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第三章-21

▼世界の命運をかけた姉妹喧嘩


「私は見学してるねぇ」


ベルはそう言うと、エリの記憶を見ていた場所へ戻ってしまう。

相変わらず自由だなぁとユリは、のんびり感想を思っていると、エリが言った。


「ぼんやりしてないで。この勝負、私は本気で勝ちに行くよ」


エリはそう言うとポケットから拳大のカプセルを取り出した。ユリは問いかける。


「それは?」


「エネルギーが足りなかった時用の世界復元リソース。

バイオナノマテリアルを世界復元に使うためのエネルギーに変換した物だよ」


エリはそれを地面に叩きつけて割った。

カプセルから、圧縮して込められた大量のエネルギー体があふれ出ると、エリの体を包み込んだ。


「これはもうバイオナノマテリアルとは違うから、自在に何かへ変化させることはできない。

それでも、飛ばしてぶつければ、物理的なダメージを与えられる」


エリは自分の周囲を包み込みオーラのようになっているリソースの一粒を光弾へと変化させ、地面へ向かって飛ばした。地面にはキッチリ穴が開いていた。


「なるほど、遠距離攻撃ができるわけだ。ちょうどいいハンデだ」


「負けた時言い訳しないでよ?」


「ぬかせ! 妹のくせに!」


ユリは軍刀を手に駆けだした。

すぐさま、エリはユリに向かって光弾を飛ばす。

まるで機関銃のように次から次へと飛んでくる光弾は、その一つ一つがユリの急所を的確に狙っており、油断すれば、たとえ不死者と言えど、行動不能に陥る。

そんな、光弾をユリは素早く走り、時に飛び、時にかがみ、時にその光弾を叩き切りダメージを負わないよう動く。


しかし、ユリはすぐにこのままじゃマズイと気が付く。

飛んでくる弾の間隔が短すぎて、エリに近づけなかった。


――このままじゃ、いずれ私がやられる。何か手を打たなきゃいけないけど……。その前に考えることがある。


ユリはエリの顔を見る。少し前よりはマシになったが、それでもエリがユリを見る目には嫌悪感が混ざっていた。


――私はエリに私自身が人であると認めてもらいつつ、勝利しなきゃいけない。……そうはいっても、そもそも、人って何だ? この疑問を解消しないと私はエリに取り入れない。


ユリは疑問をそのままエリへぶつける。


「エリ!」


「なに? お願いされてもこの攻撃はやめないよ!」


「そうじゃない、エリにとって人って何⁉」


エリは怪訝そうな表情を浮かべる。


「哲学? 誘導尋問で私を混乱させようとしてる?」


ユリは苦笑いする。

エリは勝負中の姉の行動すべてが勝利に向かっていると思ってくれているらしい。


そうやって姉が油断ならない敵だと認識してくれていることはうれしいが、その思考は今邪魔だった。

「違う! とにかく答えて!」


「……まぁ、よくわからないけど、いいよ、答えてあげる。

現時点では、バイオナノマテリアルで作られていない人の事かな。

私はお姉ちゃんを形作るバイオナノマテリアルの一つ一つを知覚できる。

細かい、そうした粒がわさわさ集まっている物体を人とは言えないからね」


「そっか、教えてくれてありがとう」


ユリは、少なくともエリに人間と認めてもらう方法を確信した。


――私は、生命の権能の使い手。事、生命体をいじる事に関して、私以上に上手な人はいない。全身がバイオナノマテリアルでできていると言うのなら、それを使って、普通の人間の細胞も作れるはずだ。


ユリは、光弾を避けつつさらに思考する。


――でも、この方法をやって、体内のバイオナノマテリアルを使い切ったらもう不死じゃない。これまで、百年間、戦闘で『死』を意識したことなんてない。四肢欠損による戦闘への影響という損得勘定程度しか、自分へのダメージを考えたことは無かった。


ユリはハッと息を吐いて考える。


――私に、やれるか? 本当の命のやり取り。


ユリはエリを見る。姉として、その顔を何度も見てきたからこそわかる。

その表情は嫌悪感と、孤独。誰も頼りにできなかったことで鋭くなってしまった眼つき。


ユリは決心した。


「私は、姉だろうがよぉ! もうこの世界で一人しかいない肉親の!

大事な大事な妹の! 百年の孤独を癒してやろうって時に、この程度の事でビビってどうすんだ!」


ユリはLBMT(左腕のデバイス)に右手を沿えて叫ぶ。


「インストォォォォォォル! 鋼鉄の木盾(steelWoodShield)!」


緑に輝いた軍刀を床へと刺した。

床からはユリを囲うように半円の木が、一瞬で成長し、ユリを光弾から守る。


「そんな、盾! いつまでもつかな!」


エリの攻撃が一層激しくなる。ユリは盾の強度が足りていないことにちっと舌打ちを打つ。


「もって三十秒か……、間に合わせてみせる!」

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