子分退化論(前編)
突然思いついて、プチ同窓会を開催した。
来られるやつだけ集合と、2,3日前に突然送った誘いだったので、参加者は少ないと思ったが、意外に人数は多い。
みんな暇なのかな~と思った。
ちなみに俺は、バカなので進学しなかった。バカなので就職もしなかった。今の俺の肩書きは、ニートとなっている。
毎日暇だ。毎日、親にバカヤロウ!と怒鳴られている。
その通りバカなので神妙に聞いている。
「そろそろ、みんな集まったか?」
「あーあと2人。野田と鬼塚は少し遅れるって」
「え?誰だっけ?そいつら」
「ゴルゴンゾーラとその子分だよ」
「えー!?あの2人参加するんだっ」
苗字ではぴんと来ない薄情なクラスメート達は、その独特のあだ名ですぐに顔と名前が一致した。
各言う俺も例外に漏れない。堀川から、野田と鬼塚共に参加と連絡を受けて、誰?と返してしまった。
ゴルと子分、と補足説明を受けて嫌な記憶が蘇り、内心びびったのはここだけの秘密だ。
野田はゴルの第1子分という存在だったが、実は俺が第2子分だった。
「あいつら今、何してんの?特に、野田?ミニマムで泣き虫だった記憶しかないんだけど」
「それを怒鳴りながら蹴飛ばすゴルを、俺は鮮明に覚えているよ」
いじめられっ子といじめっ子という印象が強い。常に野田は泣いていて、その野田をゴルが常にいじめている。
「ゴルゴンゾーラ、すっごい巨漢になってそう」
「確かに。柔道選手かレスラーとか…」
「そうかなぁ、いじめっ子だけど妙に正義感があったから警官とか?対ヤクザとか」
「あぁ、それ何となく想像できるわ」
「でもゴルって性別、女じゃなかった?」
ざわっとしていた貸切の部屋がシーンとなる。
え?男だろ?女の子だった気がする、とお互い顔を見合わせ、首を捻る。
「俺、この間ゴルに会ったよ。女の子に間違いない」
ぼそっと呟いた堀川に、視線が集まる。
嘘だー!あれが女だったら、世の中全員女だろ~と全否定の声が挙がる。
うん、その意見は正しい。ゴルが女であるはずがない。
例えゴルが女で、地球に残された最後の女だったとしても、俺は一瞬の迷いもなくホモになるだろう。
「堀川、お前ゴルゴンの近況知ってんの?今、何してんの?」
第2子分の俺としては、ゴルの今が気になるところだ。あの頃最強だった男が、更にパワーアップして登場したら、どう対処すれば良いのだろう。
あと少しで本人が来るから、本人に聞けよと言い渋る堀川にしつこく、聞き続ける。
正直、ゴルに直接聞く勇気はない。
俺が今何やってるかってー?見てわかんねぇーのか?お前をぼこってんだよ!とか言われたら軽く死ねる。
「ゴルは製菓専門学校に通う1年生。パティシエ目指してるんだって」
「「「「………………………は!?」」」」
パティシエって確かスイーツ作る職人の事だったよな?
もしかしてそれ、俺の認識違い?パティシエって言うレスリングみたいな競技があんの?
いや、製菓って言ったから俺の認識は間違っていないはずだ。
「アクロバットにスイーツ作るのかな?」
閃いたと俺はポンと手を打った。
「「「「……は?」」」」
パティシエ鬼塚、コーナーに登場。大きく掲げたのは、チャンピオンベルトーではなく小麦粉だーっ!
試合開始のゴングが鳴ったー!
パティシエ鬼塚、それを量りの上にぶちまける。グラムはどうだ?ジャストミーット!
更にパティシエ鬼塚、砂糖を取り出し、激しくぶちまける。これもジャストミーット!
そのまま一瞬の隙も許さず、卵の握り潰すー。殻が入っても気にしない!流石は王者!
そのまま混ぜる、混ぜる、混ぜまくる!その合間にラリアットー!
バニラエッセンスをちょいちょいと軽く振る!相手を挑発しているようだ!
それらを一つにまとめ、殴打の嵐―。キック、パンチ、チョップ、打撃技の連続、相手に反撃の間も与えないー!とどめのミサイルキーック!
くったりする相手に1ミリの慈悲も与えず、そのままバックドロップでレンジに叩き込むー。
勝利を確信したパティシエ鬼塚―観客にアピール!このまま本当に終わってしまうのかー!
チーン。
試合終了の合図―!真っ黒に燃え尽きたクッキーが引きずり出されたー!こんな一方的な試合があって良いのかー!パティシエ鬼塚の完全勝利―!
「って感じとか?」
「何それ?」
「明らかに違うだろ…」
「ゴルのクッキー、凶器だよな。ほら、良く殺人事件に使われるじゃん。この殺害に使われた凶器は何だ?って。ゴルが作ったクッキーって言われても俺、納得する。色んな意味で」
力説する俺に呆れた視線が集まった。流石に想像を膨らませすぎかと、こほんと咳払いをする。
「あー野田は?あのミニマム野田は何やってんの?」
「W大の学生」
堀川の言葉は、嘘だーっとまたも全否定を受ける。
うん、ありえない。第1子分の野田がW大に入れるわけがない。
「本人に聞けよ」
「うん、野田になら聞ける」
チキン代表、びびりの星である俺も、野田になら軽い感じで近況が聞ける。
小学校の頃の思い出が、野田に親近感を持たせている。
よぉ~今、家で何やってんの?と聞けば野田も答え易いだろう。
「ゴルよりも野田が先に来てくれれば良いんだけどな」
ぼそっと零した俺の言葉を、堀川がさらりと拾って捨てる。
「揃って来るぜ。そもそも洸はゴルのバイト先に迎えに行ってんだし」
「………………は?」
一緒に来るって事か?アッシーってやつか?
でも野田って運転できないだろう。自転車すら乗れなくて、苛立ったゴルに無理やり乗せられて怪我をしていたぞ。
「ゴルゴンのバイト先ってどこの工事現場よ?」
「何で工事現場…。ゴルはケーキ屋でバイトしてるんだよ」
「「「そのケーキ屋、潰れたな」」」
はもった声に、うんうんと俺は大きく同意を示す。
このケーキを残らず買え、買わないとこの潰れたイチゴみたいにしてやるぞとか脅迫して、通りすがりの善良な市民からお金を巻き上げているに違いない。
恐ろしい、ケーキ屋ゴルゴンゾーラ…なんて恐ろしいんだ!
ぶるりと身震いする俺を、堀川が呆れたように溜め息を吐く。
「あのな、あれから何年経ったと思ってるんだ?2人ともあの頃のままのはずがないだろ」
「俺は変わらずチキンだぞ」
「お前はともかく。あの2人は……予想以上に変わったんだよ。ま、本人を見れば分かるさ。とりあえずド
リンク頼もうぜ」
ドリンクメニューを開いた堀川は、ほらっと俺に差し出してくる。
無難にウーロン茶をチョイスし、部屋から顔を覗かせて店員を探していると、美男美女のカップルがこっちに向かってくるのに気付いた。
男は180センチほどあるだろう。均整が取れた鍛えた体なのが、服の上からでも分かる。それだけでも羨ましいというのに、その上に乗っかる顔のレベルも高い。
そんな男の隣にいる女の子も、大きな目が印象的な可愛い子だった。
その子は俺よりも身長が低い。
その子は俺よりも身長が低い。大事な事なので二度言った。
その子は俺よりも10センチくらい身長が低い。大事な事なので具体的に言った。
163センチと、男にしては物足りない身長は、数多いコンプレックスの中でも上位に上がる。
俺より低い身長、それだけで無条件に俺の好みのタイプだ。
「ここ火傷してるけど、ちゃんと冷やした?」
「んーバイト中だったから、仕事が一段落してから冷やしたよ」
男は女の子の手を掴み、怪我の具合を見ている。
けっ!リア充爆発しろ!と心の中で呪ってやる。
「ゴルはそそっかしいところがあるから、気をつけなきゃね」
女の子の小さな手をそっと撫でながら、少し心配そうに苦笑いを浮かべる男。
けっ!いちゃつくんなら人目がないところでやりやがれ!
なぁにがゴルはそそっかしいところがあるから気をつけろ!っつーの!イケメンはどんな台詞もさまになってようござんすねっ。
けっ!リア充爆発………。
え…?ゴルって……?聞こえたような?