ちた真剣な表情は、そんな問いかけを求めていない。


「それは、貴様の夢か?」

「うん」

「忠告をするが、地獄がマシだと思える世界だぞ?」

「覚悟はしてる」


 ロキは諦めたかのようにため息をした。その覚悟は、どれほどのことを想定しているのか、聞きたくなってしまう。

 だが、そんなものを聞いても仕方がない。だからこそ、口にしそうな愚問を飲み込み、リディアが求める答えを放った。


「わかった。教えてやろう」


 たった二言。

 その二言を聞いたリディアは、とても嬉しそうに目と口を大きく開いていた。

 子供らしい反応を見たロキは、やれやれと頭を振る。しかし、その顔はどこか満更でもないものになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ