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いじめられっ子の告白

「良かった。嫌われてたらどうしようかと…」


 ほぅっと息を吐いて脱力する私。

 そんな私を、探るような目で見る洸。


「子供の頃の話は、今の俺はどうでも良いんだ。今の話、ここからが1番大事な話になる。俺とゴルの間に大きな認識の違いがあるみたいだ」


「認識って?」


「俺は2週間くらい前に、好きだから付き合って欲しいって告白して、返事を保留にされている状態だと思ってたんだけど」


「…………………??」


 告白して返事を保留にされた~??

 え?私に?…だよね?

 

 

 ……全く記憶にないんだけど。


 寄りかかっていたベンチからがばっと身を起こし、記憶を探る。

 2週間前って何日だっけ?何してた時?どういう状況!?


「俺の部屋でDVDを見ていたとき」


「あ!あの日?」


 あの日は雨が降ってたから、洸とレンタルショップ行ってDVDを借りてきた。

 

 私が選んだのは、大帝国を建設した伝説の王の物語。

 騎士とか出てきて、戦闘シーンとか格好良かったんだよね。

 予告編見てうわぁ!良い!って思った映画。

 

 洸は別の話題作を見たがっていた。

 それを私がごり押し。


 パッケージの1人を指差して


「この人、ちょっと洸に似てるし、絶対面白いと思う!」


 とか無理な理由を付けて、粘り勝ち。


 その映画、最初の方はつまらなかった。

 中盤に入ったらストーリーが掴めなくなった。期待していた戦闘シーンでは、もはや誰が主人公で味方なのか敵方なのか分からなくなっていた。

 最後はもう、焦点あってなかった。


 洸が選んだほうにしておけば良かった。

 でもぜーったい面白いとごり押しした手前、途中で切るわけにもいかない。眠らないように気を付けつつも、ラストシーンで意識が飛んだ。


 洸の声が聞こえて、はっと目を覚まして振り返る。

 

「ゴルはどう思ってる?」


 って言われたから


「えーっと…その…」


 返事を濁した。

 

 いやぁ、予想に違わぬ面白さでした!って嘘っぽいし、主役が光ってたね!って主役が誰だか分からなくなったからそれも嘘っぽい。

 

 それに私が、洸に似ているって言った人、無残に死んだんだよね。

 途中、その人の故郷の回想シーンがあって、あれ?これって死亡フラグかもって思ったら、あっさりばっさりちーん。

 

 何か気まずい。

 つまんなかったーとも面白かったとも言いあぐねる私に、洸は


「すぐじゃなくて良いから、考えて欲しい」


 って言った。

 

 あれ?

 洸が私に告白したってことはもしかして


「ゴルはどう思ってる?」


 って映画の話じゃなかったとか!?

 考えて欲しいって会話がちょっとおかしいし。

 

 その時の様子を思い出して、考え込む。


「まさかと思うけどさ。…あの映画のラストってどうなったか言える?」


 洸の問いかけに、冷や汗。


「え?やー良い感じの、…良いラストだったと思う」


「……………寝てたな」


「すみません」


 洸は溜め息をつきながら、髪の毛をくしゃりと乱暴に掻き揚げる。


「何て言おう、どのタイミングで言おうっていっぱいいっぱいで緊張して、真正面から言わなかった俺の失態だな。ゴルがばっと驚いたように振り返ったのも、俺が気持ちを伝えたからだと思ってた」


 寝てて驚いただけなんだな?と洸が深い溜め息をつく。


「…………ゴルはどう思ってる?からは完全に起きてたよ」


「その前が重要だったんだよ」


 洸は言い訳する私の肩に手を置いて、まっすぐに目を合わせた。

 真剣な目で見られて、どきりとする。


「おかしいと思ったんだ。その後も全然態度変わらないし、返事をする気配もないし。もう少し待とうと思ったけど、バイト先のやつと仲良いし、もしかして俺は言外にふられたのかと不安で苛々していた」


「…ごめん」


 これは酷い!

 告白して返事放置。

 



 っていうか。告白。


 …告白。

 


 洸は、私が好きなのだと今更その事実が飲み込めて、かぁっと顔が熱くなる。

 

「もう1回言うからちゃんと聞いて。俺はゴルを、真琴を幼馴染以上に思ってる。俺は真琴が好きだよ、幼馴染としてじゃなくて大事にしたい女の子として、俺は真琴が好きなんだ」


「………………………っ」


 洸の言葉が脳に到達すると同時に顔が真っ赤になった。

 夕暮れも完全敗北を認めるくらいの赤さだと思う。

 

 体中の体温がぼっと上がって、特に顔は沸騰中。

 袖の中の手は汗を掻いて、ぐーぱーぐーぱーと無意識に繰り返す。


 洸の気持ちを正面から感じて、パニック。

 

 宝くじ3億円当たった時みたい。

 当たったって事実より、いつ宝くじ買ったっけ?ってそっから考えて、肝心のすごい事実に気付いていないみたいな。

 しばらくしてうわぁぁぁっ!3億円!ってなる。

 

 ちなみに3億当たった事はないけど。


 でも今、まさにそんな感じ。

 肝心のすごい事実に気付いて、うわぁぁぁぁってなってるところ!


「真琴は俺をどう思ってるの?幼馴染?それとも…」


 真剣な顔で迫ってくる洸に心臓が早く動く。


「ちょっと、ちょっと待ってっ!」


「もうかなり待った。今すぐ答えて」


「えーっと私っ。あのっ………あのねっ」


「落ち着いて考えて」


「無理っ」


 何を言いたいのか私は。

 焦りすぎて何が何だか分からなくなってきた。


「良いから落ち着け」


 ぽんと頭を軽く叩き、熱くなった私の頬に洸は手を当てた。

 うぅっと益々顔に熱が集まったのを感じ、がばっとベンチから立ち上がる。


「あの、そのっ。私…っ」


 洸と目が合わないように、視線を四方に飛ばす。

 そうしながら後退。逃げるつもりはないけど、正常さを取り戻すため。

 

 砂場に踏み入れた足が沈む。


 さらさらの砂に足を取られながらも、もう一歩後退。


「私ね…っ。多分っ洸のこと…っす……ぎゃーっ!」


 その1歩の着地点は、さっき私が落とし穴を作ったところだった。

 ずぼっと沈んだ足で、体勢を崩した私は、後ろ向きに倒れこむ。

 

 砂場だったので、それほどの衝撃はないが、砂をかぶって暫し呆然。

 

 洸が走りよってきて、私にかかった砂を払う。


「何で落とし穴があるんだ。大丈夫か?」


「大丈夫、びっくりしたけど」


 口に入った砂をぺっぺっと吐き出す。

 洸のカーディガン砂塗れになったんだけど…ごめん。


「誰がこんなところに…」


「いや、私が」


「は?自分で作った落とし穴に自分で落ちたの?また?」


「……うん」


 誰かが引っかかる前に、片付けようと思ってたけど、あまりに出来が良いから堀川君に見せようと思ってそのまま取っておいた。


 堀川君じゃなくて洸が来た瞬間に、落とし穴の事なんて忘れたけど。


「目に砂が入ると危ないから閉じておいて。払うから」


「うん」


 それは痛いとぐっと目を閉じると同時に、洸に頭を引き寄せられた。


「…………んっ?」


 口に柔らかい感触を感じ、思わず目を開けると間近に洸の顔があった。


「目を開けると危ないって」


 言われて目を閉じると、2度3度とさっきと同じ感覚を口に感じた。

 腕で洸を押し返し、口元を押さえる。


「………………今のは…」


 暗くてよく分からないか、洸は悪戯した後の子供のように笑っていた。

 ばれた?って言いながら。


「バカーっ!何て事をっ!ハレンチーっ」


「ハレンチって、今時使うか?………嫌だった?」


 顔に付いた砂を払いながら、洸が不安げに聞く。


「やじゃ、やじゃないけど…っでも、…ファーストキスが…砂塗れ……」


 口元についていた砂が、洸のせいで口の中に入ったし。ファーストキスがレモンの味とか信じていたわけじゃないけど、幾らなんでも砂の味になるとは思わなかった。

 

 ちょっとがっくり。


「あ~…ごめん」


「……うん…」


 ナチュラルに流されているけど、私まだ、洸に返事していなかった。


「あのね、私も…洸が好き」


 俯きがちにそう返事をすると、洸がにっこり笑った。

 嬉しそうに私のことをぎゅっとする洸を見て、私も嬉しくなった。


 好きだよ。私も洸が。

 嫌われたと思ってあんなにショックを受けたのも、好きだから。

 

 昔良く遊んだ公園を洸と手を繋ぎながら去る。

 子供の頃は、暗くなって公園にいたことがないから街灯に照らされた風景は、どこか知らない場所のように思えた。

 

 時間は流れたんだなって感じる。

 公園の変化も、私たちの変化も。

 弱虫で泣き虫だった洸はいない。乱暴でガキ大将だった私ももういない。


「昔、苛めてごめん。沢山、泣かせてごめん」


 洸の中にはわだかまりがないようだけど、けじめとして謝罪。

 その言葉を受けた洸は少し黙り込んだ。


「いや。恋愛経験皆無だろう真琴を色々して泣かすことあるだろうから、それはそれで…プラマイゼロってことで良かった気も…」


「どういう意味?」


 ぶつぶつ呟く洸の言葉が良く分からず、首を捻る。

 

「付き合ってる可愛い彼女に、意地悪をしたくなる時もあるってこと」


 洸が言うけど、もっと意味が分からない。


「何で?」


「男の子だから」


「……………?」



 近い将来意味が分かって、大人になってからのいじめっ子の方がたちが悪いなって思った。


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