第三話:日常の裏側
(───はっ!?あまりに衝撃的で今日の出来事が走馬灯のように……)
「おい大丈夫か?」
そういって美少女は話しかけてきた。腰まで届く黒い髪、黒く澄んだ瞳、モデルのようなスレンダーな体型。道端ですれちがったら百人中百人が振り替えるだろう。
しかし一つ変な所があった。美少女は巫女服を着ていたのだ。神社ならともかくこんな町中では絶対に見掛けないだろう。
(近くに神社あったかな?)
「おいっ!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です!」
「ならいい」
「グウゥゥ…」
吹き飛ばされた鬼が立ち上がった。邪魔された事に腹が立ったのか美少女のことを睨みつけている。
しかし美少女は少しも怯むことなく平然と鬼を見ていた。
「お主はさがっておれ」
澪児はおとなしく指示に従った。
「鬼ごときが我に逆らおうとはな…。来い雑魚!」
「グォォォ!」
鬼は美少女に向かって真っ直ぐ突進していった。しかし美少女は避けようともせずただ右手を前にかざしただけだった。
鬼がぶつかる瞬間美少女の右手が輝いた。
「去れ。雑魚」
パン!
右手に触れたとたん鬼は吹き飛び、空中で破裂してしまった。
あたりに鬼の肉片が散らばり血の臭いがみちる。それに澪児は顔をしかめた。この惨状を生み出した張本人は特に気にしていないようだった。
「怪我はないか?」
そう言いながら美少女が近付いてきた。
「一応大丈夫です。ずっと走っていて疲れましたが…」
「そうか。我が夫に怪我がなくてよかったよ…」
「……はぁ?」
(今なんて言った!?お、夫って言ったよな。夫って……あれのことだよな…。ふ、夫婦の…、いやまて今この人とは出会ったばかりなはずだし……)
「どうした夫よ?や、やっぱりどこか怪我してるのか!?」
心配そうに美少女が顔を近付けてきた。澪児は少し下がり、
「本当に大丈夫ですって。それよりも聞きたい事があるんですけど…」
「なんでも聞くがよい。我が夫」
嬉しそうな顔でまたそんな事を言った。
「その〜…。今、俺の事を…お、夫って言いましたよね。なんでです?」
「そのままの意味だと思うが?我とお主が夫婦だということだよ」
「だからなんで夫婦なんですか!?まだ会ったばかりだっていうのに…」
「我じゃ不満か?」
少し悲しそうな声だったので澪児は慌てて、
「い、いや決して不満というわけではなくてむしろ嬉し…いやそうではなく…」
「ふふふ、冗談だ。いきなり夫婦なんて言われれば誰でも戸惑うだろう」
(からかわれた…)
澪児は少し落ち込んだ。
「事情を説明しようと思うのだが…その前に場所を変えよう」
そういって美少女は歩きだした。
(とりあえずついていくしかなさそうだ…)
澪児も歩きだそうとしたとき、急に美少女が振り返った。
「そういえばまだ我が夫の名前を聞いてなかったな。名前はなんという?」
「澪児です。巽澪児。え〜とあなたの名前は?」
「我の名は瀧。よろしくな澪児」
瀧の満面の笑みに澪児はみとれてしまった。
瀧に案内されてきたところは澪児も良く知っている場所だった。
水治神社…このあたりで一番大きい神社で代々龍を奉ってきたらしい。ちなみに同級生の穂村加奈子はここの神主の娘だ。
(加奈子と友達なのかな?)
「どうした澪児?」
「なんでもないです」
「ならいいが…。よし、あそこの小屋ではなそう」
そういって本殿の側の小屋へ向かった。
この小屋は物置として使われているのか色々と物が溢れていた。その中になんとか座るスペースを見つけ、向かい合い座った。
「何から話そうか…。よし、まずはあの鬼について話そう」
鬼…
澪児はその言葉を聞いてあんな化け物に追われてよく無事だったなぁ、と改めて恐怖を感じた。
「鬼は妖怪の一種だな。どんなものかは…追われていたからよくわかっているだろ?」
澪児は頷きつつ、
「妖怪ってことは他にもあんなのがいっぱいいるんですか?」
「たくさんいるぞ。あ、ちなみに鬼は下級妖怪でまだ弱い部類に入る」
「あんな化け物でも下級なんですか…。というかあんなのが暴れてるっていうのになんで騒ぎにならないんてすか?」
「全ての妖怪が悪事を働く訳ではない。それに無差別に人を襲うって訳でもない。それと襲うときは結界をはるからな」
「そうなんですか…。無差別じゃないってことは俺はなんで襲われたんです?」
「うむ。まず悪事を働く妖怪はすべてある組織に属している。そしてある目的のために行動してるのさ」
「目的…」
「人間を滅ぼし妖怪が世界の頂点に立つこと……。それが奴ら”深淵の闇”の目的」
「人間を滅ぼす!?大変じゃないですか!?」
「落ち着け澪児」
「す、すみません…」
「うむ。それで話の続きだが、闇があれば光もある。深淵の闇から人間を守るために戦う者たちもいるんだよ。それが通称”共存派”」
瀧はそういって微笑む。澪児は取り乱してしまった自分を少し恥じた。
「もしかして瀧さんはその共存派の?」
「そうだ。昔からずっとこの地を守ってきた」
澪児は疑問を感じた。瀧はどうみても自分と同じぐらいの年にしかみえない。それなのに昔からというのはおかしい。
「昔から、というのはおかしい……と顔に書いてあるぞ」
そういって瀧は笑う。
「実はな澪児。我は人間ではない。龍なんだよ」
「は?龍って……あの龍?」
「信じられないか?澪児」
「半信半擬ってところです……。瀧さんはそんな華奢な体でいとも簡単に鬼を倒しましたし…」
「半分も信じてくれれば今は充分さ。……それでお前が狙われた理由だが」
ガラガラ──
話している途中に急に扉が開いた。
「やっと見つけた…。帰ってきたなら一言知らせてよ」
そこにたっていたのは穂村加奈子だった。
なんだか今回は会話ばかりになってしまいました。やっぱり書くのは難しいです…