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第三章-14

マツバはショウをじっと見る。

今の彼なら殺したいほど憎いと言っても耐えそうではあった。

だが、マツバ自身、ショウを憎いとは思っていなかった。

なぜだろうと自身に問いかけた時、すぐに出てきた答えは一つだった。


「俺は大進化によって人生が変わって百年経ったっす。

もし、百年前、ショウに会ってそう言われてたら憎かったかもしれないっす。

でも、今となってはどうでもいいっす。

俺は俺の人生を生きるっす。

ショウは百年悩み続けた。

これから償うと言うことっすよね?」


ショウは頷いた。


「はい。そのつもりです」


「なら、俺から言えることは無いっす。頑張ってくれっす」


「私も!」


突然、部屋の隅にいたランが手を挙げる。


「私も、協力する!」


ショウは驚いた顔でランを見る。


「君は文系じゃないか。

昔、僕が理系専門の大学に行くって言ったら口を一切聞いてくれなくなるくらいには理系科目が嫌いだったじゃないか」


「関係ない! 私はやる! やるったらやる!」


ランの突然の決意にショウはあたふたとしてしまい、気の利いた言葉を言えなかった。

そしてランはマツバに言う。


「さ、マツバさん。種を植えに行くんでしょ? 種は持ったよね! 早く行こう!」


ランはマツバの背を押して部屋から出て行こうとする。

ランがマツバについて行くと知ってショウは少し慌てたが、すぐに叫んだ。


「ラ、ラン! 無事に帰ってきて!

街の岩盤から落ちると無限に空へ飛んで行ってしまうから気を付けて!」


「もちろん!」


ランはショウにサムズアップを見せると、ぐいぐいとマツバを押して塔の階段を下りる。


「ちょ、ラン、俺を押さないでくれっす! 俺はまだ行く覚悟ができてないっすよ!」


「そんなの、外へ出てから決めればいいよ!」


妙に明るいランにどんどん背中を押され、塔の外へ出てきてしまった。


街の外はひどい有様だった。

街のいたるところからバイオナノマテリアルの淡い光が噴出すると塔の上へ吸い込まれている。


「いやだぁ! 溶けたくない!」


そう叫んでいた住人が光の粒子となり、塔の上へ吸い込まれていく。


「人も回収するんすか……」


「……マツバさん、急ごう。私たちもいつ、粒子になっちゃうかわからない」


マツバは自分の足が震えだしたのを自覚する。

これ以上ここにとどまっていたら動けなくなってしまうと考え、マツバは走りだす。


「そ、そうっすね、急ぐっす!」


走りながらも周囲では光の粒子が塔へと吸い込まれていく。

それを見て肝っ玉を縮み上がらせていたマツバに、ランが話しかける。


「マツバさん。計算するの、あの人と協力してくれてありがとう」


マツバは意外そうにランを見る。


「当然じゃないっすか。ショウの方が優秀っすよ?」


「そう言うことじゃないの。

……でも、それでもいいか。とにかくありがとう。

ショウはようやく一歩踏み出せたみたいだから」


マツバは頷いた。


「そういうことっすか。

立ち上がって歩き出すのか、座り込んだままなのか、選ぶのは自分っす。

彼は立ち上がることを選んだ、それだけっす」


そうだ、だから自分もここで止まるわけにはいかないっすと、マツバは心の中で自分を奮い立たせる。

そして、ふとランに聞く。


「どれだけ待ったすか?」


「五十年くらい!」


「待ちすぎっすね!」


マツバとランは二人してふふふと笑った。

その時、岩盤が大きく揺れた。

街を支えるためのバイオナノマテリアルの分布が岩盤上で変化し、バランスを保てなくなりつつあるようだった。


「うわぁ!」


「きゃあ!」


走っていた二人は揺れによってバランスを崩す。

揺れはそのまま、岩盤を傾かせた。

ちょうどマツバとランが走っていた方向に岩盤が傾くと、二人はそのまま滑って行ってしまう。


「ランさん! 何かに掴まるっす!」


「な、なにもないよ!」


そして、二人の数メートル先の岩盤が裂けた。


「うわっ、マジっすか!」


不運とは畳みかけるものだと、我が物顔で言ってくる奴がいたら今度殴ってやるとマツバは心に決めつつも、周囲を探る。だが、何もない。


「いや! こうっす!」


マツバはランより先に滑ると刀を抜き放ち、すべる先に見える街路樹に投げた。

刀は見事街路樹の根元に当たり、木は見事にマツバたちの方へ倒れてきた。


「よし、これに掴まるっす!」


マツバは木の枝につかまった。


「わ、わかった!」


ランも滑りながら木に手を伸ばし、その枝を掴んだ。

だが、不幸の女神は我が物顔でマツバたちに言った。


不運って畳みかけるんだよ?


ランの掴んだ枝はランのスピードに耐えきれなかった。


「あっ!」


ランがそう叫んだ瞬間、マツバの体は勝手に動いていた。


「ランさん!」


マツバはランの方へ飛び込むと自分が前へ飛ぶ反動を利用してランを木の方へ放り投げた。


「マ、マツバさん!」


「心配すんなっす! 俺なら大丈夫っす! 先に埋める場所へ行っててくれっす!」


マツバはそう言いながら岩盤の割れ目に吸い込まれていった。


「マツバさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


ランの叫び声がむなしく響いた。

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