オレの知らない理奈
夏ホラー2007に投稿した作品です。
オレは気がつくと、妹の恋人の家の前にたっていた。オレは今、妹の服を着ている。といってもオレは女装の趣味はない。だが、原因は妹の理奈『りな』のせいだ。
事故で亡くなった、オレの妹の理奈……。
理奈は、オレのことが大好きだった。
「大人になったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる」とオレにいっていた。
理奈に恋人を紹介されたときも、一番はお兄ちゃんだからとオレにいった。それも、思い出のひとつだ。
もうすぐ梅雨が明けようとする晩に、理奈は車にひかれた。
理奈は、オレを見つけると、道路を渡ろうとした。オレは待つようにいった。
だが理奈は、オレのいうことを聞かずに、オレのところにかけ寄った。
理奈が道路の真ん中にきたとき、雨でぬれた道路で車がスリップして、理奈にぶつかった。
オレの目の前で……。
オレは、倒れた理奈にかけ寄った。そばにくると、理奈はオレにいった。
「ずっと、お兄ちゃんと、いっしょだから……」
これが、理奈の最後の言葉だった。
理奈の葬式が終わると、梅雨が明け夏がはじまった。
それからだ。オレの体とココロは、理奈に少しずつ乗っ取られていた。
はじめてそのことに気づいたのは、理奈の服を処分するので、ゴミ袋にいれて、ゴミの日に出したときだった。でも、次の日の朝、理奈の服は、理奈の部屋のタンスの中にあった。なぜ、理奈の服をタンスにもどしたのかと母親に聞いたら、オレが理奈の服を、タンスにもどしていたと、母親はいった。
はっきりいって、オレはそんなことをした記憶がまったくない。
それからだ。オレは気がつくと、理奈の部屋からCDやマンガなどが、オレの部屋の中に置いてあった。
そんなことが、オレのまわりでたびたびおこり、日を追うごとにひどくなってきた。理奈がつかっていたサイフをもって外へでたり、理奈の腕時計をはめてたりしていた。
正直、オレは恐かった。
オレの時間より、理奈に体を乗っ取られる時間が、だんだん長くなってきていたからだった。
そして、オレの恐れていたことがおきてしまった。オレは、理奈の服を着ていた。だが幸運にも、気がついたのが家の中だった。
オレは、母親に見つかる前に服を脱いだ。
オレは、セミの鳴く声がうるさいので、気がついた。とうとうオレは、理奈の服を着て外に出ていた。目の前には、知らない家の前にオレは立っていた。突然、ドアが開いた。オレは、ドアの前にいた男に見覚えがあった。男は、妹の恋人で、名前は清だった。
「どうしたのです。いったい……」
「とりあえず、家にあがらせてくれ」
「では、ボクの部屋の中で……」清はいったので、オレは、清の部屋でまつことにした。清の部屋は、きちんと整理していた。オレは、机の上を見た。そこには、理奈と清が笑っている写真があった。清も、理奈のことを愛しているのだと、オレは思った。
ドアのノックをする音がしたので、オレはドアを開けると、清が飲み物をもって立っていた。オレは、清がもってきた飲み物を飲んだ。それはむぎ茶だった。が、むぎ茶には砂糖がはいっていた。
そういえば、理奈はむぎ茶が苦いからと、砂糖をいれていた。
だからといって、オレにも砂糖のはいったむぎ茶をだすわけ。
オレは、清に、砂糖をいれなくてもいい、といおうとしたとき、清はオレにたずねた。
「どうして、ボクの家に来たのですか」
「それはだなぁ……」
オレは、正直に今までおこったことを、清に話した。そして、オレが話を終わると、清はオレにいった。
「鏡を見てないのですか……」
「見てないけど、それがどうした……」
清は、部屋の奥にある鏡をもってくると、オレにいった。
「鏡を見て、はやく……」
清にせかされて、オレは鏡を見た。鏡にうつっていたのは……。
理奈がうつっていた。
「車で事故にあって、亡くなったのは、理奈さんではなくて、理奈さんのお兄さんなんだよ」
オレは言葉が出なかった。理奈がオレに乗っ取られたのでなく、オレが理奈を乗っ取っていたというのか……。
「理奈さんが来るまえ、警察から電話があったけど……。理奈さん、なにかしたの」
「知らない。本当に、オレは知らないんだ……」
そのとき、オレの意識が、ほんのすこしだが飛んだ。気がついたら、理奈の通っていた学校の中にいた。
でも、まわりにいた、夏休みなのに、クラブ活動などで学校に残っていた生徒らは、オレを遠巻きに見ていた。
オレは、窓ガラスにうつっている理奈を見た。
理奈の上半身が、真っ赤だった。
オレは、理奈が知らないうちに、どこかケガをしたのかと思ったが、そうではなかった。これは、返り血だった。
いったい理奈は、オレの知らないうちに、なにをしたのだろう……。
遠くから、パトカーのサイレンの鳴る音がして、校舎のセミの声が消されていった……。
テーマにした「大切なものを失うことへの恐怖」をしました。