回顧 五、
本日更新二話目。
会話文多め。二週間のあいだのやり取り。
朝葉は基本人懐こいので、壁が取っ払われれば結構簡単になつきます。ちょろい。
小学校一年生の国語と算数のドリルから順々に解いていくと、どこでつまづいていたのかよくわかった。
知識の定着が甘かった箇所、認識できてない文章問題の要点、そもそも問題文から何を求められているのか分かっていなかったり、思い込みによる勘違い、単純な計算違い、文字の間違い等々。
順番にさらっていくことで、間違いや理解の追い付いていない箇所が認識しやすくなる。
なるほど、急がば回れは正しい。
すらすら問題が解ける心地よさと、でもこれ小学生のドリルなんだよなという情けなさを行ったり来たりしながら、朝葉はしみじみ納得した。
「小一から小三ぐらいの算数ドリルは、計算見た瞬間答えられるくらいにはなっといた方がいい」
「三桁の足し算引き算あたりからあやういんですが……」
「ほんとによくこの学校受かったよな……」
「ひぃん」
「そもそも何で小学校のドリルがここに?」
「わからないをわからないのままにしない生徒が、ここは多いってだけの話」
「復習に使ってるってこと?」
「フラッシュ暗算のラップタイム競争してる生徒は見たことある。頭の体操というか息抜きとして。ほら、ここにタイムがメモしてある」
「あっ、この後ろの数字これ一冊終わるまでのタイムなの?! うそでしょ最速一分きってるあたまのいいひとの遊びだ……」
「まぁ、小一は二桁の足し算引き算までだしこれくらいは……」
「ひぃん」
「がんばれ」
「国語はなぁ、本を読む習慣をつけるのが一番手っ取り早いんだけど」
「読書は嫌いじゃないんだけど、あの。単純に時間がないっス……」
「うん。なので、短縮していこう。国語の教科書を読んでください」
「えっ?」
「これから習うんだから予習にもなるし。究極な話、国語は教科書と便覧以外からは試験に出ない」
「それはそう」
「あと読むなら短編集とかかな。隙間時間で読める。社会の教科書も読み物としていい。これも予習にもなる」
「なるほど時短」
「最近さ、計算が早くなった気がする」
「よかったじゃん」
「スーパーでパっとおつり間違い指摘したら、隣にいたお母さんに二度見された……」
「んっふ」
「こそあど言葉が鬼門なんすよ……」
「長文問題で絶対あるやつ」
「あと何文字以内にまとめよってやつ」
「一字マス足りないとかね」
「あるふぁべっとぐーるぐる」
「英語はなぁ。スタートラインが一緒のやつも多いから、そんなに他と大差がついてないのが救い」
「あいむあぽーぺん」
「人じゃなくなっちゃった……」
「国語もそうだけど、英語も語彙力の問題になってくる」
「ごいりょく」
「言葉を知らなければ書けも話しもできないでしょ。単語力と言ってもいい」
「それは、なんとなく、薄々……」
「文法はあとからでも追っつけるけど、単語は毎日コツコツやる癖をつけた方が後々楽」
「単語だけのでたらめ英会話でもなんとなく通じるやつだ!」
「おまえと外国人講師の会話、日本語九対英単語一なのに、ほぼ身振り手振りで意思疎通できてるのすごいよ」
「…へへっ」
「照れんな」
「そういえば、理科に関してまったく手を付けてないんですが」
「まだそこまでいってない」
「まだそこまでいってないっ??!」
「不安なら教科書読みな。あ、いやちょうどいい。小学校の理科の教科書から読み直そう」
「この部屋ほんと何の教科書でもあるな……」
「周期表覚えた」
「すごいじゃん」
「兄が鉱物図鑑持ってて、周期表見ながら説明してくれたらなんか入ってきた」
「なるほど。現物見ながらはいいな。印象に残る」
「ダイヤモンドが備長炭にしか見えなくなったし、宝石がアルファベットの塊に見えてきた。でも結晶ってきれいなんだよね。ずっとみてられる」
「ふふ、わかる」
「小学校の教科書から読み直してるとさ」
「うん」
「結構忘れてるのが多い。とくに理科と社会」
「まぁ、二教科からいきなり四教科に増えるんだから、単純に覚えること二倍になるよな」
「なんとなーくこんなことやったっけなと、うーっすら覚えてはいるんだけど。それがどう繋がってるのかいまいちわかってない」
「中学の理科も社会も、言ってしまえば小学校の焼き直しに近いぞ」
「えっ」
「小学校でとっかかりをつけて、中学校でもう少し深いところまで知識をつける。高校は、授業の選択にもよるけど」
「あっ。だから小学校の教科書を読む?!」
「復習って大事だよ。本当に」
そうして小学校のドリルや教科書をひたすら繰り返す放課後を二週間。
実力試しとして、前回さんざんだった中間テストをもう一回やりなおした結果。
「おおおぉ……」
「うん。まぁ、こんなもんだろうね」
大幅加点した。もとの点数が点数なのだけど、平均二十点増。
そもそもの話。
前回の中間テスト、できないわからないが過ぎて追い詰められた状態で解いていたものだから、うっかりやポカミスも多かった。
なので前回より比較的良好な精神状態でやり直せば、理解できない解けないはあれど、計算ミスや漢字間違いなどのケアレスミスが減り。途中式やうろ覚えで書いた部分で加点され、もろもろ加味して二十点増。どれだけあっぷあっぷ溺れていたかわかろう程である。
「これ、先生たちへの中間報告にするけどいい?」
「もちろんもちろんもちろん」
「落ち着いてればこれだけ取れてたという証左でもあるわけだけど」
「ア、ハイッ」
「見直しをする時間まで取れるようになったのは進歩だよね」
「ほんとそれ」
「まだまだ赤点なわけだけど」
「ハイ……」
「そんな急激に成果が出るなら苦労はしないって話で。これからも頑張ろう。まずは期末」
「ハァイ……」
上げたり落とされたりしながら一学期の期末テストまで終え。
案の定ぶっちぎりで最下位を更新した朝葉だったけれど、中間テストの結果よりは落ち込まなかった。
というのも、中間テストは二桁の点数をとれた教科が少なかったことに対して、期末テストはどの教科も三十点の赤点ラインに差し迫るという、前回とは比べものにならないほどの結果を出したので。
「夏休みも学校来てね。毎日やるから」
「エッ!?」
「何か?」
「なんでもないっス」
この勉強方法は一例ですので必ず結果が伴うわけではありません。
でも小学校のドリルですらすら解けなくなったあたりから自分の中のつまづきポイントがわかったりしたので、朝葉にはここからスタートしてもらいました。