第三章-15
▼二つの罪悪感
ユースケ、スミレの二人を戦闘不能にしたユリとベルは、巨大なバイオナノマテリアルの光球の下で作業を続けるエリのもとへ歩みを進める。
「……あの光球、めっちゃでかくなってない?」
「ほんとだぁ……」
光球はいつの間にか直径十五メートルほどのサイズとなっており、まるで地上に作った太陽かのように白く輝いていた。
ユリはエリの後方に立つと言う。
「エリ! 探したよ!」
ユリはそう声をかけたが、エリは一切振り向かない。
それでもユリは気にすることなく続ける。
「昔は、おねえちゃん!
ってかわいかったのに、もうそんなエリはいないんだね。
でも、それでいい。親を殺した罪、償ってもらいに来たよ。覚悟はできてる?」
ユリはそう言うと、エリに向けて軍刀を構えた。エリはそれでもユリの事を見ない。
ユリはLBMT(左腕のデバイス)に右手の人差し指と中指を沿えて叫ぶ。
「インストール! 植物災害(plantDisaster)!」
始動語ファイルがスムーズに武器へとインストールされ、緑色の光が軍刀を覆う。
ユリはその軍刀を一気に床へと突き立てる。
ユリの周囲から先端が鋭利な錐のようになった木々が生えると、急所を一撃で捉えようとする蛇のように、エリへと群がった。
だが、エリの周囲一メートルほどのところ、まるで見えないフィルターがあるかのように、エリの作り出した木がすべて、粒子化してしまった。
「くそっ……!」
ユリは唇を噛む。バイオナノマテリアルを自在に操ることのできるエリに、権能での攻撃は意味をなさないと言うことは、頭では分かっていた。
だが、それでも物量やそのスピードでどうにかなる可能性を試さずにはいられなかった。
そして、すべての権能の攻撃が無効化されると、ユリは権能不要と判断した。
軍刀を抜き、一度振ると、次は肉弾戦と言わんばかりにユリへと突進した。
「ねぇ。あなたは、至天の案内人って言う活動をしているんだって?」
相変わらず顔をユリへ向けることは無かったが、突然エリから話しかけられたユリはもう一歩踏み込めばエリに切りかかれると言うところで停止する。
「えっ?」
「どうして、至天の案内人なんて活動してるの?」
「決まってる。私たちの両親が全世界の生き残った人間から『死』の権利を奪ったから」
「あなたの両親じゃないけど」
「え? どういうこと?」
ユリはエリの言ったことが理解できず聞き返す。
だが、エリはそれを無視する。
「それで、あなたのその活動は人の命を奪うためにやってるの?」
ユリは叫ぶ。
「違う! なぜみんなそう考えるんだよ!
至天の案内人は『死』を奪われてしまった人が『死』を望むなら、それを与えると言う活動だよ!」
「私に『死』を返還しようとしてるの? 私は『死』なんて望んでないけど」
あくまで冷静な声がエリから帰ってくる。
「エリは別! あんたは両親の命を奪った!
だから、あんたには『死』をもってその罪を償わせる!」
「依頼したらどうなるの?」
「は?」
ユリは眉間にしわを寄せる。
「私が至天の案内人に『死』を依頼したらどうなるの?」
あっけにとられて何も言えなくなってしまったユリに代わってベルが答える。
「簡単だよぉ。あたしの記憶の権能を使って記憶を見せてもらい、強烈な心残りが無いかを調べ、心残りが無くなったら、ユリちゃんがその人専用の『死薬』を調合するって流れだよぉ」
「その『死薬』は絶対飲むの?」
「本人の自由だよぉ」
エリは感心したように言う。
「へぇ、最後まで選択肢は依頼者にあるんだ。考えられてるね」
「いや、復活しない完全な『死』には本人の同意が必要なんだよぉ」
「なるほど、最後に『死薬』を飲むか飲まないかの選択をすることで、同意とみなすのか」
エリとベルの会話にユリは割り込んだ。
「私を無視してんじゃねぇ!」
ユリは大上段に構えた軍刀を、エリに向かって一気に振り下ろした。
エリは寸前のところで椅子から立ち上がると、ユリの一撃を紙一重でかわす。
エリの一撃は椅子に命中し、椅子はバラバラに砕ける。
「避けんなよ!」
「何言ってるの。避けるに決まってるでしょ」
エリがそう言ったとき、エリの前にまっすぐベルが歩み寄る。
だが、ベルは武器であるはずの斧を背中に背負ったままだった。その様子を見てユリは慌てる。
「ちょ、ベル! エリに権能は効かないんだよ!」




