トラ系召喚獣とスローライフ
日課のブラッシングを受けて、耳をピンと立てた大型の幻獣が幸せそうに目を閉じている様を私は、同じく幸福感に満たされて空気を吸い込む。
ここにコテージを建てて正解だった。
空気も良いし、環境も整っている。
人が多くいる環境が酷く合ってなかったと良く分かる。
そのせいで、長年苦しかった。
しかし、この子と再会したおかげでやっと本当の意味で呼吸出来たのだ。
「にゃうにゃう」
「よし、今日はダンジョンに行こうか」
ダンジョンというのは凡そ、いつからというのは誰にも分からないほど大昔から存在している穴だ。
200年少し前までは忌み地として軍や国が完全に管理していたのだが、研究によりダンジョンの開拓が進めばいろんなものが得られるということが知られて、少しずつ本格的にダンジョンというものを調査し、知って言った。
忌み地とされた原因は中にいるモンスターと呼ばれるバッドエネミーのことだ。
バッドエネミーはダンジョン外の存在を知れば襲ってくるモンスター。
それと、地球では現在、過去でいうところの魔法使いや魔女という存在の原因となった魔法が使える。
最近では遺伝子的に発現させられるようになったので、全員が魔法やスキルといった能力を持てる時代。
「私のスキルは前世だった。でも、これって世間じゃハズレスキルなんだって」
スキルを開花させるのは人類の義務。
拒否は許されない。
というのに、世間はスキルに優劣を付ける。
相棒に話しかけると、虎の姿をしていながらも背中に翼、額に宝石を付けた幻獣が耳をこちらに向けて、目を薄く開ける。
「ライちゃん。私達はずっとここでスローライフしようね」
「クルクル、クルクル」
喉を鳴らす幻獣種ライガー科。
パートナーたるこの子の名はライラエル。
ライちゃんと呼ぶと甘えてくる甘えん坊。
「そうだね」
ライちゃんは私の前世で共に暮らしていた幻獣なのだ。
私の前世は具体的なものはなくて、断片的なものが多い。
例えば、前世の世界では魔法使いは奴隷みたいな階級で、残酷な事や最低なこと、従いたくないことをさせられたという記憶ばかりで良いことなどないのだ。
しかし、その映像、または過去の記憶での心の支えがライラエルだった。
記憶が無理矢理引き出されたと同時に薄くあった幻獣との絆が分かるようになり、こちらの世界に呼び寄せることが出来るようになる。
そして、リーシャは1も2もなく、速攻呼び出した。
幻獣召喚は難易度エクストラだが、一度契約すると簡単。
前世という記憶により、自尊心と存在価値、倫理観を破壊された現在のリーシャにとって、なによりも必要な相方。
リーシャはその記憶のせいで長年苦しむことなった。
ろくに動けなくなり、ご飯も食べられなくなった。
ボロボロになってしまった私を回復させられるのは一つしかない。
「ライちゃん、頑張って進化したんだね」
「ぐるぐる、にょおーん」
喉を鳴らして、返事をしてくる。
「私は、今度こそ私はね」
取り返す、人生を。
前世という記憶により平穏が奪われた二度目。
記憶だけですよ、と周りは言った。
しかし、記憶は本当に起きたこと、起こしたことなのだ。
国は、人は、世間は、周りは、成功者だけを持ち上げて、取り残された私のような心が折れた者には一瞥すら遣さない。
スキルによって挫折させられた女など、お荷物だという見方しかしない。
(魔法は沢山覚えてる。悪いのも良いも、のも。禁忌なんてもっと)
それを目的にした聞き取りや検査があったが、私が自分の記憶に苛まれてまともに話せないと知るや、スキル調査をする人達はこちらのことは必要ないものとみなした。
「ライちゃん、禁忌魔法使いなんて、それこそ忌み地と相性が良いのにね」
最近のダンジョンの問題だって、リーシャの記憶を聞き出せば解決出来たかもしれないのに。
(もう、どうでも良いよ)
ライラエルとスローライフをするためだけに動き出した。
ライガーと共にダンジョンで稼ぎまくり、さっくり山の中へ引きこもった。
魔法があれば山籠りなど余裕。
普通の魔法ではないリーシャの魔法をもってすれば、人に会うこともないまま過ごせるのだ。
国も感じ取っていたのだろう未知の魔法。
しかし、国はなにも聞けない。
スキル覚醒の時に国の協力を放棄する契約にサインしたから。
それは、前世スキル保持者によるマニュアルがあるとかで書かされた。
おそらく記憶を持っていることで色々虚言とかが昔にあったのではないかと思う。
それに振り回されるのは嫌だということなのだろう。
そんなことよりも、私はやりたいことがあるから、こちらも構うことなどはない。
「らいちゃん、畑に行こうか」
ライガーは伸びをしながら立ち上がる。
1メートルある体格をしならせつつ、歩き出す2人。
向かうは、今ではたわわに実っている果実や魔法の作物がある位置。
「聖魔法は便利だね」
色合い、味、見た目、属性付与、品種改良が出来る魔法。
回復などに分類される魔法だが、現代知識を持つのならば、遺伝子に関連したことが可能。
色んな種類を管理出来るのも闇魔法と空間魔法のおかげ。
ライラエルが向こうを指す。
どうやら今日はパフェの気分らしい。
うちの子が気に入った食べ物を実らせている区画に行き、ライラエルは自分で実っているパフェをもぐ。
パフェの見た目はガラスの陶器の中に入っている典型的な形をしている。
ガラスに見えるが魔法なので食べ終わったら空気に溶ける仕様。
因みに、私のお気に入りはゲーム制作樹。
誤字ではなく、木樹ゆえに機ではなく樹なのだ。
ゲームがランダムに実る。
ゲームに本体は聖魔法で直せるし、勝手に直るよう自己再生も付与済み。
ゲームは勝手に生成され、クオリティの高いものから低いものが作られている。
有名なゲームの続編風、類似、などなどもあって、本当に一生ここで過ごせる。
「にゃ、にゃ」
パフェを食べるライガーを見つつ、私もゲームを収穫する。
ライガーのライちゃんもゲームは好きだし、一緒にするのが楽しい。
複数プレイのゲームもライちゃんは普通に出来るので楽しんでいる。
「お、このタイトル。あのゲームの作品関連っぽい」
「にっ!」
見せて〜、と寄ってくるライラエルにゲームを見せる。
某スローライフゲームに似ている。
けれど、どこか違う。
これは続編に見せかけた別物かもしれない。
確かに有名ゲームも作るけど、有名ゲームのジャンルと違うものをキャラクターだけおなじままの時もある。
のんびりゲームのキャラクターに冒険をさせるとか。
シューティングゲームだったのに、ホラーとか。
映像生成をする木もあるんだけど、同じようなことをする。
おかげで、某魔法使いシリーズの続編を3作品以上見るという夢みたいなことが出来た。
続編なんて夢の夢だったのに、二次創作とはいえ、見れたのは最高だ。
おまけにキャストは生成なので映像年齢そのまま、据え置き。
いきなり成長してしまってない。
子供役が何作品後でもずっと子供の見た目で演じている。
人は強制的に成長していくから、シリーズとなって、長期になると大人になってしまう。
「ゲームしよう、ライラ」
「ぎゃうん」
元気よく返事をしたライラエルと共にゲーム機をセット。
スローライフゲームをすると、ライちゃんは凄く効率の良いやり方で次々に出されていた課題をこなしていった。
その間、地球が異世界と繋がるという未曾有の危機になっていたりしたが、私には関係ないので、のんびり山籠りを続けて、本当になんの関係もすることなく、過ごすことになる。