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肉体に戻って気付く。
先程相対していた存在は何だったのかと。
それにしても、自分は生物の筈だ。
手はある、鼻もある気がする、足もある、動いている。
でも呼吸をしていない!
出来ない!?
出来ていない!?
苦しい、これはかなりまずい。
涙が出そうだ。
ここで死ぬのは流石にクソゲーすぎる。
死ぬ、え、どうすれば!?
そんな時、背中を強く叩かれる。
「カッ」
泣き方を思い出した。
こうして俺は異世界に生まれたのである。
ーーーーーー
周りの人間が何を言っているのか、全く聞き取れない。
俺の自国語は日本語で、義務教育レベルの英語。
知人友人が中国人だったり、タイ人だったりしたから、中国語やタイ語の挨拶くらいなら分かるレベルだ。
頭が良い自信もない。
これは詰んだかと思いきや、生後三ヶ月ほどでチート能力が芽生えてくれた。
恐らく俺のママと思われる人物の顔がぼんやりと見える頃、つまり視力が安定して。
ママの笑顔が見れるようになると、その口から発せられる周波数を耳で集中する事で変換し、日本語で理解が出来るようになった。
言語チートは余りにも有り難すぎる。
あとは、リスニングが出来ても、喋ることが出来るかは問題だ…
もしチートの力で喋れたとして。
日本語の口の形をしているのに、別の言語を喋っていたら、凄く気持ちの悪い子供になる。
もしここが閉ざされた村社会なら、頭の中を覗かれたなら、悪魔の子として川に流されても文句は言えない。
村には村のルールがあり、俺もそれに合わせなければ、生きて行く資格を得ることは出来ない。
親が味方をしてくれたとしても、全ての人間が合わせてくれる道理がない。
赤ちゃんが「ママ」と喋れるようになるまで、後半年。
遅くても1歳半位までだろうか。
それまでにこの人達の、家族の、村の文化を理解しなければならない。
言語の習得は早くても三ヶ月、大体六ヶ月掛かると言われている。
果たして自分は、この試練を乗り越えることが出来るのだろうか。
言語以外の問題も当然あり、不安が尽きない。
生きるか死ぬか、と言う自覚を持った俺は、気付くと微笑んでいた。