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ガキ大将進化論

著作権に引っかかり、再度書き直したものです。僅か数時間で手直ししたので、誤字脱字があるかもしれません。

空白部分を入れたほうが読みやすいよ~と言うありがたいアドバイスを頂いたので変えてみました。

ついでに文章も少々手直し中。

 俺、野田洸貴(こうき)が小学校4年生まで住んでいた千葉の学校にはガキ大将がいた。

 体が大きく、腕力が強く、自分勝手で横暴で、俺は良く泣かされていた。

 

 大切に取っておいたプリンが、いつの間にかそいつに食べられていたり、頑張って飲んでいた牛乳を無理やり強奪されたり、持ってきたはずの教科書が忘れたはずのそいつの手にあって俺が怒られたり、勝手に宿題を写して、間違えれば叩かれたり、ともかく散々な目にあった。

 

 放課後職員室を30回ノックしてから逃げるという、ピンポンダッシュならぬトントンダッシュが流行った時も、被害にあったのは俺だけだった。

 逃げる際に転んで、1人で叱られた。

 俺は見張り役で、実行犯はそいつだったのに。

 

 使い終わってチョークの粉が付いている黒板消しを振り回し、煙幕ゴッコをやっている時もそうだ。

 机や床が粉だらけになって、俺が1人で掃除した。遊んでたやつらは、忍者ゴッコに切り替えて、その場から逃走。

 

 相撲ゴッコが流行った時もそうだ。白熱して倒れこんできたそいつの下敷きになって、俺は顔面殴打、鼻血を出した。

 俺は土俵のヒモを作っただけで相撲はやってないのに、そんな遊びするから怪我するんですっと先生に怒られた。

 

 今思えば、子供の領域を出ない小さな悪事だったと思う。

 しかしその頃の俺は、そいつが凶悪犯に見えていた。親や教師に訴えても取り合ってくれない。

 

親に至っては、いじめられる弱い俺が悪い!と叱咤される始末。

 怪我をして帰ってくれば、そいつの親に苦情を言うどころか、問答無用で空手道場に放り込まれた。

 4年になって、親の都合で島根に転勤するまで、俺はそいつの子分のままで被害に遭い続けた。

 

 転校してからは、島根の空手道場に通った。

 そいつに散々な目に遭わされて、いつかやり返してやるという負のやる気に溢れていた俺は、娯楽が少ない事もあり、メキメキ上達していった。

 

 中学に入る頃に、俺は成長期を迎えた。

 竹の子のように日々にょきにょき伸びる俺を見て、母親はまた服を買い替えなきゃ、とぷんすか怒っていた。

 俺のせいではないと思う。両親とも背が高いので、俺の身長が急激に伸びたのも遺伝だと思われる。

 

 高校に入る頃には、180センチに到達していた。

 チビと呼ばれ、いじめられた面影はもうない。

 

 そんな俺は、大学を都内に志望していた。島根もいい場所だが、今後のことを考えると、やはり都内にいたほうが色々と有利になることが多い。

 

第一志望の大学に受かり、俺は懐かしい千葉に戻ることとなった。

 千葉のマンションは借家ではなく、父親の持ち家だ。家を買ったのに、転勤するという何とも無駄が多い使い方となったが、ちょくちょく人に貸し、家賃収入が入ったのでよしとしよう。

 

今は空き家なので、俺の進学は渡りに船だった。

 空き家にしておくと防犯上や設備上不具合が多いので、両親共に喜んで送り出してきた。今更親がいないと寂しいとは思わないが、一人息子が可愛くないのだろうか?

 両親とも育て方がスパルタ過ぎる。


「何かあれば電話してきなさいよ。そうそう、隣の鬼塚さんにあんたが戻るからよろしくって連絡しておいたわよ。鬼塚さんちの子とあんた、仲が良かったでしょ」


「いや、仲良くないし」

 

 泣かされて帰ってきた息子を何度も見ておいて、良くそんな表現を使えるものだ。


「送った荷物の中に菓子折り入れておいたから、ちゃんと挨拶してきなさい。今後、お世話になることあるかもしれないし」

 

 荷物の中を漁ると、島根では有名な銘菓が入っていた。

 俺は時計を見て、失礼に当たらない時刻なのを確認して、隣の家に向かった。


「あらーやだぁ!大きくなって!洸ちゃんじゃないみたいだわ~。入って、入って」

 

 あの頃よりは確実に老いた、けれど変わらない明るさでおばさんが出てきてくれた。


「いえ、本日はご挨拶だけさせていただこうかと…」


「少しくらい良いじゃない!ね?真琴もそろそろ帰ってくるから」

 

 鬼塚真琴、例のガキ大将の名前だ。真琴という名は似合わず、違和感がある。

 そいつには名前よりもぴったりなあだ名があった。

 


ゴルゴンゾーラ。

 ゴルゴン鬼塚。

 

その頃はそれがチーズなんて知らなくて、でもそいつにぴったりな響きだと思った。マグロ軍艦も候補に挙がっていたが、ゴルゴンゾーラが勝った。

 そいつ自身その呼び名を気に入っていて、俺にも「ゴル様と呼べ」と強要してきた。


「ゴ………真琴君は今、何をしているんですか?」


「真琴はね、4月から製菓専門学校に通うの。パティシエになりたいって言っててね」


「…………へぇ……」


 ゴルの大きな体を思い出し、俺は引き攣った笑いを浮かべてしまった。俺もかなり体が大きな方だが、多分その上を行くだろう。

 

 冬でも半袖、半ズボンがポリシーだったゴルのがっしりとした腕を今でも思い出せる。

 半袖半ズボン、俺もつき合わされて、俺だけ風邪を引き、一週間学校休むことになった。

 

 もし今もそのポリシーを貫き半袖半ズボンを履いているとしたら、露出された部分から見える上腕三頭筋とか大腿四頭筋とかが凄そうだ。

 

 俺も鍛えているので、簡単に負ける気はしないが、力技で来られたら少し自信がない。

 ウェイトの差は、トレーニングだけでは埋められないものがある。


「真琴は今、駅前のケーキ屋でバイトしているの。勿論、作っているわけじゃなくて、売っている方だけどね」


「…………へぇ……」

 

 顔が物凄く引き攣っている。

 ケーキ屋の制服は、殆どが女の子向きのイメージがある。

 それを筋肉隆々のレスラーかラグビー選手かと思われる男が身に付けていたら、それだけで視界の暴力だ。

 

 ゴルが現れたら、昔いじめられた嫌味を一つくらい言ってやれと思っていた気持ちが薄れた。

 もしゴルが真剣にパティシエを目指しているなら尚のこと。今は男女平等の時代、パティシエは男も女もなっていておかしくないものだと思う。

 

 しかしゴルには厳しい世界かもしれない。

 

 筋肉もりもりの男のグローブみたいな手で作られたお菓子より、ふりふりのエプロンと、バニラエッセンスが似合う可愛い女の子が作ったケーキのほうが、どうしても美味しく感じてしまう。

 売るにしてもそうだ。

 ゴルがデコレートされたケーキを持っているだけで、何だか気持ち悪い。

 

 バイト、大丈夫だろうか?初日でクビになったりしないだろうか?

 学校、大丈夫だろうか?皆に避けられて、実習に参加させてもらえなかったりしないだろうか?

 

 ゴルの今後が酷く心配になってきた。

 子供の頃、確かにいじめられた。でもゴルには陰湿なところはなかったし、助けてくれた時や、守ってくれた時もあった。

 だから俺は、嫌だなとは思っていても本当の意味で嫌ってはいなかった。


「これ、真琴が作ったクッキー」


 と出されて、俺は小さく唸ってしまった。

 甘みがあっさりとしたクッキーは細かく砕いたナッツが入っていて、美味しかった。美味しいだけあって、ますます残念な気持ちになった。


「ただいまー。洸が来ているんだって?」


 パタパタと軽快な足音で、リビングに駆け込んできた…ゴル…?


「うわぁ、久しぶりだね~すっかり大きくなっちゃって。母さんからのメールがなかったら、分かんなかったかもしれない」


 バイト先で染み付いたのか、甘い匂いを纏わせながらゴルが笑いかけてきた。

 俺よりも遥かに小さい。

 俺の胸くらいしかない身長も、懐かしいーと言いながら俺の服を掴むその手も、全部。

 

 俺よりもずっと小さい。


「…………………」



 母さん、事件だ。

 大事件が起こった。

 ゴルが…性転換をしてしまった。


「荷物、玄関の前に出したままだったよ、一緒に片付けてあげる。昔のよしみで」


 俺はぼーっとしたまま、ゴルに手を引かれて自室へ戻った。

 玄関に置いたままのダンボールを、中に入れようとゴルが引っ張っている。

 そのダンボールを持ち上げ、それがあまり重くないものだと気付く。

 

 この程度も持ち上げられないのか?

 

 筋肉隆々と想像していたゴルの腕を実際に掴む。

 小さくて、白くて、柔らかい。

 

 俺の指が余るほど細く、これはもしやホルモン注射でもしたのだろうか?

 最近の医学は進んでいると聞く。

 しかしまさかこれほどまでとは思わなかった。


「ねぇ、洸は4月からW大学に通うんでしょ?何学部志望なの?」


 優しいトーンの声が聞こえる。

 俺は無意識にゴルを引き寄せて、喉の確認をしてしまった。喉仏がない…まさかこれも手術で取ったのか?

 でも傷跡が全くない。

 

 ヒゲもない。全くない。まじまじと目を凝らし、ゴルの顔を見る。

 永久脱毛とか?

 

 ヒゲがない上に顔がちっさい。

 口もちっさい。昔、ゆで卵丸呑みとかしていたけど、今も出来んの?その口で?

 

 そのちっさい口から見える歯もちっさい。

 昔、噛み付かれて泣き喚いた記憶があるけど、本当に痛かったんだろうか?

 力いっぱい噛まれても、仔猫の甘噛み程度の威力しかなさそうだ。


「洸、聞いてる?」


 あまりの事態に、回路がショートして反応を返さない俺に、ゴルの少し怒ったような声が聞こえる。

 昔は、気に入らない事があればすぐに手が出た。

 聞けや、こらぁっと胸倉掴みかかってそのまま突き飛ばしていたはずだ。

 

 それなのに何?そのちょっと口尖らせた不機嫌そうな顔。

 怒ってます、って顔しているつもりだけど全然怖くないその顔。


「……どういうこと?」


 どういうこと?と言いながら、流石に医学の力ではないことは分かっていた。


「………女だったのか…?」


 俺の呟きに、何を今更?とゴルが呆れた表情を浮かべた。

 いつも太い棒を持って、それを振り回しながら、子供たちを引き連れ威張り散らしていたガキ大将、通称ゴルゴンゾーラ。

 

 そいつにいじめられていた俺は、いつかやり返そう、見返そうと体と心を鍛えた。

 

 心身ともに強くなり、大人になったそいつと再会した。お互い大人だし、昔の事は水に流して、お隣通し仲良くやっていければ良いなと思っていた。

 ただゴルが昔のように横暴で腕力で物事を解決しようとするなら、俺も力で対抗しようと思っていた。

 

 だから今、非常に困惑している。

 そのガキ大将が、実は女の子で、どうすれば良いのか分からないほど小さくて可愛いから。

 がっくりと項垂れると、どうしたー?とゴルが俺の様子を伺ってくる。


「ちくしょう…っ…」


 この再会はあまりにも。



「……可愛すぎるっ…」


 予想を超えていた。



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