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第一話   転生一日目、俺は天女と出会う


 ――コン、コン。


 まどろむ意識の中で、何かを軽く叩く音が聞こえる。


「うっ」


「あ、起きましたー?」


 ぼんやりと女性の声が聞こえたような気がする。

 まだ眠いんだ、静かにして欲しいな……。

 俺の意識は再び心地よい眠りの中に導かれていく。

 すると、


 バリバリッ、グシャ!


 突然、すぐ側で何かが引き裂かれ潰れるような音が響いた。

 驚いて目を覚ますが、眩しい光が差し込んできて目を開けられない。

 飛び起きようとした身体も、硬直したかのように全く動かない。

 焦る気持ちを無理矢理に抑え込み、明るさに目が慣れるのを待つ。


 暫くして、眩しさに耐えられるようになった俺は、薄っすらと瞼を開ける。

 するとそこには……見知らぬ美女の笑顔が待っていた。


 ――え?


 あまりの美しさに思考が停止していた。目がさめるような美女とは、こういう人の事を言うのだろう。

 うん、目が覚めた。


 その人の細められた目の中には、燃える様に真っ赤な瞳が見え隠れしている。日の光に反射する真っ白な髪は、彼女の透き通る様な美しさをより際立たせている。

 現実とは思えない程の美女、いや天女と言ってもいいくらいだ。

 ニホン人じゃないのは、間違いない。


 満面の笑顔の下方には、真っ白な深い谷間が覗いている。俺も男だ、自然と目が吸い寄せられてしまう。

 そして、その両脇から繋がる細い華奢な腕の先には……何故か大振りのナイフが握られていた。


「お早う御座います。すぐに、ここから出してあげますね」


 そう言うと、美女はナイフを両手で逆手に握り締め、目の前で大きく振り被る。


 え? ちょっと待って、ええ!?


 俺は驚いて、声を出す事も出来なかった。

 そして美女は躊躇なく、俺の胸の辺りにナイフを突き刺した。


 反射的に目を閉じた俺は、襲い来る激痛に身構える。

 ――しかし何時まで経っても痛みは感じられない。バリバリと何かを切り裂く音が聞こえるだけだった。


 恐る恐る目をうっすら開けてみると、実に楽しそうに大振りのナイフを振り回す美女の姿が目に入った。

 頬を赤く染めて恍惚とした表情で一心不乱にナイフを突き刺す美女の姿に、俺の股間は縮み上がった。




 どうやら俺は、繭の様なものの中に取り込まれていたようだ。

 美女に助け出された俺は今、彼女の目の前に何故か全裸で立っている。

 所々に血が滲んでいるけど、一生懸命に助けてくれた美女に文句など欠片もない。正直に言うと所々ジクジク痛むんだけど、助けてくれた美女の目前で顔には出せないのだ。


 そして満足気な笑顔を向けた美女は、軽い運動のせいで上気しており、頬や胸元が赤く染まり、どこか艶めかしい。

 縮み上がったまま反応しない俺の息子を、今回ばかりは褒めてやりたい。


 すると美女は俺を一瞥した後、顔を赤くして目を逸らした。漸く俺が素っ裸である事に気が回ったらしく、毛布を渡してくれた。俺は急いで毛布で身を包む。

 しかし、ここで俺は気付いてしまった。

 美女が顔を逸らす際に、その視線は明らかに俺の下半身に向いていた事に……。

 恥ずかしそうに横を向く美女の顔には、一瞬だったけど哀れむような、もの足りなく感じているような表情をした気がする。

 俺の勘違いかもしれない……だが、堪らなく悔しい思いでいっぱいになった。

 声を大にして言いたい。


 本当の俺は、違うんだ!




 ――汚名挽回する手段に考えを巡らしていると、美女の方から話し掛けてきた。


「改めまして、ようこそ、『異世界ジエンド』へ。私は探索者ギルドでサポーターをしている、エーンベソル・メントンといいます。ベソルとお呼び下さい!」


 ――俺はまだ夢を見ているのだろうか?

 不安に駆られて辺りを見渡すと、何じゃこりゃ……そこは巨大なドームの中だった。

 どのくらいあるのかよく分からないけど、東京ドームとは比べ物にならない程大きいだろう。

 遥か上空に見える天井はうねうねした太そうな木が集まって出来ていて、その隙間から光が漏れている。天井から繋がる壁も全て木の集合体であった。足元の地面は土のように見えるが、所々に木が飛び出ている。兎に角、右も左も上も下も、見渡す限り木であった。


 すぐ側の大きな木々を見上げると、遥か天井まで繋がっている。どうやらドーム空間の端っこにいるらしい。その木々はドーム空間の壁をなすようにびっしり並んでいて、木々の隙間に俺が取り込まれていた繭が挟まっていた。

 ベソルと名乗った美女が気付いて助けてくれなければ、ずっと繭の中だったのかも知れない……。

 ドームの中心付近に目を向けてみると、これまた極太な大木が聳えていた。恐らく壁や天井と同じような木の束なんだろうけど、ドームの天井を突き抜けている。木造バベルの塔と言った処だ。


 現実離れした風景に、俺はただ呆然とするしかなかった。


「ここは『世界樹』の真下にある巨大地下ドームで、私達が住む街です。周りに見える木は、全て『世界樹』の木の根ですね。時々こうやって繭が生成されて、あなたの様な転生者が生まれてくるので『転生の里』と呼ばれています」


 は?


 里の名前なんか、どうでもいいけど……俺が転生者? 異世界? 『世界樹』ってゲームでよく出てくるやつかな?

 目の前の女性も、現実を凌駕した美女だし……。

 俺は混乱した頭を精一杯に働かせて、一つの結論に達する。


 うん、やはりこれは夢だな。

 仕事を終えてベッドに潜り込んだ事までは覚えている。


「一応言っておきますが、夢ではありません。それと、もう元の世界に帰る事も出来ません」


 いきなり俺の考えを全否定されてしまった……。

 こ、この美女は、俺の心が読めるのか!?

 いや、夢なら何でも有りだな……何か大切な事を言われた気もするけど、夢なら関係ない。


「もちろん、私は心を読めません。転生者は皆さん、同じ反応をするだけですよ。まあ、あなたの場合は、顔を見れば誰でも分かると思いますよ?

 それで、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」


 おっと。言われて気付いたけど、俺はまだ名乗っていなかった。それどころか、助けて貰ってお礼もまだ言っていない。夢とはいえ、美しい女性を前にして失礼だったと思う。


「俺は、ミツグ・ケンジョーといいます。助けていただいて、ありがとうございます」


 あれ、俺の名前はこんな感じだったか? まあいい。そんな事よりも美女との会話が大切だ。


「いえいえ。長い話しになりますので、ギルドの談話室でお茶でもしませんか? 付いて来てください」


 そう言うと、美女、いやベソルは強引に俺の手を引いて歩き出した。

 ちょっと驚いたけど、もちろん付いて行く。美女からのデートのお誘いを断るはずがないのだ。


 俺を引っ張るベソルの手はとても柔らかく、暖かかった。

 繋ぐベソルの手を軽く握り締めてみると、彼女はしっかりと俺の手を握り返してきた。

 伝わってくる手の温もりは心地よく、不安な気持ちを和らげてくれる。

 この温もりが夢だとは、とても思えなかった……。




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