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第三章-16

ユリの忠告を無視してベルはエリの真ん前に立つ。


「あんたもやろうっての?」


エリがそうつぶやくと、ベルは首を横に振ってそのまま地面に倒れた。

否、倒れたのではなく土下座をしていた。


「髪の毛を一本、くれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


大きな声でベルはそう言った。ユリもエリも、ポカンと口を開けてベルを見る。


「あたしはエリちゃんの記憶が見たいのぉ!

エリちゃんの人生がどんなだったのか知りたいのぉ!

でも体の一部をもらわないと見れないからぁ!

髪の毛一本でいいから、頂戴なぁぁぁぁぁぁぁ!」


ベルの声がこだました。


水を打ったようにシーンとしてしまった塔の屋上で、エリは小さくふっと鼻息を漏らした。


ユリはそれを見て驚く。

これまで表情筋が死んでいるように見えたエリが少しだけ微笑んでいるように見えたからだった。


「空気を読めない。

いや、読めないんじゃなくて読まない。

自分のペースにするために。……変わってないの、ずるい」


エリは誰にも聞こえない小さな声でそう言った。

ユリはエリのその言葉を聞き取ることができず、聞き返した。


「え? なんか言った?」


エリはユリの聞き返した言葉を無視して言う。


「髪の毛がいるんだっけ? それなら、どうぞ」


エリは長髪を一本引きちぎり、ベルの方へ伸ばす。

ベルはゆっくりと近づき、髪の毛を受け取ると、言う。


「エクスポート! 記憶の本(memoryBook)!」


ベルは取り出した記憶の本に髪の毛を挟み込むと一度本を閉じる。

本は白く輝き、読み込みが完了したことを告げる。

そこへユリが怒りの表情を湛えて近づいた。


「ベル……? 何してるの? エリには親殺しの罪を償わせなきゃ」


ユリの言葉にベルは本から顔を上げて答える。


「うーん。あたしずっと考えてたんだよねぇ。

エリちゃんと対峙したとき、あたしはエリちゃんを殺す事へ積極的に参加すべきかをねぇ」


ユリが反論しようとしたが、ベルはそれを制して続ける。


「あたしはさぁ。あの気持ちのいい両親を殺したエリちゃんに罪がないとは思わないよぉ。

でも、それを裁くのは、この無法な世の中において、唯一の肉親であるユリちゃん以外いないんじゃないかなぁって思うんだぁ。

だから、決着は二人でつけるべきだと思うのぉ」


「私とエリで決闘しろと?」


「うん。ユリちゃんが勝てばこの世界は引き続き続いて行くし、エリちゃんが勝てば、世界は元に戻るらしい。

でも、その前にエリちゃんがどんな人生を送ってきたのか知っておきたいと思うからぁ」


ベルはそう言って戦闘の余波が届かないところまで後ろに下がってしまった。


ユリは頭を掻きつつも、納得する。自分はエリに対して筋を通せと言うつもりでここまで来た。

それなら最後まで筋を通せ。

ベルはそう言っているのだと解釈した。

決してこれまでの戦闘でもう疲れたとかそう言う理由ではなく。


ユリはゆっくりとエリを見る。

立ち上がったエリはようやくユリの事をまっすぐ見ていた。


大進化が発生したときとまったく変わらない顔をしたエリ。

唯一異なるのは来ている服が病院の患者衣ではなく、どこぞの高校のセーラー服を着ていることだった。


「その服、どこで手に入れたの?」


そう言いつつユリは黙ってLBMT(左腕のデバイス)をいじる。


「……とある高校の廃墟、に保存してあったの」


エリは自分の格好を見下げる。

ユリはデバイスの操作を終え、少しだけ後ろに下がってその姿を見て言う。


「似合ってる」


「……ありがと。あんたに言われる筋合いないけど」


ユリは左腰につけていた軍刀の鞘を後ろへ放り投げると、駆け出した。


「どういう意味だよっ!」


ユリは軍刀を袈裟切りに繰り出す。


エリは駆け寄るユリに対して左の手のひらを出すと、何か力を込めた。


『止まれ』


だが、ユリには何の影響もなかった。


ユリは何の障害もなくエリへと切りかかった。

エリはその斬撃をギリギリのところで回避する。


「……どういうこと? なんで止められないの?」


「エリのその力はバイオナノマテリアルを使って動きを止める技でしょ?

残念だね、バイオナノマテリアルは無限にあるわけじゃないんだよ!」


「そんなこと、私が知らないわけないでしょ!

ここにはバイオナノマテリアルが集まってきてるんだよ⁉

無くなるわけない! 何をしたの!」

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