第十三話 第一回、南地区定例会議
ココに連行された俺は今、談話室で三人の美女に囲まれている。傍目には天国に見えなくもないけど、雰囲気が微妙だ。なんかギスギスしている。
隣にはベソル、何だかブスッとしていて機嫌が悪い。向かい側の正面にはココ、ニコニコしているけど、こいつが皆を問答無用で連れ込んだ犯人だ。ココの隣には事務所でよく見掛ける可愛い系の美女が座り、少し笑顔が引きつっている……。
「それじゃあ、ギルド『子猫ちゃんを愛でる愉快な野獣の会』における第一回、南地区定例会議を始めまーす」
ココの掛け声で、謎の会議が始まった。訳分からん。
「ミツグと面識が無いのは……フレンさんくらいかな?」
ココがそう言って、隣の女性の方を向く。
「よく見掛けるけど、話すのは初めてよね。はじめまして、フレン・ドリーフィアです。ココちゃんのサポーターをしているわ。ベソルちゃんが中々紹介してくれないから、挨拶が遅れちゃったけど、よろしくね。私に出来る事は何でもしてあがるから、気軽に声を掛けてね」
フレンの第一印象は、見た目通りのおっとりした感じの落ち着きのある大人の女性だった。
そしてフレンの挨拶が終わっても、ベソルは何処か不機嫌そうである。
「ベソルちゃん、ミツグ君を盗ったりしないから、そんな顔しないのっ」
「べ、別に私はそんな心配してないわよ!」
ベソルが赤くなって反論している。俺のサポーターはベソルだけだから、安心して欲しい。
この後、俺も簡単な自己紹介をさせられたので、とりあえず剣士と名乗っておいた。色々と聞かれると面倒だし、ベソルが知っていればそれで十分だろう。
そして、ココに催促される形でフレンがギルドについて説明を始めた。
召集したんだから、ココが自分で説明しなさい……。
「探索者ギルドっていうのは、一つではないわ。私達が所属するギルド『子猫ちゃんを愛でる愉快な野獣の会』も沢山ある探索者ギルドの一つよ。ベソルちゃんから説明はなかったのかしら?」
フレンの説明によると、俺もココと同じくギルド『子猫ちゃんを愛でる愉快な野獣の会』の一員であるらしい。
その証としてギルド員の装備には、ギルドのシンボルである子猫ちゃんマークが付けられているそうだ。
言われてみると、革鎧の肩の部分に珍妙な何かが描かれている。子供の落書きみたいなシンボルマーク、誰が書いたのか知らないけれど、これでは誰も気付かないと思う。
じっくり探してみると、剣の柄やインナーにも似たような落書きがあった。正直、汚れかシミだと言われても仕方ないレベルの出来だ。流石にパンツにはマークがなかった。
そしてベソルとフレンはこのギルドでサポーターをしているそうだ。
ベソルがこの辺の説明をしなかった理由は簡単で、
「こんな恥ずかしいギルド名、名乗れないわよっ」
との事でした。これはある意味、仕方ないと思う。平気で名乗れるココとフレンの方がどうかしている。
俺が名乗る姿を想像してみると、『俺は『子猫ちゃんを愛でる愉快な野獣の会』のミツグだ。よろしく!』となる。
うん、ヘンタイだ。自らヘンタイ野獣の一人だと暴露しているだけだ。
俺もベソルに賛成だ。自分で名乗る勇気はない。ベソルは決して悪くないと思う。
というより、この名前を付けた奴が全て悪い、出てこい!
いや嘘です、すみません。出来れば一生、会いたくありません……。
「そして探索者ギルド管理局が、全ての探索者ギルドを統括しているのよ。管理局は各地区に支部を設けていて、そこを私達が使わせてもらっているの。
この建屋も管理局の支部なんだけど、現在、南地区にサポーターを配置しているのは、うちのギルドだけ。だから貸し切り状態で使わせてもらっているの。
うち以外の殆どのギルドは、西地区と北地区を中心に活動しているわ。最近では転生者が現れる事も殆どないから、どこのギルドも南地区に人手を割く余裕がないのが実情かしらね」
つまり今、転生者が現れた場合は高確率で『子猫ちゃんを愛でる愉快な野獣の会』のメンバーになる事になる。他のギルドに加入しても、サポーターが南地区にいないので不便極まりない。
そもそもこの短期間でココと俺、二人も転生者が現れる事自体が近年では異例の事らしい。
新人を育成するには手間もコストも掛かるし、サポーターは絶対に必要となる。しかも他のギルド員とレベルが合わないので扱いが難しい。よって殆どのギルドでは敬遠されているそうだ。
「うちのギルドはちょっと特殊なのよ。ギルドマスターの子猫ちゃんは、東地区にいるわ。あ、ギルマスとか呼んでは駄目よ。子猫ちゃんって呼ばないと拗ねるから覚えておいてね。
それで子猫ちゃんはもう結構なご高齢になるの。子猫ちゃん自身が直接率いてたパーティも殆どの野獣が引退してて、実質的に活動は停止しているわ。本人も管理局の局長に着任してて、ギルドでの活動はもうしていないのよ」
ご高齢の子猫ちゃんとか、意味分からん。関わりを持つなと、本能に忠告されてる気がする……。
でも、ギルドマスターが管理局局長とか、ギルドの権力はありそうだな。
「あ、子猫ちゃんは公平正大な方だから、うちのギルドを贔屓したりはしてくれないから。それに子猫ちゃんが現役で活動していた時期はかなり昔だし、今では東地区から殆ど出てこないから、知ってる人も少ないわ。北地区で活動していた人もいるんだけど、実質的に活動を停止している人が殆どね。現在活動中の探索者は、ココちゃんとミツグ君だけなの」
左様ですか。寂れてるとかじゃなくて、ほぼ廃業状態なんですね……。
しかしこのギルドが廃れたのって、ギルド名が原因な気がしてならないな!
「色々とあって人がいなくなっちゃったんだけど、子猫ちゃんとしてはギルドを潰したくないらしいのよね。
だからうちのギルドの最重要目標は、新人の獲得。それでサポーターが二人共揃って南地区に配置されちゃったの。
最近になってココがギルドに入ってくれたから、私がサポーターになったわ。正直に言うと、久しぶりにサポーターの仕事が出来て、凄く嬉しかったのよね。
でもね、それ以上に喜んでるのが、子猫ちゃんなのよ。ココの事をすごーく気に入ったみたいで、ね」
「ここからは、アタシが説明するね!」
お?
ココが身体を乗り出して、無駄にやる気を出して力説し始めた。
「パーラさん……って子猫ちゃんの事ね、もう引退したいからって、アタシにギルマスを継いで子猫ちゃんの愛称を継承しろって言ってきたのよ! でも、そんなの嫌よ!
子猫ちゃんなんて呼ばれるの恥ずかしいし、それにアタシ、新人よ?
しかもこのギルド、ミツグが来るまでずっとアタシ一人だったんだからねっ」
まあ、いきなりギルドマスターを押し付けられても困るよな。しかも一人だけのギルドだった訳だし……。
でも、そんなに嫌なら、
「そんなに嫌ならギルド抜ければいいし、抜けなくても断る交渉材料には出来そうだけど……」
「うん……それはもうやったんだけど、駄目だった。他の探索者ギルドにはアタシが次の子猫ちゃんだって、パーラさんが局長の名前で通達しちゃったんだよ。曲がりなりにもトップからの連絡だから、他のギルドの人もトラブル抱えたくないからって、相手にしてくれないのよ。
それにあの人、強く断ったりすると泣きそうな顔するし……もちろん、フレンさんも良い人だから、このギルド自体には不満はないよ。むしろここにはずっといたいよ。
それと……パーラさんからこの槍、押し付けられちゃって……でも、凄く良いものだし……手放せないっていうか……ねっ」
おいおい、何処が公平正大な人なんだよ。
しかも泣き落としとか、お腹真っ黒っぽいじゃあ、ありませんか。
最後のはもので釣ってるし……。
ココが落とされるのも時間の問題、いや……。
「うん、もう手遅れだね……確実に四方八方から固められてるから、もう諦めろ」
「アタシもそう思う……だから、ギルマスになるのは仕方がないかなーとは思ってるよ。でも、『子猫ちゃん』って呼ばれるのだけは、絶対にイヤ!」
「俺も助けてやりたいけど、野獣って柄じゃないしなあ……」
「え? ちょっとミー君、それって、私も見捨てるつもりなの!?」
「逃がさないって言ったでしょ! それに助けてあげたんだから、恩を返しなさいよ!」
「あなた、ミー君を利用する気!?」
「ベソルさんこそ、いっつもコソコソして、ミツグを囲ってどうする気よ!」
うおっ、二人で睨み合ってる……目が怖いよ、お二人さん……。
「ミツグ君、モテモテねっ」
「「そんなんじゃない(わ)よ」」
フレンさん、挑発するのは止めてください……。
美女三人に囲まれてるのに、なんでこんなに背中に汗かいてるんだろう、俺……。
「兎に角、ギルド名を変えたいのよ! ギルド員の半数以上の賛成で変更出来るから、ミツグが協力してくれれば二対一で勝てるのよ!」
ギルドマスターであるパーラさんの一票に対して、俺とココの二票で対抗出来るらしい。サポーターの二人の票は考慮されないそうだ。
「なる程。それなら簡単だけど……そう簡単にいく相手じゃ、ないよね?」
聞いてる限り、そんな方法を許すような腹黒ババアだとは思えない。
「ええ、ミツグ君の言う通り、無理だと思うわよ。そんな事したら、持てる権力をフル活用して対抗してくると思うわ、あの人。うちのギルド名って、亡くなった旦那さんが名付けたみたいなのよね。ギルドマスターは子猫ちゃんって呼ぶのも旦那さんが作った決まりみたいだし……絶対に阻止してくるわよっ」
フレンさんがココの提案をバッサリ切り捨てた。予想通り、質の悪い真っ黒婆さんだ。
それにしても子猫ちゃん、公平正大さの欠片も感じられないね!
でも、そんな由来があるんなら本気で阻止してきそうだし、抗戦するのも少し可哀相な気がする。
ギルド名の変更、こりゃ無理でしょ。
「いいじゃない。お祖母様の老後の楽しみに、ちょっとくらい協力してあげなさいよっ」
「イヤよ! そもそも孫であるベソルさんが、子猫ちゃんを継いであげればいいじゃないのよ!」
どうやらベソルはギルドマスターの孫だったらしい。
「わ、私は色々あって、もう探索者は引退したのよ。あなた猫なんだから、子猫ちゃんで丁度いいじゃないっ」
「猫じゃないっ、猫人よ!」
ココからすると、猫と呼ばれるのは心外らしい。張り倒されないように、気を付けよう……。
「はいはいはい、喧嘩になるからここまでね」
フレンが軽く手を叩いて場を沈める。挑発したり諫めたり、遊んでないか、この人……。
おっとりしてるけど、この人も腹黒っぽいよな。流石は年長者である。言わないけど。
「とりあえず、ギルド名を変更したいって案に対して、反対の人はいるかしら?」
聞くまでもなく、全員賛成だろう。
「パーラさん、じゃなくて子猫ちゃんを不用意に刺激するのは、得策じゃないわ。ミツグ君も賛成みたいだし、まだ時間はあるんだから少しずつ準備していきましょう」
迷宮六階層に上がって西地区に移動すると、正式に探索者として認められる。それまでは新人とみなされ、ギルド内での発言権も無いし、もちろんギルマスにはなれない。
よってココが探索者として認められた状態でパーラさんが勝手に引退宣言してしまうと、強制的にココがギルマスに就任、晴れて子猫ちゃんと呼ばれるようになるらしい。
これが腹黒ババアの作戦だとココとフレンは予想している。主にはこれが理由でココは五階層に留まっているそうだ。実に下らない理由だ。
今後は俺が五階層に辿り着くのを待って、一緒に西地区に移動する運びとなった。それまでに出来るだけ準備を進めておいて、ババアがいないタイミングで西に進行、即座にギルド名変更を提出して無理矢理押し通す作戦らしい。果たして上手くいくのかどうか……。
そして話しは俺の強化訓練方法に移った。
ココは現時点でLv5であり、俺とは少し離れている。現時点で一緒に行動してもココにメリットは無いし、俺の訓練にもならない。
よって、俺が五階層に上がるまでは別行動が主体。たまに時間を合わせて訓練場で特訓したり、連係訓練を兼ねて迷宮に同行したりするそうだ。
訓練場では引退した元探索者の人が色々と教えてくれるらしいので、これで俺の生存率も少しは上がるだろう。
当面は鈍器と剣のどちらを主体にするかを検討したい。
あれ? 俺は魔法使いだった筈だけど……まあ、いいか。




