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共犯者と裏取引

夜更け。

残業を終えて帰宅した大智たいちが玄関を開けると、廊下の暗がりに人影が立っていた。


「うおっ……」


息を呑むと同時に、影が近づく。

――愛生だった。


「父さん。ちょっと、こっち」

腕を引かれ、リビングのすみっこに連れて行かれる


「な、なんだよ……」


こそこそとした声で、愛生が囁いた。

「母さんに、昔の元カレからDMが来た」


「なっ――!」

思わず大声を上げかけた大智の肩を愛生が殴った。


「しーーーっ! 母さんもう寝てる。声で起こす気?」


大智は目を丸くし、口を押さえながら頷く。


愛生は落ち着き払って続けた。

「安心しなよ。ちょうど私がタイミングよくスマホ借りて漫画読んでたから。

 “くたばれ。連絡すんな”ってメッセージしておいた。あとブロックも。履歴も消した」


大智は大きく息を吐いた。

「……随分念入りな証拠隠滅したな」


愛生は腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。

「友達としてもいらないだろ? そんなクズ」


「確かにな」

大智は娘を見つめ、眉を上げた。

「で? わざわざ俺に話したってことは……何か見返りを求めてんだろ?」


愛生はにやりと笑い、人差し指を立てる。

「GODIVAのチョコの詰め合わせ。20個入りのやつ」


しばし無言。

大智は額に手を当て、深いため息をついた。

「………………はぁ。わかった。明日、仕事帰りに買ってくる」


愛生の口元が勝ち誇ったように上がる。

「交渉成立」


リビングに静寂が戻る。

ただ一つ――父と娘の間に“母には秘密の共犯関係”が生まれた。


翌日。

仕事帰りの大智は、街の百貨店の地下に立ち寄った。

甘い香りが漂うショーケースを前に、真剣な顔で選び始める。


「……20個入りの詰め合わせ、っと」

隣に並ぶ季節限定の煌びやかなパッケージが目に留まる。

秋限定・うさぎのデザインのマロンコレクション。

金色のリボン、艶やかな包装。


(……千沙には、やっぱりこっちだな)


帰宅すると、愛生がソファで待ち構えていた。

「父さん! 約束のブツは?」


大智は渋々バッグから大きな箱を取り出す。

「ほら。言った通り、20個入りの詰め合わせだ」


「おおーっ……!」

愛生は目を輝かせ、箱を抱きしめる。

だが、その時。


「大智?なぁに、それ」

台所から出てきた千沙に、大智は少し照れながら別の紙袋を差し出した。


「……千沙には、こっちだ」


差し出されたのは、季節限定の煌びやかなチョコレートセット。

愛生のものより一回り小さいのに、見た目も中身も華やかで特別感が溢れている。


千沙は驚き、頬を染めた。

「え……わたしにも? こんなにきれいな……ありがとう」


にこっと微笑む母の横で、愛生の顔が引きつる。

「………………は?」


父はさらりと言い放つ。

「お前のは“詰め合わせ”。母さんのは“特別”。」


「……それ、季節限定で私のより高いやつ!ふざけんなクソ親父ーーー!!」

リビングに愛生の怒声が響き渡った。




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