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第二十一話   静かなるココの憂い


 特訓終了後、俺はいつものように地面の上に転がっていた。

 そしてココがすぐ側に座り、頭を撫でながら話し相手をしてくれている。俺は子供か!

 そして彼女はいつも、俺が立てるくらいに回復するまで律儀に付き合ってくれるのだった。


「ミツグって、やっぱり才能あるよ。まだ弱いけど、ロウディさんみたいな障壁の感触があったよっ」


 ココの言うように、ロウディ爺の障壁と身体強化に近い動きが出来つつあった。結構いい線いってると思う。

 攻撃技についてはもう少し時間が掛かりそうだ。ココの使う三段突きを真似るのは俺の魔力体の速度では無理そうだったので、ロウディ爺の拳撃を魔力で強化する方法を応用して、武器に魔力体を憑依させる方法を模索している。まだ成功していないけど、やれそうな気はする。


「今度からは槍で突いても大丈夫そうだねっ」


「いやいや、死ぬから止めて!?」


 冗談ではない。あんな突きを食らったら、どうなるだろう……魔力を帯びていない普通の攻撃は、どんなに強力でも障壁を突破する事は出来ない筈。それでも不安になってくる程、ココの突きは鋭いのだ。

 あの突きが真正面から飛んできたら、俺の魔力体なら冗談抜きで避けちゃうかも知れない。十分に考えられる。所詮は俺の魔力体なんだから、過信は禁物だ。

 それにロウディ爺とココに交互に吹っ飛ばされてたら、身が持たないぞ!


「もう、冗談だよっ……ところでミツグ、一つ聞いてもいい?」


「な、なんだよ……」


 ココが急に真剣な顔をして聞いてきた。


「転生してきた時の事、覚えてる?」


「え、うん。俺は繭の中から、ベソルに助けられたんだったなあ」


「うーんと、それより前。前の世界で死んだ時の記憶だよ」


「え!? ココは前の世界で一度死んでるの?」


「え!? ミツグは死んで無いの?」


 俺が驚いて聞き返すと、何故かココも驚いて聞いてきた。


「えっと、俺の場合は朝起きたら異世界だった、って感じかな?」


 俺の返事を聞いて、ココは暫く考え込んでいた。そして納得したように頷きながら、話し始める。


「ミツグがのほほんとしてる訳が、やっと分かったよ」


 ココは笑顔で酷い事を言い切った。おいおい……。


「アタシは前の世界で一度死んだよ。正確に言うと、死ぬ直前にこの世界に連れて来られたんだ。他の転生者も皆、そうだよ。パーラさんがそう言ってたから間違いないと思う」


 どういう事だろう……。


「アタシの場合だとね、死ぬ前に朦朧とした意識の中で声がしたんだ。その声の主はね、別の世界で新たな命を授けるから、協力してくれって。断ったらそのまま死ぬだけなんだから、返事は決まってるよね。

 それでね、その別の世界ってこの世界『ジエンド』の事なんだけど、人類が滅びる寸前なんだってさ。だからその危機を乗り越えるのに力を貸してくれって言われたのよ。

 それで、何をすればいいのかって聞いたら、自分で探せって言われたの。意味分かんないよねっ。この世界で生きるも死ぬも、自分次第なんだってさ。何かの謎かけみたいだよね。

 でも声の主が冗談や意地悪を言ってる感じはしなかった。伝えられる事実だけを口にしてるって分かったよ。だから声の主の言う通りに協力しないとまた死んじゃうだけだって、転生者は皆理解してやってくるのだよ。

 この世界に来た転生者は、声の主が言っていた滅びの危機が何なのか、真剣に探すしかない。もちろんアタシもそうよ。そして多くの転生者はその答えを自分で判断する。

 その答えが、迷宮の魔物がこの里を滅ぼすと考える人もいれば、世界樹が崩壊してこの里が潰れるって考えてる人もいる。

 これは両方共に通じる処があるから協力出来るよね。アタシやパーラさんは世界樹の崩壊の可能性を危惧しているわ。

 他にも里の中で戦争が起こるっていう人もいれば、伝染病、酸欠、隕石が落ちてくるとか色々あるよ。

 中には魔物が滅んで餓死するからって魔物の保護を訴える人もいるんだけど、殆どの人は迷宮を突破して地上を目指す方向で一致してるそうよ」


 魔物を保護って、面白い事を考える人もいるんだな。

 でも何で俺だけ違うんだろう。いくら思い出しても死んだ記憶が無いんだよなあ。


「俺はそんな声は聞いてないし、死んだ記憶も……やっぱり無いよ」


「みたいだね。これは予想なんだけど、ミツグは寝てる間に死んじゃったんだと思うよ。病気とかお酒とか、突然死みたいな感じ?」


 持病とかは無かったし、お酒も飲んで寝た記憶はない。すると心筋梗塞……は起きそうな気がするから、脳内出血だろうか……。


「普通は死に行く人の了承を得てから転生されるみたいだけど、ミツグの場合は意識が無かったから出来なかったんだろうね。それでも転生させられたって事は、ミツグにしか出来ない事があるとか、何か理由があるんじゃないかな」


 俺にしか出来ない何か……想像も付かない。


「ミツグがこの世界で何をするのか、ゆっくり考えてみてよ。アタシはパーラさんと同じく迷宮の突破を目指してるよ。でもそれがミツグのやるべき事なのかは分からないから」


「分かった。俺なりの答えを探してみるよ」


「うん、そうしてみてよ。それで、声を聞いた転生者達は、残された時間が少ない事を肌身で感じてるの。だから転生者の多くは強い危機感を持って、迷宮の突破を目指す人が多いそうよ。

 お陰で無茶をして死んでしまう人が多くて、転生者の生存率は極端に低いらしいの。折角貰った命なのに、変でしょ?

 だから、もしかしたら転生者って二度目の人生だから、命に対する価値観が希薄になってるんじゃかいかと思うんだよね。絶対の唯一無二のものの筈がそうじゃなかったから……上手く伝えられないんだけど、兎に角、感覚が麻痺してるんじゃないかと思うのよ。

 アタシももちろん、真剣に迷宮の突破を目指すよ。このままここで『世界樹』と共倒れなんて嫌だから。でも無駄死になんて、もっと嫌。だからここで必死になって訓練してるんだ。

 ミツグは今日、スライム相手に無茶して死んだんでしょ? 六階層より上では死んだら終わり、蘇生しないんだよ? ミツグも感覚が麻痺してない?」


 言われてみると、思い当たる節があるような気がする……。


「アタシはミツグにも絶対に死んで欲しくない。だから無茶な事は止めて欲しい。ここで一緒に訓練して、ミツグにも迷宮で生き残る力を身に付けて欲しいんだ。

 もしミツグが迷宮探索に本気で挑むんなら、上を目指す気持ちと絶対に死なない気概が必要よ。もしこの二つを持てないんなら、残念だけど探索者にはならない方がいいと思う」


 ココは俺の事も、本気で心配してくれている。


「これもパーラさんからの受け売りなんだけどね、この里に住む多くの人は転生者達の子孫なの。彼らは転生前の声を直接感じていないから、現状に本気で危機感を持てないの。ここで産まれ育ったんだから、現状が当たり前になるのも当然よね。だから迷宮突破を真剣に目指しているのは転生者達が主体になってて、その子孫は生活の為に迷宮に潜るってスタンスらしいよ」


 見た目には同じ探索者でも、考え方はある意味、間逆の存在みたいだ。


「ミツグの場合、両方が重なってるような危うさを感じるんだ。だからもしミツグが本気で迷宮に挑む気がないんなら、パーラさんに言って安全な他の職を紹介してもらった方が良いと思う。真剣に考えてみて欲しいの」


 この娘は、本当に真面目に俺の事を考えてくれている。

 なら、俺も包み隠さずに本心で話しをしないといけない。


「今から言う事は、ここだけの話しで秘密にして欲しいんだけど、いいかな?」


「え? うん、分かった。絶対に他言しないよ。どうしたの?」


「俺は……『世界樹』の声が聞こえたんだ」


「え? それ、本当なの?」


「うん。本人が言うには『世界樹』の子供らしい。頭の中に直接、話し掛けてくるんだ」


「それで、何て言ってたの?」


「あいつはこの大木の中を彷徨っている、思念体みたいな存在なのかな? あいつが言うには、親である『世界樹』の思念とは産まれてから一度も会った事がないそうだ。そして『世界樹』の身体にあたるこの大木は、すでに枯れているらしい」


「え!?」


「この大木がいつまで持つか、あいつにも分からないらしい」


「それじゃあ、『世界樹』はもう死んでるって事?」


「いや、それは分からない。でも、この大木の中には大量の魔素がまだ存在しているし、濃度の変動も続いてるよね。ココ達が転生前に聞いた声の正体だって、『世界樹』じゃないのかな? それに俺やココは『世界樹』の力で転生してきたんだから、『世界樹』の思念が何処かでまだ生きている可能性も十分にあると思う」


「そっか……でも枯れてるんなら、この里の存続は難しいのね」


「恐らくね。だから俺も、真剣に迷宮の突破を目指すつもりだよ。それと、スライムに殺された件についてなんだけど……強くなる為に、どうしてもスライムの魔力を見極めたかったんだ。軽率な行動だったのは認めるよ。ごめん」


「そっか……もし、また行く必要があったら、一緒に行くから教えてねっ」


「分かった。ありがとう」


「それで、この情報って、物凄く重要だと思うんだけど。もちろんアタシは誰にも言わない……でも、何で秘密なの?」


「うん。まず第一に誰も信じないと思うからだね。俺だけが聞こえる声だよ? 『世界樹』の声って、都市伝説や詐欺商法で題材にされてそうだろ? ココだから信じてくれたけど、他の人が信じるかな?」


「うーん、無理かも……」


「第二に、こんな話しが広まったら不要な混乱が起こるだけだから。話しが大き過ぎて、何が起こるか想像も出来ない。最悪、情報源の俺が闇に葬られる可能性だってあるんだから、慎重になるよ。だからまだ、ベソルにも言ってないんだ……ベソルを信じてないからじゃなくて、心配掛けたくないからなんだ。ココには言った方がいいと思ったから話した」


「うん。ありがとう……この話し、アタシは誰にも言わない。でも、パーラさんに相談してみるといいとは思う。だから、ミツグが直接パーラさんに会った時に、判断して」


「分かった。参考にさせて貰うよ」


「うん。それじゃあ、迷宮突破を目指して、一緒に頑張ろうね!」


「ああ、よろしく!」


 俺達は、硬い握手を交わして笑い合った。





 その夜、寝る前に『ステータス』を確認してみると、色々と変化していた。


~~~『ステータス』~~~

ミツグ・ケンジョー(Lv4)  0歳  チキュー人

職能適性 魔力の探究者

魔力体適性 魔力++++

魔力体能力 筋力Lv4 柔軟性Lv4 速度Lv4 魔力Lv17

特殊技能 魔力体チャージ 魔力体感知 魔力体共鳴 

所持金額 280エール

~~~~~~~~~~


 ますは職能。『魔力使い』から『魔力の探究者』に変化していた。

 どんどん、『魔法使い』から離れて行っている気がする。

 俺は何処に向かっているのだろう……。


 そして能力の項目名が、『魔力体適正』と『魔力体能力』に変化している。

 どうやら想像通りみたいだ。この項目は、俺自身の能力ではなく、俺の魔力体の能力を示しているようだ。


 俺がこの事に気付いた影響で、表示される項目名が変化したんだろう。

 『ステータス』の表示は、親切なようでいて実はその真意が隠されている。まるで試されているみたいだ。


 レベルアップして身体能力が上がるのは、肉体を補佐してくれる魔力体の力が上がった影響にすぎない。もちろん魔力体の能力が向上する影響は大きいと思うけど、その使い方が不十分であれば、効果も半減する事になる。

 それと実際の俺自身の肉体は、真面目にコツコツ鍛えていくしかないという事だろう。


 そして特技の名称の『魔力』が『魔力体』に変わっていた。まあ、これは何となく察しが付く。

 魔力体を認識出来るようになった事で、表示される名称がより本質に近付いただけだろう。

 追加された『魔力体共鳴』も言葉通りの意味合いだと思う。


 しかし、相変わらず攻撃系の特技に繋がりそうなものが手に入らない。

 今日は結構、色んな事を掴んだ気がしたから、身体強化系統の特技を期待したんだけど、そんなに甘くはないみたいだ。

 まあ、暫くはこのまま特訓を続けるしかないのかな。

 

 はあ……早く寝よ。




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