共犯者と主犯
系図を確認してみよう。
彦人大兄皇子。
父は敏達天皇、異母兄弟に用明天皇、崇峻天皇、推古天皇がいる。息子は舒明天皇と茅渟王。
茅渟王の娘が皇極天皇、息子が孝徳天皇。
つまり天智天皇は彦人大兄皇子の孫でありひ孫であったという。
「なんか、俺、この彦人大兄皇子ってのが怨霊みたいな気がしてきた」
中大兄の皇子が蘇我氏の焼き討ちを敢行した時は生きていなかったはずだが、確かにこの人怨霊になっていてもおかしくないなと思う。
「山背大兄皇子は一度逃げ延びたが戦って犠牲者が出るのを嫌って自害した、自分の兄弟や妻子にも自害を命じたとかあるが」
「いや、ないから、それに山背大兄皇子が死ねといったとしても皆さん仲良く自殺するわけないだろ」
太郎ですらわかることだ。自殺なんかするわけない。ましてや我が子を守るためなら普通は戦いを選ぶ。
「戦ったけど負けて皆殺しにされたんだろうなあ」
「入鹿が殺したっていうけど、実行犯巨勢徳太とかいう奴は孝徳天皇の家臣に数えられているわけで、実行犯は孝徳天皇だろうな」
「なるほど、で真犯人もそいつ?」
「いや、入鹿を殺害したのは天智天皇と天武天皇だ、むしろ共犯者のポジションじゃないか」
「共犯者か、つまり四人全員犯人ってことになるんじゃねえの」
「もちろんその通りだ、むしろ真犯人というより主犯を探し出している感じだな」
とにかく俺はおかきを死守しながら話を続ける。
「孝徳天皇は徳の字天皇だからな、最初から主犯ではないと思っていた」
「怨霊になっても仕方がない天皇ね」
この話になると太郎の理解は早い。
孝徳天皇は即位はした、しかしそのあと天智天皇にいびり殺されている。
それはもう陰険ないびりで、天皇としてなまじ即位してしまったからこそ屈辱的な扱いをこれでもかとされて一人寂しく死んでいった。
そして、その子孫は皆殺しにされた。
有間皇子の悲劇が有名だ。まさしく徳の字天皇にふさわしい末路だ。
「まあ、山背大兄皇子が自殺したっていうのはおそらく自分たちの手を汚していないっていうポーズと山背大兄皇子を聖人の子孫に祭り上げるためにしたことだろう」
俺がそう言うと太郎は首をかしげた。
「だから聖徳太子が誕生した。聖徳太子はその瞬間に聖人となり同時に怨霊になったんだ」