第三章-23
ユリはそう叫ぶと、エリの真ん前まで肉薄する。
近づかれてしまったエリは鉄パイプで応戦しようと構えるが、突然、目の前からユリの姿が消えた。
「えっ! どこに……!」
「ここだよ!」
ユリはすでにエリの後ろにいた。
エリの前まで肉薄していたユリは飛び上がってエリの後ろに回っていた。
エリの首筋には軍刀が当てられていた。
エリは両手を上げ、深々とため息を吐きつつ言う。
「……負けた」
「だろ。私は頭脳派だから」
「違う。こういうのは狡猾って言うんだよ。私のやさしさに付け込んだでしょ」
「バレた? 人間の定義を聞いた瞬間いけると思ったね」
ユリはそのまま背後に倒れる。エリが慌ててユリを受け止めると、そのままユリを膝枕する。
「お姉ちゃんはほんとにずるい。
でも、そのずるさの中に私の利益まで考えてあるから、文句も言えない」
「本当にずるいやつは誰かにずるいって指摘される余地を残さないもんさ」
「今、私に言われたよ?」
「うるさい」
エリは鼻息を荒げつつ、ユリの左肩、ちょうど左腕があったはずの場所に手を当てる。
「こんなにしちゃって……」
エリが少し目を閉じる。
エリの体内のバイオナノマテリアルがエリの手のひらからあふれ、ユリの左腕を形作る。
ユリの左腕があっという間に再生される。
「おお、ちょうど無くなってて困ってたんだ。ありがとう」
ユリの軽口をエリは無視する。そこへ、ベルがのんびりと歩み寄る。
「さてさて、姉妹喧嘩はおしまいかなぁ?
あ、せっかくなら仲直りのキスしてもいいよぉ?
あたし、後ろ向いてるからねぇ」
「……ベルちゃん。軽口のセンス失ったんじゃない?」
エリにそう言われ、ベルは嬉しそうに笑う。
「名前呼んでくれたねぇ。まだ、私、バイオナノマテリアルという蟻の集合体だけどねぇ」
「ふん。いいんだ、もう。私は気にしないことにした。
お姉ちゃんが変身して気が付いたよ。体が何でできているか、なんて些末な問題なんだ」
「あたしは傷ついたなぁ。謝ってほしいなぁ」
「いやだ」
エリはそう言うとベルから目を逸らす。そして、少しほほを赤らめながら言う。
「私の真面目さでは、世界を戻すのにこんな方法が限界だった。
お姉ちゃんの狡猾さが加わればもっとましな方法があるかもしれない」
「あたしはぁ?」
「ベルちゃんの記憶の権能は役に立つに決まってるでしょ」
ユリはフフッと笑って言う。
「私は役に立つか分からないってこと?」
「そうだよ。だって、そうじゃん。私が想像することを必ず超えてくるんだから。
私に、おねえちゃんの可能性を測ることはできないよ」
「エリは天才だけど、正攻法を攻めすぎるからね。どんな時でも抜け穴を探さなきゃ」
ユリの言葉にエリは溜息をついた。
「エリちゃん、装置はぁ?」
ベルの言葉に、エリは頷くと、光弾を一つ、装置の中心に合った機構へ打った。
装置はその一撃で機能を停止した。
上空に浮かんでいた世界復元リソースはすでに半径二十メートルになっていたが、霧散した。
「街の人は戻るの?」
ユリの疑問にエリは頷いた。
「いずれね。私はこの街の人を資源として利用したけど、データ収集所から削除したわけじゃない。
元居た場所で復活するよ」
「そっか、ならよかった」
ユリはそう言いつつ、目を閉じる。
左腕がバイオナノマテリアルによって治ったとはいえ、いまだに痛みはあった。
「さて、これからどうする……」
エリがユリへこれからの事を問い詰めようとした、その時、逆さ街を支えているはずのショウが、屋上へ駆けのぼってきた。
「ま、まずいです! 街をこれ以上支えられません!」




