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第三章-25

街に対して逆さまに発動していた権能が切れたということは、街が自由落下するということである。

街が自由落下するということは、街と共に落ちる人間は、無重力にいるのと等しい状態になるということである。


マツバとランの体は、家の中でふわりと浮かび上がる。

だが、ぎりぎりで、ランはタライを見つけていた。

ランはたらいをフリスビーのように投げてマツバに渡す。


「マツバさん! これならあの穴にハマります!」


「あ、ありがとうっす!」


マツバは両手でそれをキャッチしようとしたが、失敗し、顔面でそれを受け止める。

マツバは鼻をさすりつつ、怯えた声で言う。


「で、でも、無重力空間じゃ、俺には何もできないっすよ!」


マツバの顔をまっすぐ見てランは言う。


「考えて! あなたに託された仕事でしょ!」


マツバはランの言葉にハッとさせられた。

自分がユリ達と並び立ちたいと願うなら、自分ができることを見つめなきゃいけなかった。


マツバは家の扉から外を見る。

ちょうど、自分が作ってしまった穴が見える。


マツバは、威力が高すぎて、怖くて使えなかった始動語ファイルに右手を沿えると叫んだ。


「インストール! 光爆発(photonExplosion)!」


そう言いつつ、マツバは始動語ファイルを手のひらへとフリックした。

すぐにマツバの左の手のひらに光の粒子が集まる。


「こ、怖いっす……!」


マツバは恐怖で震えながらも、その手のひらを、ちょうど穴と反対の方向へ向ける。


「バースト!」


マツバの叫び声と共に、左手に集まった光の粒子が発射された。


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


マツバは自分の左手を飛行機のジェットエンジンのようにして、前への推進力を得ると、まっすぐ自分の開けてしまった穴へと向かった。


「で、できたっす!」


涙と鼻水でひどい顔になっていたが、マツバは歓喜しつつ、穴にタライを入れると、周囲にある土を適当に入れて種を置いた。


「これでどうっすか!」



ユリは落下中の無重力状態にもかかわらず、顔面が蒼白になりながらも指パッチンを続けていた。

その様子をエリは気の毒そうに見る。


「お姉ちゃん。ここまでだよ。私と、体を人間に戻しちゃったお姉ちゃんはここで死ぬ」


「いや! まだ、あきらめない! マグマに突っ込むその数瞬前まで!」


その時、街の一部からとてつもない轟音と共に、巨大な木が斜めに生えた。

木はまっすぐに逆さ街の横の崖めがけて伸びると、そのまま崖へ体当たりし、逆さ街を持ち上げた。


「来たぁァァァァァァァァ! マツバ! 信じてたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


だが、ひっくり返るには少し落ちすぎていた。

本来であれば崖の上に当たる予定だった木は、ちょうど崖を下りた部分に当たっていた。

ユリは遠目でそれを確認する。


「やばい! ちょっと発動が遅れた分、木が当たる場所が下すぎる! エリ! ショウ!」


エリとショウは突然呼ばれてびっくりした表情を浮かべたが、そう思ったのもつかの間、ユリは叫んだ。


「インストール! 自在な蔦(freeIvy)!」


ユリの左手から二本の蔦が伸び、無重力で浮かぶエリとショウをユリの方へ引っ張る。

ユリはそのまま言う。


「エリ! 私と一緒にショウへありったけのバイオナノマテリアルを渡して!」


「わかった、おねえちゃん!」


「ショウ! 街のあの木が生えているほうだけ持ち上げて!」


「ええっ! そんなことできるか……」


「いいからやる! 変わりたいと思ってんだろ!」


「わ、わかりました!」


ユリはショウの右手を、エリはショウの左手を握ると二人は体内に残っていたバイオナノマテリアルをありったけ渡した。

ショウは二人から手を離すと、LBMT(左腕のデバイス)に右手の指をあてて叫んだ。


「うおおおおおおおおおお! インストール! 重力反転:一部(partialGravityInversion)!」


ショウに渡されたバイオナノマテリアルが重力反転の白い光の粒子となってショウの手のひらから放たれると、街の岩盤、ちょうど木が生えているところへ当たると、グンっと岩盤が持ち上がった。


「頼む、足りてくれ!」


「ベル!」


ユリは蔦でベルを引っ張ってくると、ショウの背中へ張り付かせる。


「ぐぇ! ちょっとユリちゃん! いくらなんでも乱暴だよぉ!」


そう言いつつベルは、ショウの背中に手を当てて、体内のバイオナノマテリアルをショウへと送った。

ショウはさらに出力を強めて叫んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ひっくり返れぇ!」


岩盤は徐々に傾きを大きくして行き、岩盤の片方を持ち上げるのに十分なバイオナノマテリアルが送られた瞬間、グンと岩盤の片方が持ち上がり、ちょうど垂直になる。


「ショウ! 出力を切って!」


ユリにそう言われた瞬間、ショウは手のひらから出る粒子を終了させた。

街の岩盤はちょうど垂直になるときの勢いそのまま、逆さ街から普通の街へと回転した。

街は落下し、ちょうどマグマが揺蕩っていた巨大な穴をすっぽりと埋める。


「あああああああああああ!」


ユリは歓喜の叫び声を響かせる。


「うあああああああああああああ! もう死んだと思ったぁぁぁぁ!」


エリはそう叫びつつ、両手両足を広げる。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

スカイダイビングを楽しむにさいっこーの天気だねぇぇェェェ!」


ベルは両手を器用に広げて大の字になりながら落下している。


「あははははははは、あはは! 僕、やりました!

これはすごい事ですよね! すごい事ですよねぇぇぇぇぇ!」


ショウは目からあふれる涙をぬぐうことなく落下する。

上に見える青い空が、彼らの事を祝福していた。

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