奈良県葛城市瑞森地区の民話「万福寺のたぬき小僧」
おばあから聞いた話なんやけどねえ、昔まだ万福寺の裏が田んぼになっとらん頃の話よ。万福寺の裏は、その頃一面木の茂った森でよお、それが山の頂上まで続いとったん。その山からはきつねやらたぬきやらが下りてきてなあ、万福寺の裏庭に来ては餌をねだりよった。和尚さんはええ人やからねえ、けものに栗やら銀杏やらをあげてはったんよ。
きつねは餌をもろたらとっとと帰るんやけど、たぬきは餌を食べながらいっつも和尚さんのお勤めをじっと見とった。お経を上げてはったらじっと聞いとるし、お説教してはったら餌を食べるのをやめて聞きいっとったらしいで。
それで和尚さんはえらい感心しはってなあ、「お前は仏法をようわかっとる。あとはしゃべれさえしたらええ沙門になれるもんを」と言わはったそうな。
ほんだらある日、万福寺の門前に突然若い男がやってきてな、「小僧にしてほしい」言いよる。「こんな小さい寺に小僧なんかいらん」ゆうて、最初は断ったらしいねんけど、あんまり熱心に頼み込むから、和尚さんは根負けして小僧にしたったんや。その小僧はよう働くし、勉強熱心で、和尚さんもすっかり気に入った。
しばらくしてな、踊り念仏の日が来たんよ。その小僧も証を打ち鳴らして、お念仏唱えとったん。せやけど、だんだん夢中になったんやろうなあ、小僧の頭からひょいっとたぬきの耳が生えてきよった。あれ、たぬきじゃ、言うて檀家が騒ぎ出しよって、小僧は正体がばれたことに気づいた。あわてて逃げようとしたんやけど、和尚さんが静かに「草木国土悉皆成仏」言わはったんを聞いて、逃げるんをやめた。これは、全てのものは草木からたぬきまで、仏性を持っとって成仏できるというありがたい教えやね。それからずうっと、そのたぬきは万福寺に住みついて、最後にはええお坊さんにならはったっちゅうことや。




