煙草の妖精
俺は煙草を口に咥えた。もう長い事俺の相棒を務めているジッポライターで火をつける。
軽く吸って、最初の一口を吐き出した。
くゆる煙の中に、君の影を見た。
「やあ」
俺は言った。
「やあ」
俺を真似て君は言う。
「会いたかった」
「知ってる」
君はいつも俺の先を行った。
「俺の心が枯れた井戸みたいになっていることも?」
「ええ、知ってる?」
「じゃあ、俺から伝えることは何もない」
「そうね」
俺は妖しく踊る煙を見つめて、口を閉じた。そして、君からの言葉を待つ。
「私のことはどれくらい知ってる?」
「何も、まるで」
「でしょうね」
君は大人の微笑を顔に浮かべた。その表情がとても似合っていて、僕は手元にカメラがあったら、と思った。
「私のこと知りたいと思う?」
「そりゃ、もう」
「でも残念。あなたには教えられない」
「何故?」
「あなたさっき、心が枯れた井戸みたいって言ったでしょ?」
「確かに言った」
「枯れた井戸っていうのはね…」
「死んでるのよ」
そして君は短くなった煙草を俺の口から取り上げ、それを消した。
(さようなら、また月が綺麗な晩にどこかで)
俺はライターを手で弄りながら君を想った。