第二話:非日常への入り口
ジリリリリ──
カチッ
「起きるか…」
多少眠そうにしながらも少年──巽澪児は目を覚ました。澪児は市立水治高校の二年生。今朝もそのために起きた。
「朝飯でも作ろうかなぁ…」
彼が朝食を作るのは水治高校の寮で暮らしているからだ。
澪児は和食派である。毎朝白米と納豆と味噌汁を食べるのが習慣になっている。
朝食を食べ終え、顔を洗い歯を磨く。そして制服に着替え家をでた。
学校へは寮から徒歩五分と比較的近い距離にある。そのせいか教室につくのはいつも時間ぎりぎりになる。
この日もそうだった。
ガラガラ──
2−Aの教室の戸を少々乱暴に開け中に駆け込んだ。
「巽…。またぎりぎりか」
入ると同時に日誌で頭を叩かれた。
「遅刻じゃないんだからいいでしょう?犬飼先生」
犬飼武雄。澪児の担任で国語科の教師。いつもよれよれのシャツとジャージというだらしない格好をしている。
「むぅ…。まぁいいか。席につけ」
「は〜い」
澪児が席につくと犬飼は出席をとりはじめた。
四時間目の授業が終わり昼休みになった。
「巽〜。学食行こうぜ」
そう声をかけてきたのは小学校から今までずっと一緒の大親友である長門亮平だ。ちなみに顔だけは良いので澪児よりモテる。
「そうだな〜」
「まってまって!私も行く!」
慌てた様子で一人の女子生徒が言った。
「お前が弁当持ってこないなんて珍しいなぁ。加奈子」
穂村加奈子も小学校からずっと一緒だった。ちなみに加奈子は容姿もなかなかで成績もいい。
加奈子は眠そうに欠伸をして、
「昨日忙しくてあんまり寝てないの。だから今朝は早起き出来なくてお弁当作れなかったのよ」
「昨日何かあったのか?」
澪児は少し心配そうに言った。
「別になんでもないわよ?ただの親の手伝い」
「ふ〜ん」
それから三人はとりとめのない話をしつつ食堂に向かった。
昼食を食べ終え休憩しているとき亮平が、
「そういや巽は彼女つくらないのか?」
いきなりそんな事を言ってきた。
「わ、私も聞きたいわ!」
加奈子も妙に力がこもった声で言った。
「はぁ…。つくるきもないし出来ないと思う。俺は全てが普通だからな…」
自分で言いながら悲しくなってきたのか言葉は段々小さくなっていった。
「そんなことないわよ!そりゃ見た目は普通だし成績も平凡だけど!人は中身よ!中身!」
澪児はそれを聞いて更に落ち込んだ。
「加奈子。それはフォローになってないぞ…」
「えっ!?そ、そう?」
「もうこの話はおしまい!昼休みも終わるしな!」
と言って澪児は走っていってしまった。
「逃げやがった…」
亮平は呆れた顔で見送った。
「おい加奈子。やっぱりお前澪児の事が好──」
「うわぁぁぁ!だまれ亮平!死ね!」
ドコッ
亮平のみぞおちにボディブローをおみまいし加奈子も逃げていった。
今日最後の授業も終わり下校時間になった。
「加奈子〜。亮平知らないか?昼休みからみかけないんだが……」
「さ、さあ?シラナイワヨ?」
あきらかに態度がおかしかったがつっこむと怒られそうだったのでやめておく。
「そ、それより澪児。今日用事ある?ないなら遊びに行こうよ!」
「う〜ん…。今日はやめとくよ。ちょっとよりたいところがあるから」
「そう…。わかったわ。じゃあまた明日ね!」
加奈子はそう言って教室からでていった。
「マンガ読みたいから帰りたい、なんて言えないよな〜」
澪児はひとり呟き教室をでた。
澪児は学校の近くにある商店街に向かっていた。マンガの新刊を買うためだ。
(やっぱり加奈子には悪いことしちまったかな〜…。今度埋め合わせするか〜)
そんな事を考えながら歩いていると、
(ん?)
ある異変に気付いた。
(人がいない?)
今は夕暮れだ。ここは商店街なのでいつもなら夕食の買い物に来る主婦たちであふれる。しかし今は一人も見掛けられない。商店の蛍光灯の光だけが妖しく輝いていた───
「ミツケタ…」
不意に声が響いた。
「“ドウチョウシャ”…。コロス!」
澪児の後ろに……鬼がいた。しかも目を爛々と光らせ追い掛けて来る。
「う……うわぁぁぁ!」