1.闇の中
短いです。
本日二話投稿します。
一筋の光もない。城内の喧騒も、虫の音も、何も届かず聞こえない。そこに広がるのは、果ての見えない真っ黒な暗闇だけだ。
だが、不思議なことに、そこには暗闇にありがちな饐えた臭いも澱んだ空気もなかった。それどころか人の営みが全く感じられず、匂いも何もない。机の引き出しの奥深くにしまったまま忘れられた箱の中みたいだ。
熱くもなく寒くもないその部屋が快適かといえば、また違う。長くはいられない、その部屋特有の居心地の悪さがある。
だが、それでいい。この部屋にとっては、それが正しい。
侵入者は、その真っ暗な闇の中を迷いなく進んでいく。闇に紛れて全く見えない隠し棚を難なく開くと、クスリと笑った。
人の笑い声なのに、人間臭さが全くない……。異様なまでに無機質な音が、部屋の闇に沈んだ。
隠し棚の中に手を伸ばした侵入者は、片手に収まる小さな箱を取り出した。
音だけでなく光も遮断された真っ暗な部屋だ。この中で箱の蓋を開けたところで、中身は見えない。だが、侵入者の手元でカタカタと音が鳴ると、蓋が開いた。何も見えないはずの箱の中を覗き込み、今度は唇を歪めてにやりと笑った。
蓋の開いた箱の中からは、より深く濃い闇がどろりと漏れ出していた。その闇は、地を這い、壁を這い、侵入者の身体を這い、部屋全体を歪ませながら隙間なく覆っていく。
部屋の闇が一層濃さを増し、凍てつくような寒さと残忍なまでの支配欲が充満した。普通の人間なら狂ってしまう災厄の香りを、侵入者は恍惚の表情で吸い込んだ。
満足した侵入者は箱の中から何かを取り出すと、躊躇うことなく自分のポケットに入れた。空っぽになった箱は、ふたを閉めて隠し棚に戻した。
侵入者は愛おしそうに何度もポケットを撫でると、再び迷いなく扉に向かって歩き出した。来た時よりも、明らかに足取りが軽い。
侵入者が部屋から出ていくと、音がすることなく扉は閉められた。
誰もいなくなり何もなくなった部屋は、いつも通りの暗闇と静寂に戻った――。はずだったが、それはもう二度と戻ってこない。もう、元には戻らないのだ。
部屋の中から絶望が消えたはずなのに、早くも新たな絶望が生まれていた。
持ち去られた黒い闇は、もう部屋の中にはとどまらない。
漏れ出た絶望は、光を求めて蠢き出した。