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ガキ大将、確保される

 

 逃亡生活数日後。

 

 うじうじしていたけど、そろそろ洸と向き合わねばならない。

 逃げてばっかりじゃいけない!と決心。

 

 心新たに挑んだ結果が、ピンポンダッシュ。


 押すところまでは頑張るんだけど、そこからどうも進めない。

 押して、逃げる。

 迷惑行為。 

 

 電話も自分からかけてみようって勇気を出して、ワンギリ。

 勇気1秒、通話なし。

 迷惑行為、第2段。


 ドキドキしてパニックするのが良くないと自分で分析。

 手紙だ。手紙なら落ち着いて書けるし、自分のタイミングで投函できる。

  

 レターセットがなかったので、ルーズリーフで代用。

 書き始めは野田洸貴様へ、かな。


 いや、ちょっと待って。

 色々と洸には謝る事がある。これまでの事とか今の事。

 

 だったら詫び状とか反省文とか書き出しの方が良いかな?

 反省文は得意なんだよね。

 小学校の頃よく書いたから。


 しもばしらを教室に持ち込んですみませんでした。反省しています。

 って書いたこと思い出した。


 しもばしらって春にならないと溶けないものだと思い込んでたんだよね。

 机の中に入れておいたら、泥水になっていてびっくり。

 

 先生に怒られた。

 洸にも預かっとけって渡したから、洸も一緒に怒られた。


 笛にクレンザーつめてすみませんでした。反省しています。

 って書いたことも思い出した。


 笛にクレンザーつめて、吹いたらどうなるんだろって思って試した。

 笛吹いた途端、クレンザーが噴射して前の席にいた洸の髪がピンクになった。


 ピンクのふけを出すなよ~ってみんなにからかわれて洸は泣きながら、髪の毛洗ってた。

 季節は冬で寒かっただろうな。

 落とす為に石鹸使ったらピンクの泡が出来て、カミナリさまだーって更にからかわれてた。


 給食をハシ1本で食べてすみませんでした。反省しています。

 ってのも書いた気がする。


 給食の早食い大会していて、私がいつも1番だったからハンデとして1本で食べるって言ったんだよね。

 1番遅い洸には、少しでも早く食べれるように余った1本貸したんだけど、余計に遅くなった。

 先生にもっと早く食べなさいって怒られてたな。

 私は1番で食べ終わったけど。


 反省文たくさん書いたな、得意だよってそう言う次元じゃなくて。


「やっぱり私、いじめっ子じゃん!」

 

 改めて実感。

 結局手紙は出せなかった。


 どうしよう、と悩んでいると堀川君からメールが来た。

 この間言った事で、話があるっと。


 堀川君なら冷静に話が聞ける、ちょっと洸の様子も聞こうと言う下心もあり、呼び出しに応じる私。

 待ち合わせは、私の家の近くの公園だった。

 昔、良く遊んだ。

 例の骨を折った場所でもある。

 


 公園は記憶よりも広くなっていた。

 遊具が撤去されているせいだ。

 

 がったん漕ぎとか言って、危険に遊んだ箱ブランコもない。

 鳥になるのだ、と思い込んで天辺から飛び降りた登り棒もない。

 スーパーマンって気取って、顔から滑り降りた滑り台もなくなっている。

 


 砂場だけ辛うじて残されていた。

 

 そこで遊んでいた子供たちに、落とし穴の作り方を伝授した。

 穴掘って、新聞紙をピンと張って砂で固定。たわまないように砂をかけて、新聞を隠す。

 完璧。


 こうして技術は受け継がれていく。

 しかし、身を持ってその恐ろしさを知っている私は、作ったら自分で落ちろとも指導。

 どこにあるか分かっていれば、怪我はしない。

 

 子供が帰る時間になって、私は一人公園に残された。

 公園で遊ぶ子供自体が少なくなっている。思い出の場所の価値が、薄れているようで寂しい。

 

 しーんとした公園をぼーっと見ていると約束の時間になって。

 


 向こうからやってきたのは…洸だった。

 




 …堀川君はどこだっ!!

 

 洸が来ちゃったよ。心の準備してないんだけど。

 

 例えてみれば自分が何か罪を犯して、警察が来たってドアを開いたら被害者が立っていてびっくりみたいな。

 被害者は実は警察官だったのか、そうでないけど来てみたのかはどっちでも良いけど。

 

 

 ……堀川君はどこなんだっ!!

 え?もしかして私、堀川君に騙されたっ!?


 あわあわしている私の前に洸が立つ。

 慌てる私とは対照的に、落ち着いている洸。

 落ち着いていると言うか、いつもの洸。


「久しぶりな気がする」


「ごっ…ご無沙汰して…おります」


 何言ってんの?私。

 畏まる私の隣に、洸が座る。

 

 何から話せば良いのか分からず、洸の方を向けない。

 ちらっと公園を入口を見て、ちらっと夕日を見て、ちらっと間を見る私が退路を探していると思ったんだろうか?

 

「くしゅ」

 

 くしゃみをする私に、洸は着ていたカーディガンを着せ、余った袖口を一まとめに握りこんだ。


 確保された犯罪者みたいになった。

 確かにいじめと言う罪の逃亡犯なんだけど。


「逃げないので、離して頂けませんか?」


「ダメ」


 信用がない。

 もうここまで来たら腹を括るのに。


「何で避けてたの?」


「………こっちにも色々と事情がありまして…」


 しどろもどろに言い訳をする。

 

「事情って何?何で避けてたの?」


「それは…嫌だったから…」


「何が?俺が嫌なの?」


 少し尖った問い詰めるような声。

 追い詰められる私。


「…うざいとか言われたら嫌だったから」 


「はぁぁ?」

 

 洸が間のずれた声をあげる。


「何でそんな風に考えたの?順路立てて説明して。ゴルが考えている事が分からない」


 分かりやすく説明して、分かりやすくねと強調される。


 まず堀川君に言われた言葉をまんま伝えた。

 過去の己の所業を分析して、いじめっ子と自覚。現在の己の所業を分析して、はた迷惑なやつと自覚。


 嫌われているかもしんないって気付いて不安になった。

 お迎えも面倒だろうからお断りのメールをして点数稼ぎ。でも結局洸と会って、幼馴染じゃないって言われてショックを受けた。


 西園寺さんに相談したら


「もしかしたら野田は、鬼塚真琴に復讐を考えているのかもしれないな。仲良くしておいて、気を許したところで手酷く関係を絶つ。そうすることで過去の恨みを晴らそうとしているのかもしれない」


 と言われた。

 洸がそんな陰湿なことするかな?ってぼそって言ったら、西園寺さんがショックを受けていた。


「い…陰湿っ!?」


 西園寺さんに言ったんじゃないのに。


 でも苛めたほうはすぐに忘れるけど、苛められた方は一生忘れないって言うし。

 色々洸は被害に遭ってたな、嫌われてもしょうがないって納得しつつも直接言われるのはやっぱり嫌で、逃亡。


「ぜんっぜんっ!違うから。良くもまぁ、そこまで斜めに展開したよな」


 呆れたような、でも安心したような洸の声。

 洸はベンチから立ち上がって、公園を見渡した。記憶の中よりもずっと閑散としている公園。


 洸は懐かしそうにすっと目を細めた。





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