回顧 八、
同窓会の思い出。会話文多めです。
大学生活は特筆することもない。
自宅から通える大学だったが家を出て一人暮らしを経験し、中学高校と同じく勉強にひいこら励み、アルバイトで生活費をせっせこ稼ぎ、時折友人と遊ぶ。極めて平凡な女子大生を、朝葉はつつがなく過ごしていた。
平凡な生活の中の、たった一度羽目を外した一瞬が、成人式後の同窓会――つまり、森雪との一夜だったのだ。
ホテルの宴会場を貸し切って開催された同窓会は、大いに盛り上がった。
学年全体全クラスを通した大規模開催だったことに加え、ほんの二年前まで顔を合わせていた気安さ、大半が飲酒年齢に達していたこと、最初に会費を払えば出入り自由という気軽さで、入れ替わり立ち代わり人並みは途切れなかった。
今後ここまで大規模の同窓会は行わない、と事前に幹事会から通達されていたこともあり、これが最初で最後ならと、出席率はなかなかのものだったという。朝葉はのちに、疲労と達成感がないまぜになった幹事の友人にそう聞かされた。
ちょっといいホテルを会場に選んだため、二十歳そこそこの新成人の参加者は皆、粗相のないようお行儀よく過ごしてくれたと笑う彼女は『二度はしない』と戦士のまなざしで宣言していた。大変な仕事だった模様。
高校は外部受験したもの、高校から入学したもの、中高六年間通ったもの、中三高三の時の学年主任を務めた教師は招待されており、他教師の姿もちらほらあり、懐かしい顔に高い声が上がる。
高校三年生の時のクラスでなんとなく固まった席次となっていたが移動も自由で、ビュッフェに立ち戻ると違う誰かが座っているので別の席に、といった具合。在学中とくに親しくしていない面子でも、なんとなく顔見知りではあるため和気藹々と盛り上がる。静かに楽しみたいものは自然と流れあつまり、そっちでゆったり盛り上がる。朝葉の学年は、緩やかな棲み分けと尊重ができた穏やかな学年だったので、大したトラブルもなく進行していった。
ときおり各テーブルで時折爆発的な笑声が上がる。話題は様々だ。
専門学校に進んだものが就活の戦果に悲喜こもごもし、それを見て現役大学二年生が来年度をおののく。
少数派の高卒就職組が社会人あるあるを披露すれば、同系統の職種を目指すものが自然と集まり情報交換をはじめ、留学から一時帰国したものの周りにはやっぱり留学経験者や希望者が体験談を聞きに集まった。
学校のこと、サークルのこと、交際相手のこと、一人暮らしの不便、土地を離れての不安、諸々。
思い出話も多かったが、圧倒的に現況報告や情報交換が多い。多方面に散っていったので、皆情報に飢えていた。携帯電話が普及し始めたころの話である。まだまだ情報は自分の足や冊子、伝手で集めるのが常識であった。
おしゃべりでさざめく会場にて、朝葉は自席でもみくちゃにされていた。
「あけましておめでとう!」
「新成人おめでとう~!」
「朝葉が大学生かあ」
「それ卒業式でも言ってたよね」
「ちゃんと勉強ついてけてる? 進級できた?」
「できたよ! 春には三年生!!」
「単位落としたりしてない?」
「勉強できないってべそかいてた朝葉が」
「一人暮らし?! 生活できてる?!」
「変な人についてっちゃだめなんだよ?」
「水山いっつも泣いてたなぁ」
「泣きながら勉強してたよね」
「変な勧誘に乗っちゃだめだからね」
「うまい話には裏があるんだよ、いいね!?」
「あーなんだか不安になってきた!」
「同じ大学進んだのいなかったんだよな確か……」
「バ先の先輩が確か同じ大学…ちっキャンパス違いか」
「あいかーらず一生懸命生きててえらいねぇ……かあいーねぇ……」
「どうしたのこいつ?」
「またフられたって。クリスマス前に」
「また?! 今度は何?!」
「五股……」
「ごぉっ?!」
「まじかよ」
「最悪」
「うふ、うふふ……朝葉のほっぺたこねてると嫌なこと忘れるわ……」
「高校んときもよくそれやってたよねアンタ」
「男運なさすぎ。てか見る目なさすぎ」
「さすがにそろそろ慎重に見極めるべきでは? これで何度目?」
「もちもちしゅんのやめへぇ」
「したくなる気持ちはわかるけど、そろそろ離したげなさい」
「そいえば朝葉、恋人とかは?」
「聞いたことないねそういえば」
「やめろやめろ、俺たちの妹のそんな話聞きたくない!!」
「水山さんは! お勉強がんばってるんだよね!!?」
「うざ」
「きも……」
「一定数いるよね、水山さんを妹扱いする人」
「中学んとき同クラになったことある奴、おおむねそう」
「それこそ号泣しながら勉強して結果でなくて、今にも窓から飛び降りそうな様子のころから知ってるとね……」
「え、そんなふうに見えてた?」
「今にも破裂しそうだったから、うかつに触れられなかったのよ」
「それが中一の二学期はじまってからは、まだ泣いて教科書開いてたけど、どんどん元気になって」
「極めつけはバレンタイン」
「見守ってくれててありがとうチョコね」
「この子あんな状態でも周り見えてたんだなとか、クラスの平均点下げてごめんとかそんなん別にどうでもいいんだよっあんたこそこの一年よく折れずに頑張ったよ偉いよ、って……っ」
「な、泣かないで……そこまで思っててくれたのありがとぉ」
「男子沈んでたのいまだ笑える」
「男子いまでも朝葉のこと幼稚園児くらいに見えてたりするんかな」
「うざ」
「きも……」
「聞こえてますけどぉ?!!」
「純粋な友を心配するお気持ちですぅ!!!」
「せいぜい小学校高学年くらいですぅ!!!」
「え怖……」
「やっば」
「きっも……」
「具体的な年齢止めろマジに見えるだろ」
「お前それはさすがに……」
「手の平返すの早くない? お前らは同類だろうが!」
「朝葉ちょっとこっちおいで」
「おねえさんたちと飲み比べしようねぇ」
「物理的に距離置かないでよぉ! 確かに小さい子は好きだけどぉ! そんなんじゃないんだってばぁ!」
「アウト」
「まじやばじゃん」
「後ろに手が回るようなことするなよ」
「お前警察官志望だろ、なんとかして」
「やだぁ……」
「『やると思ってました』なんてインタビュー答えたくねぇ~!」
「ねぇあのさぁ、私みんなと同い年なんだけどさぁ、」
「まあまあまあ」
「これおいしいよぉ、食べた?」
「お酒もう飲んでよかったよね。これねぇ、チョコ風味のカクテル」
「こっちはメロンソーダっぽいヤツ」
「日本酒いける?」
「ビールにがぁ……誰か引き取ってぇ」
「あ、じゃあもらうよ!」
「朝葉が?! ビール?!」
「飲めるよ! てか飲んでたでしょ今目の前で!!!」
「え、これだけ子どもビールでしょ?」
「ねぇ! おんなじピッチャーから注いだでしょ?! ねぇ!」
「だあははっははははあは、朝葉かんさいでもやってけるよぉ!」
「あ、だめだ飲まれてらぁ」
「チェイサーはさめチェイサー」
「お冷おねがいしまーす!」
わいわいがやがや。
思い出話から母親のような心配、酒の入った元同級生たちはポンポン話が飛ぶし止まらない。
話すのも聞くの楽しい空間で、相変わらずの末っ子扱いなものだから、朝葉はすすめられるまま食べ、飲み、河岸を変えた二次会も終わるころにはいい具合に出来上がってしまっていた。
その日、森雪とまともに話せたのは、終電に乗るために駅に着いた、そのタイミングだった。
次回、再会。
年内の更新はこの話で最後となります。次回更新は未定です。
みなさまよいお年を。