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視界がぼんやりとでも見えるようになってから半年で、文字通り世界が広がった。
どうやら俺は、村?の中でも偉い部類の人間として産まれた。
俺が赤ん坊にも関わらず、数人体制で世話を焼いてくれる。
老婆と、母親くらいの若い女と、5歳位の幼女だ。
母親と幼女の髪の色は赤味がかって見え、目の色は金色のようにも見える。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるが、5歳の幼女は俺の姉らしい。
俺には「役割」があり、姉より偉いのだとか。
複雑な事情があるらしく、母が姉に「貴方よりも、彼女の方が魔力が強いの。」と言っていた。
そして特筆すべき点は、驚くべき事に、俺は幼女だった。
ああ、神よ。何故貴方は私を…と思ったが。
母親曰く(盗み聞いた話によれば)、女性は男性より魔力適性が高いらしい。
自分自身の目的をこの世界に成すための条件の一つ…いや、これもチートの一種だろう。
ここまで「神」にお膳立てされたのだ。
目標は達成しなければならない。
と…話が逸れた。
私はそれなりの家に生まれ、それなりの肉体に宿る事が出来たのは事実だろう。
家は木造建築で、ログハウスみたいな感じ。
赤子用の部屋があり、食事の時はリビングまで連れられる。
家の中には、至る所に木刀や、槍、剣があった。
武器のレベルに見合わない、豪勢な食事。
そしてふくよかな母親、姉は可愛い、父親はゴツくて厳つい。
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周囲を見渡せられるようになったことで、隠れて修行することも出来た。
耳に集中すれば、言語は日本語に変換される。(集中しないと聞き取れない)
鼻に集中すれば、外の臭いも嗅ぎ分けられる。(腐敗臭で一回気絶した)
目に集中すれば、視力が上がる。(赤ちゃんは視力が低いから凄く便利)
口に集中すれば、異世界語もペラペラ。(流暢過ぎて自分でもキモいと思ってしまった)
舌に集中すれば、繊細な味がわかった。(塩味、辛味、酸味が地獄と化した)
一番重要なのは、手に集中すれば、手に短剣が握られていた。
短剣を触ってみたが、切れ味は悪い。
刃を潰したような短剣だった。
意識を抜くと、短剣は溶けるように消えていった。
手に短剣を持った瞬間に、俺が産まれてきた意味は、この短剣にあると直感した。
しかし、剣を振っても何も起こらなかった。
ベッドのフチにカツンと当たって、余りの威力の低さに辟易した。
異言語チートさえも、短剣の副産物であると知るのは、彼女が5歳になってからだった。