刻は残酷なり…?
――――光浩は、送信からさほど経たぬうちに届いた通知に胸を高鳴らせていた。
(……返事、来たのか?)
震える指で開いた画面に並んだのは、短い文。
『ばーか。クソが。くたばれ!』
「……は?」
思考が真っ白になる。
さらに続く一文が胸を抉った。
『浮気する男とか、マジ無理だから』
心臓を握り潰されたような衝撃。
光浩の手からスマホが滑り落ち、ソファー音を立てて沈んだ。
(……やっぱり、まだ怒ってる。二十年経っても、許されてない……)
脳裏に蘇るのは、あの夜の記憶。
「どうして?」
震える声で問い詰めてきた千沙の姿。
答えられず、ただ黙り込むしかなかった自分。
そして流れる涙。
「……クソ……」
顔を覆った掌に、悔恨がじわりと滲む。
ほんの出来心。
自分を持ち上げる軽い言葉に酔って、愚かにも踏み外した。
守るべきものを壊した。
そのツケが、二十年経ってもこうして返ってきた。
(でも……文体が……少し違う……)
冷静になった瞬間、違和感がよぎる。
あの千沙なら、もっと柔らかく、もっと静かに怒るはずだ。
こんな直球の罵倒をするだろうか?
「まさか……」
疑念が芽生え、胸のざわめきがさらに大きくなった。
返事は確かに“拒絶”だった。
だが本当に千沙自身の言葉なのか。
光浩はスマホを拾い上げ、真っ暗な画面に映る自分の顔を睨みつけた。
後悔と混乱が入り混じり、出口のない夜に沈んでいった。