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剣と平和の交響曲  作者: 雨久猫
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第1話 王女と女剣士

太陽が天空に君臨し、その暖かい光が大地全体を照らし尽くしていた。エステリア王国の大地は、一面の緑に覆われ、純粋で生命感あふれる風景が広がっていた。エステリア王国の季節は春と夏と秋の3つだけで冬は来ない。そして、広大な平野は黄金色の穂をつけた穀物で埋め尽くされ、多くの果樹が彩り鮮やかな果実をたわわに実らせていた。食べ物に困ることはなく、それはこの国の豊かさの象徴であると同時に、平和の証でもあった。


一歩足を踏み入れれば、微風が木々を揺らし、花々の香りが鼻をくすぐり、鳥たちの歌声が耳を撫でる。その音色には自然の営みが織りなす調和があり、その森はあたかも自然が平和の交響曲を奏でているかのようだった。


エステリア王国の中心、それは青く澄んだ川に面して建てられた城だった。城の壮麗さは一望できる景色と相まって、その美しさは詩人たちの筆を駆り立て、数々の詩を生み出した。城の庭園では、多種多様な草花が咲き誇り、それぞれが香りを放ち、空気に混ざり合って独特の香りを漂わせていた。


庭園では、日光が剣を反射させる度に剣士たちの剣先が一瞬、眩しさを放っていた。彼らの身に纏った鎧は優れた職人技が光り、耳を澄ませば金属同士がぶつかり合う硬質な音が聞こえてくる。これこそがエステリア王国護衛騎士団の団長、黄色のショートヘアと青い眼、年齢は28歳、女剣士クレア・マリンスとだった。そして、剣術の相手をしているのはその副団長で、身長180センチで筋肉質、年齢は25歳、男剣士リネル・ナンドだった。クレアとリネルの朝の剣術練習は、クレアが団長になって以来365日休むことなく日課だった。


クレアとリネルが剣を交える光景は、壮大な舞台で行われる一騎打ちのようだった。剣術の達人であるリネルは、巧みな技術と鋭い洞察力で、剣を紡ぐように操っていた。しかし、クレアの剣技の緻密さと高度さには一歩及ばず、リネルの剣筋は何度も空を切っていた。そして、クレアの持つ剣からは一振りするたびに小さな冷気を放ちそれはまるで剣そのものが氷雪を纏っているかのような、幻想的な美しさを放っていた。クレアがその剣を振るう度に、冷気が周囲に広がり、炎天下の庭園に微かな涼しさももたらしていた。


すると、クレアは「リネル!剣の動きが大きすぎる!もっと細やかで鋭い動きが必要だな。相手の隙を突くためには、刹那の見極めが必要だ。」クレアの口から発せられたその言葉は、厳しい指導としてリネルの耳に届いた。その指導の言葉には熱意が感じられ、その中には団長としての責任感、そして国民を守るための強い決意が詰まっていた。


リネルはクレアの言葉に深く頷き、言葉には出さなかったが、その気持ちをしっかりと受け止めていた。「はい、クレア団長。その通りです。改善します。」その言葉にはまだ青さが感じられたが、自身の未熟さを認め、それを直視する勇気と、一歩前へ進む決意が感じられた。するとクレアはリネルの胸に軽く剣を当て「そう言った矢先から油断か?」と言うと、剣の先から小さく冷気の煙があがり「あ、団長、ちょっと待ってください。」とリネルが焦って様子を見せると「ハハハ、冗談だよ!」とクレアは小さくからかいながら笑った。そして、男のような性格のクレアと、女のような性格で優しさと甘さが見え隠れするリネルはまさに対照的だった。


その時、石畳の道を軽快な足取りで駆けてきたのは若き王女アルテミス・マリーと、その側近であり、20年以上国の財政を取り仕切るゼファー・ジェノイドだった。アルテミスの青紫色のドレスは風に揺れ、その姿はまるで朝露を纏った花のように、日差しを受けて美しく輝いていた。無邪気な笑顔が常に彼女の顔を飾り、その笑顔から溢れる純真無垢な魅力は、エステリア国民からも愛される1つの要因だった。


先代国王の死去で15歳の若さで王女となったアルテミスは、先代国王から受け継いだ高貴さと信念の強を併せ持っていた。その青い瞳には、若さゆえの純粋さと、困難を乗り越えていくための強い意志が混ざり合っていた。


そして、ゼファー・ジェノイドはいつもアルテミスを影から支え、王国の財政を任されていた。ゼファーは長い黒髪と鋭い眼差しで凛とした風貌で、年齢は50近くになるが体力は衰えることなく精気に溢れていた。彼の厳しい表情と優れた洞察力は国を支える一翼を担い策士の雰囲気も感じさせ、彼の存在こそがこれまでの王国の安定を担っていた。


アルテミスは訓練中の二人に声をかけた。「クレア、リネル、毎日厳しい訓練をしているね。なぜそんなに頑張るの?」その言葉には、王女としての彼女の広い視野と理解が反映されていた。しかし、この質問はアルテミスが王女になってからは毎日だった。


そんな彼女の問いにクレアは、毎日躊躇することなく真剣な表情で同じ言葉で答えてた。「それは、エステリア王国とその民を守るためです、アルテミス様。」いつもと同じ言葉ではあったが、その言葉には彼女自身の信念が込められていた。そして、その強い信念はアルテミスの心に響き、「ありがとう」と言って彼女は微笑んだ。


さらに、「私たち護衛騎士団は、ただの剣士ではありません。私たちは国を守る壁でもあり、そのために私たちは剣を振るいます。それが私たちの誇りであり、責任でもあります。」クレアの口から語られたその言葉は、自身の剣を通して国と民を守るという彼女の強い意志と、その任務を果たすための絶対的な覚悟を物語っていた。


その横で、ゼファーは「それにしても、まあ、二人とも見事な技術ですね。団長と副団長の剣術の巧みさには、いつ見ても感心しますよ。」と建前として訓練中の二人を称賛していた。その言葉には少し皮肉が混じっていたが、ゼファーの声には彼独特の冷静さと知性が滲んでいた。


エステリア王国は平和を愛し、その民が自然の恵みを享受し、互いの共存を尊ぶ国である。しかし、その平和を維持するために騎士団には常に警戒を怠らない強さも求められる。それが、クレアとリネルが日々剣術の練習に励む理由であり、彼らの剣がエステリア王国の象徴でもあった。


そして、アルテミスは「会議があるから、これで失礼するね。」と言って、城の最上級にある討議の間に向かった。その背中をクレアとリネルは少しだけ不安そうな顔を見せながら見送った。クレアは強く手に握った剣を握りしめ、「あの若さで王女か?責任重大だな!」と小さく囁き、リネルも静かに頷き「先代国王が亡くなって1年、突然王女の地位について、半年前に母も亡くして、確かに大変ですね。それに、会議前は必ず声をかけられますから俺、ちょっと焦ります。」と苦笑いを浮かべながら、王国の未来を少し心配する様子も見せた。


ただ、アルテミスの後ろ姿を見つめながら、二人は国を今後も守り続ける決意と信念は絶対に揺るがないという気持ちは変わらなかった。その瞬間、空は微かに霞んで見え、遠くの空には暗雲が立ち込めて赤い閃光が走っていた。「また、イシリア帝国がどこかで戦争ですか?」とリネルがクレアに言った。しかしクレアは無言で遠くを見つめていた。これから何が起こるのか、誰にも予測はつかなかった。でも、彼らは前を向き国を守らなければならない。それが彼らの剣士としての誇りであり使命だった。


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