回顧 七、
中一の二学期から高校卒業までをダイジェストで。会話文のみ。
「球技大会、大活躍だな」
「そう! これでも体育は得意!」
「運動神経は切れてないんだな」
「勉強のポンコツを知られているから反論しづらいな」
「クラスの女子にこねくり回されてたけど、あれなに?」
「『一年見守っててくれてありがと・これからもよろしくチョコ』を配ったらあんなことに……」
「あぁ、だから男子は床に沈んでたのか」
「はいこれ、森雪君の分。手作り嫌じゃなければ受け取っておくれ」
「僕の分もあるんだ」
「むしろ真っ先に渡さなくてごめんなのですが。ちょっと豪華にしといたからね!」
「行きつけの呑み屋の女将みたいなこと言う」
「その例えがサラッと出てくるのはどうなの」
「ウッウッウッ……」
「そんな泣くことないでしょう……」
「クラスはなれぢゃっでぇ……これからどうしたらいいのかってぇ……っ」
「大丈夫なようにこの一年鍛えたんでしょうが」
「大変お世話になりましてぇっ!」
「別に学校辞めるわけでもなし。クラス違ったって、訊きにくれば見るよ勉強」
「本当?! ありがどお……」
「鼻かみなよ……」
「新しいクラスはどう?」
「なんかねぇ、末っ子扱いされてる」
「ああ……」
「そこで納得しないで。フォローされるのに甘んじたくない程度には育っているつもりなんですが!」
「へぇ」
「ねぇ微笑ましげにこっち見ないで」
「地区大会シングルス準優勝おめでとう」
「ありがとー!」
「テニスはじめたの去年からなんだよな?」
「そう! 相手のコートの枠からはみ出さないで打ち返す!」
「うーん。これで勝ち進めるのもすごいな」
「先輩方いっぱい褒めてくれた!」
「下位路線ながらなんとかついてけてるわけですが」
「本当にどうしようもなくなった時しか訊きに来なくなったの、純粋にすごいなって思うよ」
「来年進学試験なんですよね……」
「先生は何て?」
「ギリギリ……なんとか……いけるか? いけないか? 断言されない……微妙……」
「……来年からまた閲覧室こもる?」
「オネガイシマス……」
「ワ、ワァ……」
「また泣いてる……」
「おかげさまでぇ! 進学できましてぇ!!」
「うわうるさ。よかったね。この一年がんばってたもんね」
「今後ともよろしくお願いしまぁす!!!」
「あ、面倒みられる気はあるんだ」
「森雪君がいなければ高校生になれなかった自覚あるんでぇ!」
「もし僕が外部受験してたらどうす……うん。嘘ウソ。持ち上がりで進学するから。来年も同じ学校だからそんな絶望顔しないで。泣かないの」
○ ○ ○
「オベンキョウ、カクダン、ムツカシイ」
「片言になっちゃった。まぁ、高校の勉強だしな」
「学科、フエスギトチガウ?」
「細分化されたからね。………わかった、わかったから。無言で泣くな」
「四月の段階でついてけてないんスよ……」
「慣れるまでサポートするから」
「もう本当すみません頼りになります……」
「森雪君は」
「うん?」
「私をみてくれてる時も普段も、いつも本読んでるよね?」
「まあ、そうだね」
「え、いつ勉強してる?」
「え、授業で?」
「それでついてけてるの? ハ? ハ???」
「僕としては、いまさらその疑問がわいてきたことに驚いてる」
「体育祭えらい活躍だったな」
「クラスの平均点を一人で下げてる自覚あるんで。がんばりました」
「活躍できる場を自覚してるのいいところだよ」
「でも全十四種目中十種目はさすがにきついから、来年は交渉する」
「それでも最後のリレーぶっちぎりだったのすごいよ」
「えへへぇ」
「この学年、勝つるっ」
「拳を下げなさい。大げさな」
「中一ぶりの同クラよろしくね!」
「うん、よろしく」
「森雪君、進路決めてる?」
「進学はしないよ」
「え!? 私より頭いいのに?!」
「そう言うってことは進学希望?」
「親の意向は、そう。でも大学いける自信がない。雨降り前のツバメもびっくりの低空飛行を続けているのに」
「中一のころよりは進歩してるよ。うーん、学校外の模試でも受けてみたらどうだろう? 今の立ち位置が明確になるのでは?」
「うちのめされておしまいな気がする……」
「まあ、物は試し。一回は受けといて損はないと思うけど」
「かなぁ……」
「びっくりなことに」
「うん」
「学外模試の結果、そんなに悪くなかったんですね……」
「よかったじゃない」
「なんでぇ??」
「水山さん忘れてるかもしれないけど、この学校、一応進学校って世間様では言われてるんですよ」
「私があっぷあっぷ溺れながら日々を置くこの流れは激流で、よその流れは緩やかなの???」
「そこに疑問を持ったらキリないから。今いる環境になじみなさい」
「?????」
「模試の結果にたるんだら即これだよぉ!!」
「赤点四教科か。久々じゃない?」
「留年! したら! 意味ないんですね! いくらお外で成績だしても!!」
「それをわかってくれてよかったよ」
「引き締めまぁす!」
「進路別なわけだから、このクラス分けはわかってた」
「あと一年、よろしくな」
「最後の大会おつかれさま」
「へへ、ありがとぉ」
「ダブルス都ベスト四か。すごいな」
「これで心置きなく引退できます! そして受験生になります……」
「進捗はかばかしくない」
「煮詰まってるなあ」
「お姉お兄の出身大学よりいくつもレベル下げてるのに判定はC」
「その比べる癖止めた方がいい。精神衛生上よろしくない」
「胃が痛い……」
「あったかいお茶あげるから……」
「学園祭もこれで最後かぁ」
「例年のことながらすごい盛り上がり様」
「教頭先生、今年はロココ調のドレス着てたよ」
「あの人なんで毎年女装に行くんだろうな」
「頭に帆船のっけてデニッシュ売ってた」
「それはちょっと見たい」
「学校来て大丈夫?」
「なんとか。こんな時期に風邪ひくとか、自己管理できてない証明みたい……」
「予防したってかかるときはかかるよ。年明けてからじゃなくてよかったよ」
「風邪なんか小学校以来なんですが」
「馬鹿じゃなくなったって証明されたね」
「ん?」
「はきそう」
「センター試験、手応えあったんでしょう?」
「もしかしたらなかったかもしれない……」
「学校に来るより家で二次試験の勉強してればいいのに」
「学校の方が集中できるし、家にいると不安が際限なくわいてくるんだよ……」
「卒業おめでとう」
「……っ、っ、……っ!!」
「なんだって?」
「もりゆぎぐんも、おめでどぉっ」
「鼻かみなさい鼻」
「ほんどに、六年間、お世話になっでぇ……っ!!!」
「まぁ、お世話したね」
「おかげさまで、無事、卒業できまず!!!!」
「うん。当初の目標達成も含めておめでとう」
「ありがどおぉぉ」
「本命の二次試験は来週?」
「そう……微妙に晴れやかでない……胃が痛い……」
「第二希望は合格したって聞いたけど」
「お耳が早い……今までの私ならここで気を抜いていた」
「おお、自己分析してる」
「何度も何度も何度も、痛い目みてきたからね! 今の私は油断しない!!」
「なら、早く帰ってあったくして机へ向かいな」
「それはそれとして、卒業は惜しみたい……」
「よくばりだな。だから全日程が終わった後に謝恩会が予定されてるんでしょう?」
「これない人もいるじゃんじゃんじゃんんん~~~!!!!」
「泣くな泣くな」
「ご う か く し ま し た」
「もう泣いてる……本命合格おめでとう。学校に報告?」
「そう、してきたところ……森雪ぐん会えてよかっだ……」
「鼻かみなさい鼻」
「ぶちーん!!」
「これで本当にお役御免か。あっという間だったな」
「本当に、何から何までお世話になりまして、ありがとう百兆万回でも足りない」
「単位がバカなんだよ」
「今ここで宝くじ一等当たってたら譲ってたくらいには感謝してる」
「読んだことあるなそれ絶対事件が起きるやつ。でも、よく頑張ったよ実際。途中くじけるかなって思ったけど、踏ん張ったし」
「森雪君いなきゃ頭抱えて迷走して学校辞めてたと思う……」
「なんか目に浮かぶな。とくに迷走の部分……」
「生産者の顔で誇っていいと思う」
「そこは水山さんが誇っていいところだよ。よくぞ僕を引き当てた、って」
「? 見つけてくれたのは森雪君の方でしょう?」
「……ああ、そうだね。僕がおまえをみつけた」
「情けないところしか見せてこなかったねぇ」
「でも、ここまで僕に見つめさせたのは、おまえがおまえだから」
「うん?」
「水山朝葉」
「はい?」
「卒業おめでとう」
「ありがとう!」
「へへへ…」となってるとき、朝葉はたいがい照れています。
うれしかったり照れ臭かったりをを我慢しようとしてこぼれてるのがこれ。反応が幼児。
このころの受験(センター試験導入されてた30年ほど)は、
一月中旬センター試験→三月上旬~中旬国公立前期試験の流れだったはず。
前期落ちたら下旬の後期か他校受験。三月最終週までには誰しも進退決まっていた印象でした。