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この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。

松田頼子は部活がしたい

作者:真紘
ぐっだぐだな内容なうえに、メイン三人が黒いです。
好みが分かれるかもしれません。
先に謝っておきます。すみません。
県立厚生高校合唱部。

全国合唱コンクールで二年連続最優秀賞をとるという華々しい成績を収める、合唱の強豪校である。







……と、いうのは表の姿。

県立厚生高校の合唱部は、確かに華々しい成績を収めるだけの実力をもつクラブであるが、その内情は、どえらいこっちゃだったりする。


「聡を好きになったのは私が先だったのに!!この泥棒猫!!」


合唱部の部室である音楽準備室に入った頼子が、一番最初に聞いた声だ。
ドラマのセリフのようだが、あいにく、この音楽準備室にテレビはない。

「好きになったのが早かったからって、聡があんたのものになるわけじゃないわ!何が泥棒猫よ!!」

声は音楽準備室奥、音楽室へと通じる扉の向こう側から聞こえてくる。

いったい誰と誰が火花を散らしているのか、頼子は確かめようともせずに窓際のソファへと歩いた。

「りえこちん、やっほ〜」
「あ、よっちゃん。いいタイミングに」

ソファに座っていた理恵子に声をかけ、頼子は隣に腰掛けた。

「で?あの昼ドラみたいなセリフはなに?」
「結衣ちゃんと美沙ちゃん。結衣ちゃんが聡と付き合い始めたから、聡が好きだった美沙ちゃんが怒ってるの」
「は?結衣ちゃん、たしかOBのフェアリーと付き合ってなかったっけ?」

OBのフェアリーとは、去年の卒業生で、垂れた目、高い鼻、こけた頬、大きな口と、なんとも不思議なバランスの顔をした男で、ひょろっと高い背と相まってなんとなく日本人っぽくないことからフェアリーと呼ばれている。

「フェアリーが愛菜ちゃんと浮気したらしくってね」
「部内で浮気相手漁るんじゃねぇよ」
「それで、泣いてる結衣ちゃんを聡が慰めて、相談にものってたら結衣ちゃんがころっとそっちに転がったわけ」
「弱ってる時に優しくされちゃったんだぁ。でも聡、結衣ちゃんが好きとか聞いたことないけど」

ちなみに、聡も部活掛け持ち組で、頼子と同じ空手部である。
空手部は部員が片手で足りるほど少なく、ゆえに性別関係なく仲がとてつもなくいい。
好きな人ができたくせに相談してくれなかった後輩に、頼子は少し寂しい気分になった。

「聡が結衣ちゃんを好きかは微妙かな。結衣ちゃんが押し切ったって感じ」
「強いな、結衣ちゃん」
「私のこと、嫌い?好き?好きだよね?みたいな」
「そりゃ好きって言うしかないわな。まぁでも、聡なら大切にするんじゃない?前はないわ。ない。卒業したくせに女漁りにくるんじゃねえよ」
「ちなみに、フェアリーはまさか結衣ちゃんが聡に乗り換えるなんて思ってなかったから、いま聡に嫌がらせ中」
「別れた彼女じゃなくて乗り換えた相手に行くって、女か!」
「そしたらさぁ、愛菜ちゃんが私のことは遊びだったの!って怒り出して〜」
「泥沼だな」

頼子と理恵子が他人事のように(実際に他人事だが)話している間にも、音楽室からは聞くも醜い女の戦いが繰り広げられている。

今日はまともに練習できるんだろうか、と頼子が遠い目になっていると、廊下に通じる扉から男子生徒が入ってきた。

「お、嶋田やっほ〜」
「松田がいるとか珍しいな」
「うん。夏の大会が終わったからね、復帰します」
「お前……清々しいくらいに夏の大会は拒否するよな」
「夏休みはバイトに忙しい」
「こらっ、嶋田!よっちゃんのお家はいろいろ大変なの!それぞれ事情があるんだから口出しするんじゃない」
「りえこちん、ありがとう」
「大切なよっちゃんのためなら、私なんでもするよ」

ひしっと抱き合う二人を冷めた目で見つめながら、嶋田は頼子の隣に腰掛けた。
そんな嶋田を理恵子が射殺す勢いで睨んでいたが、頼子は気付かず話を続ける。

「あ、そういえば。フェアリーといえば、香ちゃんが片思いしてなかったっけ?いまがチャンスなんじゃ」
「あー無理無理。フェアリー、香ちゃんは好みじゃないって」
「なに、嶋田。フェアリーと最近連絡取ったの?」
「向こうから電話かけてきたんだよ。なんか、聡に嫌がらせの電話とかメールしてたら、空手部の一年から一斉反撃されたってイラついてたぞ」
「あいつら……」

頼子は思わず頭を抱えた。
ちなみに、今年の空手部一年は男ばかりの四人である。
さらにちなみに、二年は頼子一人だったりする。

「それってさぁ、暴力沙汰とかじゃないよね?」
「違う違う。なんか、公衆電話とか非通知でかけてきて、『自分が浮気しておきながら聡に言いがかりつけるんじゃねぇぞ』って文句言ってくるらしい。相手は空手部だからさ、戦ってもまず勝ち目はないってんで、フェアリーなにも言い返せず」
「ならよし。暴力沙汰とか起こしてたらあいつら全員シメなきゃならないところだった」
「姉御、乙」
「あ、そうそう。香ちゃんといえば、最近面白いこと言ってたよ」

頼子と嶋田が理恵子へと顔を向けると、彼女はニンマリと笑って言った。

「よっちゃんと嶋田は付き合ってるんじゃないかって」
「「はああああああああっ!??」」
「昼休みとか、よく二人でたべてるじゃん。だから」
「いやいや、松田と一緒に食べてるんじゃなくて、俺も松田も準備室に空調があるからきてるだけだし」
「そうそう。てかそもそも、私他校に彼氏いるし」
「あぁ、いたね。まだ生きてたんだ」
「すぐになんでも恋愛に持っていかないでよ。今年の一年は恋愛脳ばっかだな」
「俺、今年受験だから。恋愛とかしてる暇ないし。それに二人きりじゃねぇよ。香ちゃんをはじめとした一年も一緒だろ」
「だから言い出したんだよ。二人でソファ占領して仲良く喋ってるから、付き合ってるんじゃないかって思ったんだって」
「仲良いのは中学が一緒だからだよ。元カノとかも知ってるし、別れる時のドロドロもーーふがっ」
「おまっ、しゃべるんじゃねぇ!!」
「私のよっちゃんに汚い手で触れるな!!」
「いってぇ!」
「よっちゃん、不届き者は私が成敗したよ」
「ありがとう、りえこちん」
「ついでによっちゃんの彼氏も成敗したいな」
「あー……、うん……」
「は?なんだ松田。普段なら笑い飛ばすのに、なんかあったのか?」
「……うん、まぁ、あったねえ…………別れ話が」
「えっ、別れるの!?」
「織戸、バレバレだ。少しは自重しろ。夏休み前はラブラブだったじゃねぇか。なにがあったんだよ」
「なにかあったっていうか……こう、降り積もったというか」
「あんな最低男、捨てちまいな!」
「織戸、お前会ったことないだろ」
「会ったことなくても話を聞いていれば分かるもん!!」
「まぁ、確かになぁ……。なぁ、松田。お前は彼氏のどこが好きなんだ?」
「……………………」
「答えられないのかよ!!じゃあ、質問を変える。嫌いなところは?」
「私より自分が大事なところでしょ、意見が対立するとすぐに私がおかしいって言い出すところでしょ、人混みに入ると不機嫌になって、最後は私を置いて先へ行ったうえにはぐれた私が悪いとか言い出すところでしょ、けんかするとすぐにじゃあ別れるかって言い出すところでしょ、それからーー」
「ちょっ、待て待て待て。松田よ、お前はそのクソ野郎のどこがいいんだ?」
「……ほんとだ。なんかこのまま別れた方がいいような気がしてきた」
「別れよう、よっちゃん!大丈夫、私がいるよ!私は誰よりもよっちゃんを大切にするし、よっちゃんが嶋田を一方的にボコって殺しちゃっても一緒に隠ぺい工作してあげる」」
「いや、そこは止めてやれよ。友達として」
「ありがとう。でもそういうときは自分の手を汚さない方法を考えるから大丈夫だよ」
「俺殺される前提!?」
「さすがよっちゃん!そういう腹黒いところも大好き!!」
「私もりえこちん大好き!!」
「もうやだこの二人」

抱き合う二人の横で、嶋田は深い溜息を零した。

そのとき、音楽室からなにかを叩く音が響いてくる。

「よくも叩いたわね!お父さんにだって叩かれたことないのに!!」


「ガ◯ダム?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、松田。止めに行ったほうがいいんじゃ……」
「え〜やだよ面倒臭い。止めるなら嶋田が行ってよ」
「そうだよ、行ってきてよ、嶋田。そいで結衣ちゃんか美沙ちゃんに刺されてこい」
「なんでだよ!?おいこら織戸、お前の俺への態度、おかしくないか?なんでそんな目の敵にするんだよ」
「私とよっちゃんの間に割って入るからだよ」
「割って入ってないだろ!お前の重たい愛が伝わらないのは松田の性格のせいであって俺は関係ない」

頼子たちがそんな適当なことを言い合っている間にも、音楽室からははげしい物音が響いてくる。
さすがにやばいと感じた他の部員が、止めるために音楽室へと入っていった。
その様子をのんびり眺めながら、頼子は言った。

「こんなドロドロした人間関係でさ、よく最優秀賞とかとれたよね。なに?もしかして、部内恋愛というドロドロが強い結束力と一体感を作り出したとか?」
「な訳ないだろ!去年だって最優秀賞とったけどここまで恋愛恋愛してなかったぞ」
「今年の一年って、本当に恋愛脳だよね。三角関係、四角関係標準装備だし」
「よっちゃんは部内でいいな、と思う奴いる?」
「ないな。好みの顔がいない」
「顔かよ!」
「よかった。いたら消さなきゃならないところだった」
「本気だ!この目は本気の目だ!!」
「大丈夫だって、万が一いたとしてもここまでドロドロさせないから」
「……そっか、そう」
「おいこら松田!?なんか織戸の変なスイッチ押してないか!!?」
「それに、もしいたらまず最初にりえこちんに相談するよ〜」
「本当に!?じゃあ、そいつがよっちゃんに相応しいかどうか、私が直々に調べてあげる」
「どうやって?どんなやり方で!?それ本当に調べるだけなんだろうな!!?」
「もう、りえこちんってば過保護〜。でもりえこちんが認めた相手なら私を大切にしてくれるだろうなぁ」
「当然だよ、よっちゃん。私以上によっちゃんを大切に出来る奴じゃなきゃ、よっちゃんは渡さないんだから!」
「や〜ん、りえこちん大好き!!」
「私もよっちゃん大好き!!」

お決まりの文句の後に二人が抱き合っていると、音楽室からさらなる物音が聞こえてくる。

「……なんか、騒動悪化してない?」
「明らかに悪化してるな」

どういう状況なんだろう、と聞き耳を立てていると、音楽室の扉か勢いよく開いた。

「やばい!他のカップルに飛び火した!!」

扉から顔を出した一年男子が叫ぶ。

頼子たちは顔を見合わせた後、一年男子が開け放った扉の隙間から音楽室の状況を伺ってみる。

「この間だってーー」
「またそれかよ!いつもいつもーー」
「聡は私のものよ!」
「強引に付き合い始めたくせに!」
「どうして分かってくれないの!?」
「好きだからって、なんでもわかるわけないだろ!」

つかみ合って罵る件の生徒の周りで、二組のカップルが喧嘩している。
彼らは夏休み前に付き合い始めたカップルで、どちらも二年の彼女と一年の彼氏のカップルだ。
頼子の知る限り、仲睦まじく微笑ましいカップルだと思っていたのだが、外からでは内情は分からないらしい。

「えっらいカオスな状況だね」
「もうこれ、練習無理じゃね?」
「ええ〜、私久しぶりに来たのにぃ。歌いたかったなぁ」
「私もよっちゃんと歌いたかったぁ」
「人間諦めも大事だって」

ぶぅぶぅ言いながら音楽室に背を向ける三人を、さっき扉を開けた男子生徒が引き止める。

「頼子さんお願い、止めてください!この状況を止められるのは頼子さんだけだから!!」

指名された頼子は、あからさまに顔をしかめた。

「ええ〜、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるんだよ?やだ。面倒臭い」
「そう言ってやるなよ。お前だって部活したいんだろう?」
「そうだけどさぁ……」
「私も久しぶりによっちゃんの勇姿が見たい」
「だけどあれは喉に悪いからあんまりしたくないんだって」
「そこは大丈夫です!のど飴持ってるし、自販機であったかい牛乳買ってくるから!!」

後輩に両手を合わせて拝まれてしまった頼子は、長い長い溜息をこぼした。

「仕方ないなぁ。とりあえず、部活できるようにするだけだよ」
「ありがとうございます!!」

深々と頭を下げる後輩を置いて、頼子は音楽室へ入る。
頼子が音楽室へやってきても言い争う六人は気づかない。
彼らのすぐそばまでやってきた頼子は、深呼吸を繰り返した後、大きく息を吸った。



「ええ加減に、せんかああああああ!!」



音楽室中の窓が揺れるほどの大声に、言い争っていた六人はピシャリと口を閉ざす。
ぎこちない動きで声の主を振り返り、頼子を見るなりやっちまった、という表情を浮かべた。

「あんたら、ここに何しに来とんねん!部活やろ?部活やんな?そやのになにしとんの?痴話喧嘩?三角関係?アホちゃうん!?そういうことしたいんやったら外でやれ!!二度と部内に昼ドラドロドロ持ち込んでくんな!!迷惑なんじゃ!!出てけぇ!!!」

頼子の怒鳴り声に弾かれるように、六人組は音楽室から出て行ってしまった。

残るのは、頼子(小学校四年生まで関西圏に住んでました)ひとり。

理恵子と嶋田がみごと邪魔者を追い出した頼子に対して拍手喝采を贈る中、ただひとり、事態の収拾を頼んだ男子生徒だけは頭を両手で抱えた。

「頼子さん違う!!これじゃあ場所が移動しただけで解決してない!!」
「ええ〜、私は最初から部活ができる状態にするって言っただけで、騒動を解決するとは言ってないよ」
「そ、そんなぁ〜」
「よし、残ったメンバーで練習するぞ〜」
「「はぁい」」

嶋田の号令に頼子と理恵子をはじめとした合唱部員が音楽室へ集まってくる。
その中には事態の収拾を頼んだ後輩も混じっていた。

嶋田のピアノに合わせ、今日も厚生高校合唱部は何事もなかったかのように練習を開始する。
この切り替えの早さが、もしかしたら最優秀賞をとる所以なのかもしれない。



結局、その日は追い出された六人が戻ってくることはなかった。
ありがとうございました。

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