表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

ガキ大将ストーカー被害 3

 袋から出てきた携帯を見て、シーンと空気が凍る。

 お隣君はパカっと携帯を開き、中を確認している。


「アドレスは?」


「……全部消されてる」


 え~っ!と声をあげる真琴から、お隣君は携帯を遠ざけ、何やら操作している。

 それからお隣君の指が止まり、さっと顔が強張った。


「データフォルダも消されてる」


「えーっ!私の撮り溜めたスイーツとかっ!?一体何で?何のために?」


 本当にー?と確かめようとする真琴に、お隣君は携帯を渡さない。

 取ろうとする真琴を宥め、とりあえずご飯を食べようとテーブルに促す。

 真琴は携帯電話を見ながらも、しぶしぶと従った。

 

 それからお隣君は、携帯の話を避けて、真琴と私に中学時代の話を聞いた。

 真琴の武勇伝をお隣君は苦笑しながら聞いている。

 

 衣替え期間を過ぎ、冬になっても夏服で登校し、生徒指導室に呼び出された話は、数ある真琴のエピソードの中で上位に食い込んでいる。

 制服を改造した、スカートを短くした、華美に化粧した人たちの中に、模範的な制服の着方だが、激しく季節を間違っている子が混じる。

 

 他の子には、学生手帳を読ませ、学校は勉強をするところ、直ちに制服を直せと指導する厳しめの先生も


「先生は、鬼塚が何を考えているのか分からないよ」


 真琴には溜め息混じりのその言葉。

 

 真琴の考えは、冬でも半袖半ズボン、年中早食い出来るやつが偉いという間違った観念があったようだ。

 見ているだけで寒いので、早食いも消化に悪いので、その辺りは女子が協力して認識を改めさせた。

 中学1年生の冬のエピソードだ。

 

 真琴手製のデザートを食べ終わり、さて携帯は…と真琴が状況確認を急ごうとしているのに、お隣君はのらりくらりとそれを交わしている。


「この携帯の解説書、ある?」


「あるよ?」


「持ってきて。もしかしたら、自動的にバックアップ取れる携帯かも」


「え?そんな携帯あるの?分かった、取ってくる」

 

 真琴はアドレス元に戻るかも!と叫んで、部屋に戻った。

 真琴が家を出るのを見届けて、お隣君は例の携帯電話を取り出した。


「真琴は暫く戻ってこないよ」


「そうですね」


 真琴は、どこに何をしまったか把握している性格ではない。


「その携帯…」


「アドレスは消された。データフォルダは…別の画像で一杯になっている」


「別の画像…?」


「見ない方が良い。多分、部屋で撮っただろうから、犯人の手がかりを捜すのに俺が見る」


「顔は写ってないんですか?」


「顔は写ってない」

 

 私は見ない方が良い、部屋で撮った、顔は写っていないと言うキーワードから、何を写したのかは大体見当がつく。

 お隣君は嫌悪感を露に、画像を見ていった。


「最近、ゴルに何があった?」


 私は真琴から聞いた話をお隣君に聞かせた。

 黙って聞いていたお隣君は、はぁっと長々溜め息を吐く。


「俺は何も聞いてない」


 お隣君は天を仰いでから、大捜索をしているであろう真琴の家の方向を見る。


「写真の中に、ゴルのバイト先のケーキ屋の袋が写っていた。他は大体アップで、手がかりは掴めなかったけど」


 何のアップが写っていたのか聞きたくない。


「今日の昼くらいにゴルの携帯番号から電話があった」


 お昼頃、真琴はバイト中だ。

 バイト中に真琴が私用電話をするはずがない。


 その発信者はつまり…。


「自称ゴルの彼氏から。俺が付きまとうから真琴は迷惑してる、真琴から離れろ、真琴と話すなって興奮気味な男の声。咄嗟に録音したけど…ゴルに聞かせて人物特定できるかどうか…」

 

 本当の彼氏だとは思わなかったですか?と言う問いかけにお隣君は癖のある笑みを浮かべた。

 そうですね、これだけ一緒にいれば彼氏の有無くらい分かりますね。


「俺の方も言い返して、挑発しておいた。最後は激昂して携帯切られて、それから慌ててゴルを迎えに行った。ターゲットが俺になるように仕向けたつもりだけど、相手はストーカーだからどう動くか分からない」

 

 私が分かるかもしれないので、録音を聞かせてもらう。

 真琴と俺は愛し合ってるんだ!と言う笑いを含めた声を聞いてゾクッとしてしまった。

 ねっとりとした粘着質な声。

 

 鳥肌が立つ嫌な思いをしたけど、収穫はなし。この声に思い当たる人物はいなかった。


 この携帯、とお隣君は忌々しげに指で弾いた。


「これは証拠として残しておくけど、ゴルには渡さない。この携帯をゴルが使うなんて冗談じゃない。触るのも許せない」


 そう吐き捨てた後、本庄さんもゴルを誤魔化すのに協力してくれと言われた。

 協力は良いんだけど…お隣君がいると心強い。


 頼りないと思って、除外してしまったのが悔やまれる。

 相談するように、真琴に言えば良かった。後悔先に立たずと言うけど、全くその通り。

 

 でも真琴が今のお隣君の写真を見せてくれれば良かったのだ。

 何故に小学生の頃のを…と自分だけのミスではないと自己弁護する。

 

「あったー!あったよ!これ、解説書」


 お隣君の家の廊下を走り、真琴が飛び込んできた。

 お隣君はパラパラと解説書を捲り、首を振った。


「ダメだ、これ」


 お隣君の言葉に、真琴は崩れ落ちた。

 うぇぇ~頑張って探したのに…とわざとらしい泣き声が聞こえる。

 真琴、お隣君に騙されている。

 お隣君は、私と話をする時間を稼ぎたかっただけだ。

 

「でも、もしかしたら直せるかもしれないから、携帯預かっておく」


「え?直る?本当!?じゃあ、お願い」


 更に騙されている。

 お隣君は、携帯を渡したくなかっただけだ。

 アドレスやデーターフォルダは復元しないだろう。


 バタバタ寝転んで乱れた真琴の髪を、お隣君が指で梳いて直している。


「ほら、本庄さんと色々と話をするんだろ」


 うんと返事をしながら、ちゃっちゃとテーブルの上を片付け家に戻る準備をしている。

 切り替えが早い。


「ゴル、明日もバイトか?」


「明日もバイト」


 お隣君は、真琴の送り迎えをする算段を付けている。

 携帯がない真琴とどう連絡を取るか、問題だ。


「最近入る日多くないか?学校も始まったばかりだし、あまりバイトに励むと体がもたないぞ。土日、殆どバイトしているだろう」

 

 そう心配するお隣君に、真琴は少し困り顔をした。


「うん…私も少し減らしたいんだけど。3月末でバイトの子が2人辞めちゃって。人が足りてないんだ」


「あれ?でも、店長が求人して申し込みがあったって言ってなかった?」


 求人雑誌やインターネットに載せる大規模な求人ではなく、店の入口に貼り付けただけの求人チラシ。

 やはり周知は難しく、中々応募が来なかった。


「あー今日その人の面接したらしいんだけど。ケーキとかにあまり興味ない男の人だったみたいで、質問しても上の空で、格好もちょっと不衛生だったからその場でお断りしたって店長が…」


「その面接はどこでやったっ!?」


 勢い込んで聞く私に、真琴が仰け反った。


「当然、事務室だけど……あ!」


「あ!じゃないわよっ!」


 部外者が事務室に入ったって事じゃないの。


 間違いなくその男が、ストーカーの犯人だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ