第三章-18
ユリはついにエリから目を離してベルを見た。
「不死者じゃないってどいうこと?」
「言葉通りの意味だよぉ。エリちゃんは『大進化前の人間』ってことだよぉ」
ユリはゆっくりとエリの方を見る。
「本当か? 死んだら復活できないの?」
「……まぁね」
「なんで、それを早く言わないの?」
「私がこの世界の戦闘で負けると思わなかった」
ユリは大進化を受けて両親を殺害したことに対して、一度死なせることで罪を償わせようとした。
だが、エリにとっての『死』は一度しか体験できないものだった
少し力を緩めかけたユリであったが、再度力を込め、厳しい表情でエリを見据える。
「でも、エリが両親を殺したのは確かだ。それを償ってもらわなければ、私の気が収まらない」
「そのことだけどねぇ。ユリちゃん。
エリちゃんの記憶をのぞかせてもらったんだけど、ちょっと話がややこしいんだよぉ。
あたしたちはエリちゃんの世界を戻すと言う言葉を、最終的には時間的なものだととらえていたよねぇ」
「そうだよ。だから、それは無理だってわかってるじゃないか。
このでかい光の球だって何か別の事に使うんだろうって」
ベルは首を横に振る。
「別の事じゃないよぉ。世界を元に戻すんだよぉ」
「どうやって?」
「えっと、ちょっと難しいんだけどぉ……」
ユリの質問にはベルではなく、エリが答えた。
「バイオナノマテリアルにはデータ収集の機能があるの。
どこにあるのか分からないけれど、その場所を破壊できる可能性を徹底的に排除した要塞のような所があり、そこにデータ収集所がつくられている。
そこに集められるデータっていうのは地球上に存在するすべての原子の状態と位置の情報だよ」
ユリは驚愕の表情を浮かべてエリを見る。
「データ収集が始まったのはいつ?」
ユリの質問にエリは、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
「へぇ。あんたユリみたいに鋭いね。
もう、私が狙っていることが理解できたって顔だね。
データ収集が始まったのは大進化の瞬間からだよ」
「ユリみたいってなに? ユリだけど?
コホン。
……つまり、大進化直後の地球上のあらゆる原子の状態と配置が分かっているってこと。
それなら、そのデータを地球上に上書きすれば、世界は大進化が始まった瞬間の状態に戻ることになる……」
エリは頷いていたが、ユリは少し考え問題点を指摘する。
「でも、バイオナノマテリアルが存在する限り、大進化のあの悲惨な日を繰り返すだけなんじゃないの?」
「そこは抜かりないよ。
世界を元に戻す作業だけでバイオナノマテリアルを全て使い切る予定だから。
世界が戻っても、大進化は起きない」
ユリはこれ以上ないほど口を大きく開けて驚きを体現している。
だが、再度軍刀を握りしめ直すと聞く。
「エリが世界を復元する方法は分かった。
でも、それと、お父さんお母さんを殺したことがどう関係するの?」
エリは少しうつむきがちに言う。
「あんたの親じゃないけど。……お父さんとお母さんはあの時点で殺しておかないと駄目だったんだ」
「どういう意味?」
ユリは二つの意味でどういう意味と聞いたが、エリは後者の疑問にのみ答えた。
「あんたは、大進化で適応できた人とできなかった人にどんな差があると思う?」
「え?」
考えたことも無かった疑問を呈され、ユリは言葉に詰まる。
大進化というくらいだから、進化できる才能のようなものがあるか、無いかが分かれ目くらいにしか考えていなかった。
エリは話を続ける。
「大進化に適応できた人間は、バイオナノマテリアルのデータ収集所にデータを残せた人だ。
反対に、大進化に適応できなかった人間はバイオナノマテリアルのデータ収集所にデータを残せなかった人だ」
エリは一呼吸おいて続ける。
「そして、私のお父さんとお母さんはバイオナノマテリアルのデータ収集所にデータを残せなかった」
ユリは大進化の日を思い浮かべる。
自分の意識が少しはっきりしたとき、両親はこの世の苦しみを全て集めてしまったかのような苦悶の表情を浮かべて床をのたうち回っていた。
あれが、適応できていない人間の状態だったのだろう。
そこで、ユリは一つ疑問が生まれた。
「ということは、大進化発生直後のデータに世界を戻しても、バイオナノマテリアルのデータ収集所にデータがないお父さんとお母さんは帰ってこない?」
「いや、お父さんとお母さんは復元される。適応できず苦しんでいるときに私が殺したから」
「……は?」




