ガキ大将危機一髪 4
鬼塚真琴に続きのマンガを貸そうとしたところ、端の方に噛み痕を発見してしまった。
「すまん。少々読みづらいかもしれん。ロッソが、飼い犬が噛んでしまってな」
マンガを渡しながら、不手際を詫びる。
マンガに関しては妥協しないのが、私のポリシーだ。
「え?犬飼ってるんですか?」
鬼塚真琴が興味津々と食いついてきた。
ふむ。鬼塚真琴は犬が好きなのだな。
これは良い事を知った。
「今度散歩に来るか?ロッソは人懐っこいから鬼塚真琴に遊んでもらいたがると思うぞ」
ロッソを餌に鬼塚真琴を誘い出す。
野田に遅れを取っている分、取り戻さねばなるまい。
しかし鬼塚真琴とは一緒にいればいるほど、友達のノリになってきた。
可愛い外見だがそれに見合わず、さばさばしているので話をしていても楽だ。
視点や感想は全く違う時が多いが、マンガの話で盛り上がるのも楽しい。
まずい…どんどん曲がって軌道修正出来なくなってきた!
楽しいからいっか!と思っている自分が一番まずい!
うーん…。
推理マンガの主人公の周りで死んだ人間の数を数えながら、これからの計画を練る。
しかし、どうも以前よりもやる気が減ってしまった。
この間、ただ券があって期限が明日まで、と誘った映画も
『ごってごての恋愛か、阿鼻叫喚なホラーで、2人の距離を近づける』
と考えていたのに、実際見てしまったのはマンガ原作のスポコン映画。
いや、マンガはマンガでよかったが、映像化したものも中々の出来であった。
野球はあまり興味なかったが、青春のスポーツだと思わされた。
あのボールとバットには夢が詰まっている。グローブには希望が溢れている。
そのまま鬼塚真琴と私は、バッティングセンターへ行き
「甲子園に行くぞー!」
と叫んで注目を集めた。
「まずはバットに当ーてーろー」
と言う無礼な野次も飛んできたが。
うむ、楽しかった。
良し!
鬼塚真琴への復讐は野田に任せることにして、私は友達としてやっていこう。
マンガを語り合える仲間を失うのは惜しいしな。
全て託すぞ、と言う視線を鬼塚真琴を迎えに来た野田に送った。
以前よりも鋭い視線で返された。
敵意なんて軽いものじゃない。
野田は私をライバルだと思っているようだ。
違うのだ。
私は、もう鬼塚真琴に復讐する気がなくなったのだ。
最近、鬼塚真琴と頻繁に遊びに行っていたからだろうか?
次の日、鬼塚真琴が泣き腫らしたような顔で出勤してきた。
多分、貸したマンガのせいだ。
実は私も泣いた。
時は平安。
将来を誓い合った初恋の君を守ろうと奮闘する姫君。
しかし謀反を起こした初恋の君は、重症を負って消息が不明。
姫君は心と体に癒えぬ傷を抱えたまま。
生きててくれ~と泣きながら叫んだ夜。
そんな私にロッソが吼えた。
鬼塚真琴の赤くなった目を見てみぬ振りするのが、マンガ仲間としてのエチケットと言うものだろう。




