疑惑のいじめられっ子(前編)
僕はみんなから恐れられていて、友達が1人もいない。
僕が授業をサボっている不良とか、親がヤクザとか、ビームが出そうなほど目つきがやばいとかそういった原因ではない。
みんなが僕を恐れたきっかけは、骨密度だった。
もとから虚弱で有名だった僕だが、学校で行われた骨密度の測定で、その名は更に高まった。
こいつの骨密度、やべぇ!ヘタに触ったら死ぬんじゃね?
すれ違って肩ぶつけて「いってぇ、骨が折れた!慰謝料払えっ」って絡んでくるやついるけど、こいつの場合、マジで折れてる可能性あるよ。
やべぇよ、こぇーよ、近寄るのやめよーぜ。
お前、骨粗鬆症って言える?
こつそそーそー。
やーい、言えないでやんの。
お前らは言えんのかよ。
僕はいつも1人で、友達がいなかった。
痩せていて、顔色が悪く、声が小さく、虚弱を納得される外見だ。
そんな僕でも、何とか無事に大学に入ることが出来た。
辛うじての補欠入学だった。
大人になって少し改善されたとは言え、依然虚弱体質の僕は構内の人混みに耐え切れずに、貧血を起こして廊下の隅に蹲っていた。
みんなが見てみぬ振りをする中で、僕を保健室に連れて行ってくれた親切な人がいた。
その人の名前は野田洸貴君。180センチの格好良い人だ。
芸能人というほどではないから、騒がれるわけではないけど、講義中など周りより飛び出た顔が整っていればそれなりに注目を集める。
僕とは相容れない人種だろうな、と思ってそれ以来遠巻きにしていたけど、一緒の講義になった時に野田君から話しかけてくれた。
あの日はちゃんと無事に家に帰れたか?って聞いてくれて、未だに馴染めなくて落ち込んでいた僕はその一言に救われた。
僕は顔色が常に悪く、顔も常に悪い。体は細いのに、顔がでかい。しかもその顔は将棋の駒のような不思議な輪郭をしている。
所謂、キモ面と言われる部類で、その事をからかってバカにする人は沢山いた。
庇ってくれるのは本の少しの人たち。正義感や義務感や自己満足で、僕を庇う人たち。
僕をからかう人たちよりもその人たちの方が嫌だ。
その時僕を庇っても、その場限りのこと。ならば放っておいて欲しい。
だけど野田君は真っ向から僕を庇ってくれるんじゃなくて、さり気無く話を変えてくれるとか、そこから連れ出してくれるとか、事を荒立てないようにしてくれた。
僕が野田君に崇敬の気持ちを持つようになるのも無理のないことだった。
そんな敬愛する野田君は疑惑が多い男だった。
疑惑の元は、野田君が手帳に挟んでいる一枚の写真。
精一杯顔を顰めていーって歯をむき出しにしている男の子のアップ。
バックから運動会の時に撮ったものだと分かる。
半袖、半ズボンの小学生の男の子。
その写真から
野田君、ショタコン疑惑、浮上。
いいじゃないか!野田君は、いつまでも少年のようなピュアな心を持ってるから、同じようにピュアな少年を愛するんだ、と僕は必死に野田君をフォローした。
その後、写真の男の子が、元クラスメートと判明。
つまりは野田君と、同い年。
それ以降
野田君、ホモ疑惑、浮上。
一緒にいてそんな素振り見たことないし、僕もそんな視線を感じた事ないし、アイドルの話とかもするから、僕は否定したけど誰も聞いていない。
でも元クラスメート(しかも少年)の写真を普通、大事に持ち歩くか?と言われると返す言葉がない。
良いじゃないか!野田君は…とフォローしようとすると思わぬ援軍。
怪しげな小説や漫画を読んでいる女生徒たち。
ちょっと前から、男同士の恋愛が流行り出し、BLというカテゴリーが出来た。
野田君の外見ならホモでも許せる、むしろホモ希望と楽しそうにはしゃいだ女生徒たちは、その写真を見て一気にテンションダウン。
BLの世界ではイケメンしかスポットライトを当てられない法則がある。
写真に写っていた少年は、元気印って額に書かれていそうなほど躍動感に溢れる少年。
いいじゃないか、それと思ったが、ドン、ドン、ドシーンって擬態語が付きそうながっちりした少年というのがアウト。
このまま大きくなったら、関取みたいな弾力溢れる巨漢か、筋肉もっりもりのマッチョかといった有望具合。
細マッチョは好みの範疇だけど、マッチョは嫌っていうのが女生徒たちの主張。
そうなんだ、マッチョ駄目なの?ピッチピチのTシャツ着て、筋肉アピールのするのは嫌悪の対象?
確かにボディビルダーみたいにポージングとかされたら、男の俺だって嫌だけど。
しかしそれから写真の子は少年ではなく、少女と判明。
先生と友達を困らせるの大得意、悪がき代表!みたいな子だったから、少女と聞いてびっくり。
でも子供って中性的だから、少女と言われれば納得するしかない。
それ以降
野田君、ブス専疑惑、浮上。
いいじゃないか!野田君は外見に捕らわれない、心で人を見られる素晴らしい人なんだ!と僕はフォローした。
いつも野田君を庇い、野田君への憧れを隠さない僕にもホモ疑惑が浮上。
僕と恋仲だと言う噂も立ち、ガリ専疑惑浮上。
色々ミックスされて
野田君、マニアック疑惑、浮上。
現在一番の主力候補。
「野田君」
「んー?」
野田君は真面目だ。授業をサボる事もないし、きちんとノートを取って、真剣に講義を受けている。覚えが悪くて、人よりも勉強しないと、遅れを取るんだって。
野田君は自己評価が厳しい。
「野田君に色んな疑惑がかけられているよ」
「そうらしいな」
ノートにペンを走らせながら、何てことないように答える野田君。
真面目だな、この講義は専門外で、単位のために受けているものだ。当然講義内容もきつくないし、求められるものも難しくない。
「違うんなら、否定した方が良いよ。牧田君が面白半分に広めているから」
勿論、みんながみんなそれを鵜呑みにするわけじゃないが、話のネタに上げられたりしている。
噂の出所は同じ学部の牧田君。
牧田君はお調子者で、顔が広い。
場を盛り上げてくれる人ではあるんだけど、詮索好きで、人を中傷するような悪口や、憶測の域を出ない噂も平気で口にする困った人でもある。
野田君の写真を根掘り葉掘り聞いて、面白おかしく話を脚色して吹聴している。
それでも野田君は牧田君や自分の悪い噂を気にした様子がない。
やっぱり野田君は、クールで格好良い。




