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ガキ大将危機一髪 1

 ふ…ふははー。

 

 ついにこの時がやって来た!

 あの宿敵、憎たらしいガキ大将である鬼塚真琴に復讐するこの時が!

 

 私の名前は、西園寺蘭(さいおんじらん)


 名前からも外見からも、溢れるオーラからも私の気品が伝わるだろう。

 父方のおばぁ様がロシア人で、その血が強く出たのか、金色の髪に青い目の美しい容姿を持つクォーター。

 由緒正しき生まれであり、地位と名誉を欲しいがままにしているこの私。

 

 そんな高貴な私だが、とても、非常に、この上なく残念なあだ名が付いている。

 

 西園寺ボン。

 

 このあだ名を付けたのは、あの憎っくきガキ大将鬼塚真琴だ。


 あれは私が小学校6年生、鬼塚真琴が3年生の頃の事だった。

 私は有り余る財を使い、友達と言う名の使用人を連れて、下級生のクラスにやってきた。

 流行の文具やおもちゃを、給与代わりに支払っている使用人に鬼塚真琴のクラスを調べさせた。


「おい、そこのお前」


「俺かぁ?」

 

 振り返った鬼塚真琴は、沢山の子分とちゃんばらごっこをしていた。

 

「お前、ゴルゴンゾーラとか言うあだ名があるそうだな。なるほど、粗野で野蛮なお前にぴったりなあだ名だ。そこでだ、お前のネーミングのセンスを見込んで、私に呼び名をつけて貰いたい。高貴で美しく、優雅な名前だ。ナポレオン・ボナパルト、オリヴァー・クロムウェルのような響きが良いものを頼む。名づけた暁にはそれを広く流布して欲しい」


 さらっと髪を風に遊ばせて、美しい顔を見せる。

 私の顔をじっと見ていた鬼塚真琴は、暫くしてポンと手を叩いた。


「ボンゴレ・ビアンゴ」


 ボンゴレ・ビアンゴ…。

 うむ、中々良い響きだ。


「もしかしてそれは実在した人物か?」


「人物じゃねぇけどあるぜ!」


「そうかそうか。まぁ良い。して、それはどこのものだ?」


「あー?母ちゃんが言ってたからあんまし良く覚えてねぇけど、イタリアじゃね?」


「イタリア、トレンディだな。ふむ、良いな。それにしよう」


「おう!じゃーな」


 と言って鬼塚真琴はちゃんばらごっこに戻っていった。


 ヴォンゴレ・ヴィアンゴ、高貴な感じだ。

 巻き舌で呼ぶのを義務付けよう。

 

 図書館へ行き、鼻歌交じりに辞典を開いた。


 ヴォンゴレ・ヴィアンゴ、響きが良いな。

 ペラペラページを捲る。

 ボ…ボ…ボン…ボンゴレ…。


「アサリじゃん。アサリのパスタじゃん」



 おっ…おのれ~!

 鬼塚真琴め!

 まさか、この私を(たばか)るとは。


 私が思ったとおり、知名度がある鬼塚真琴が名づけた私のあだ名は、学校全体に流布された。

 知らない奴からもボンちゃんと呼ばれるこの屈辱。

 

 この恨み晴らさでおくものか!

 そしてついにチャンスがやってきた。

 

 この間、鬼塚真琴のクラスが同窓会をしたらしい。そこで衝撃の事実が発覚した。

 何と!鬼塚真琴が、女だったと!

 

 まさかあの成りで、性別が女とは。しかしそれは好都合。

 鬼塚真琴は、大変可愛く成長したと言う。

 

 しかしやつのことだ。

 恐らく恋愛スキルは低いに違いない。

 そこで高貴ある私が言い寄り、鬼塚真琴をメロメロに惚れさせて、ボロボロに捨ててやろう!

 


 今こそ!あの時の恨みを晴らすべき!

 

 ふふ…ふ…。そう、恋愛小説のような甘い夢を見せてやろう。

 はははーっ!高笑いが止まらない。

 


 鬼塚真琴の学校の前で待ち伏せる。

 そこで私は、鬼塚真琴に一目ぼれをする予定だ。


 向上心溢れる私は、参考に少女マンガを読み漁った。

 出会いの定番は


『遅刻しそうな女の子が食パンをくわえて走り、曲がり角で男にぶつかる』


 と言うものだそうだ。

 これは鬼塚真琴に食パンを銜えさせる行為が難しく、却下だ。

 

 パン屋を雇って鬼塚真琴に


『これ、新商品です。召し上がってください』


 と食パンを渡させることも考えたが、やつの得意技の一つに早食いがある。

 その場で食べきられたら、無意味な行為になってしまう。

 

 次なる少女マンガの設定は


『落し物を拾って、これあなたのじゃないですか?と声を掛けたのが初めての出会いだった』


 しかし鬼塚真琴の私物を手に入れるのは難しい。

 そこで私は考えた。


 シナリオはこうだ。


「これ、あなたのじゃないですか?落ちてましたよ」


 と手を差し出す。

 その手に何もないので不思議そうに


「私は何も落としてないです」


 と答える鬼塚真琴。

 多分その時、鬼塚真琴は私の顔を見て、な…なんて素敵な人…っとうっとりしているはずだ。


 その隙を逃さず


「落としたでしょう。私の手の中にあるあなたの恋心を」


 と耳元で囁けば、鬼塚真琴はもう私にメロメロになるだろう。

 

 ふふふ…はははーっ!

 と笑っていれば、鬼塚真琴が出てきた。

 

 ふむ、確かにあの頃の面影がないほど、可愛くはなっている。

 しかし外見の変化で、物の本質を見極められないほど、私は愚かではない。

 鬼塚真琴、いかに外見が変わろうと憎くむべき相手よ。

 

 鬼塚真琴が私の前を通り過ぎる。


「君、これを落とさなかったかい?」


 振り返るだろう鬼塚真琴に、最高の笑みを向ける準備をする私。


「…………………」


 全く振り返りもしない鬼塚真琴は颯爽と去っていった。

 呆然とした私は、鬼塚真琴の耳にはイヤホンが入ってるのに気付く。


 くそっ。私としたことが抜かった。


 私の美声に振り返る計画が、元より聞こえてなかったとは。


 ふ、ふふ。まぁ良い。計画は一つではない。


 鬼塚真琴は、駅前のケーキ屋でバイトしているようだ。

 そこでの出会いを少女マンガ風に演出してやろう。


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