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第三章-13

ショウはマツバの顔を見る。

いつも少しニヤッとしている彼の顔が真に真面目な顔つきをしていた。


「俺は大進化の日、光の権能が使えるようになっていたっす。

その時、俺は全身が光り輝いていたっす」


「全身が……。それは、さぞ、周囲の人から疎まれたでしょう」

その通りっす。光るだけっすから、亜獣狩りにも参加できず、まぶしすぎる俺は街の人々からは次第にハブかれ、居場所がなくなったっす。

だから、ほぼ百年洞窟にこもりながら時々外に出て本を物色する日々を送ってたっす」


「それは……」


「俺は至天の案内人コンシェルジュが目の前に現れた時、運命がやってきたと思ったっす。

すぐに殺してくれとお願いしたっす」


「そしたらユリさんは何と……?」


「ユリ姐さんはこう言ったっす。

『死を与えるのは私の役目だから、あなたにも死を与えるのはやぶさかでないよ。

でも、君はこれまでずっと光る体を嫌って閉じこもっていたそうじゃない。

『死』以外の選択肢を吟味してないでしょう?

あなたはまず、自分で自分の選択肢を増やす活動をするべきじゃないかな?』」


「なるほど……」


ショウはマツバに言われたことが、自分に言われた時、どうなるか考えた。

大進化の原因を作ってしまった自分は、自分の力で世界を何とかするという選択肢を選ばず、エリという他人にどうにかしてもらうという選択肢を自ら選び、閉じ込められ、こじれて『死』を望んだ。


これまで、一度でも自分で自分の選択肢を増やす活動をしただろうか。


「その日のうちに俺はLBMT(左腕のデバイス)で始動語ファイルを作れば自分の光を制御できることを教えられ、光をある程度操れるようになったっす。

思い込みとは怖いっすね。自分から出る光を止められないと勝手に決めつけてたっすから。

自分が弱いせいで何にもできないと決めつけていたんすから」


マツバは右手でLBMT(左腕のデバイス)を撫でる。

光の権能について研究を始めたのは最近であるため、始動語ファイルは対して作れていない。

だが、最初に作った始動語ファイルをフリックし手のひらへ移す。


「インストール、光の花火(fireworksOfLight)」


部屋の中に小さな線香花火のような光が広がる。


「きれい……」


ランのつぶやきにショウは頷いた。

マツバは権能をほめられ少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる。


「俺は人と戦うことなんてしたことないっすから、戦闘には一切役に立たないっす。

それでも、俺はユリ姐さんについて行くっす。

そして、世界を見て、それでも『死』を欲するかどうか、自分が弱いままなのかを試すっす」


マツバは自分が偉そうなことを言っていることに気が付き、咳ばらいをして言う。


「おほん。何が言いたいかというと、もう何もできないと思い込んでも、本当は自分に見えていない無数の選択肢があるっす。

でもその選択肢は自分を認め、信じてあげないと見えないっす」


かつての俺がそうであったようにとマツバは小さな声で付け加えた。

マツバはそう言うと計算に戻り、再び頭を抱える。


ショウはマツバの事をしばらくじっと見ていた。

何を考えていたのか。

それは本人しかわからないだろう。

だが、最終的に彼は答えを出した。


「僕にも計算を手伝わせてください」


「よし、一緒にやるっす」


すぐさま部屋の壁は計算で埋まる。


「これは、こうじゃないっすか?」


「いやだが、これでは岩盤の強度が持たないのではないでしょうか?」


「いや、強度は持つっすよ。ここにこの建物があるんすから」


「なるほど……ならここがこうですね」


「さすが元研究者っすね。

ショウの専門は生物学のはずっすけど、物理学の理解も応用も早いっす」


塔の上ではユリ達が戦っており、その衝撃音がここまで聞こえてくる。


「二人とも、頑張って」


ランはマツバとショウの動きを邪魔しない位置で見守っていた。

息をするのも忘れて熱中していたショウは、眩暈を感じ後ろへよろける。

それをみてマツバは言う。


「休憩するっすか?」


「いや、大丈夫です。マツバさん後はここにこれを……。

これで種を植える位置と角度が確定します」


「……なるほど」


マツバはショウの優秀さに驚嘆した。

さすがに元研究者と言ったところだろう。

百年の間、暇だったから物理の教科書を読んでいただけのマツバとは物理学に対する理解度が雲泥の差だった。


ショウは少し上気し赤くなったほほを自分でさすりつつ、口角が吊り上がりつつ言う。


「ああ、やっぱり僕は腐っても研究者なんだ……。計算がこんなに楽しいなんて!」


ショウはうっとりとした視線で部屋の壁にびっしりと書かれた式を眺める。

同じように計算式を眺めていたマツバはショウとは真逆の声で言う。


「俺はいやっすね……」


「僕は決めました。やはり、この大進化後の世界でも研究者として生きます。

そして、大進化で起きた不幸を全て無くすための研究をします」


「へぇ、どうやってやるんすか?」


「わかりません。エリさんのように昔に戻すのか。

それとも、大進化で適応できなかった人を今の世に復活させるのか」


ショウはほほを撫でるのをやめ、吊り上がっていた口角も元に戻し真面目な顔つきでマツバに聞いた。


「僕が憎くないですか? 大進化を引き起こす原因を作り、百年その事実から逃げ回っていた男です」

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