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第三章-12

▼マツバの奮闘


塔の中層、ショウの部屋でマツバは隅で作ったチョークをもって壁に書いた計算式とにらめっこしていた。

ユリからもらった資料には種を植える方向と飛び出す木の太さ、長さ、勢いのデータ、そして岩盤の大まかな質量や大きさ、密度が書かれていた。


ユリからもらった種を使って確実に逆さ街をひっくり返すための効果的な種植えポイントとその角度を算出しなければならない。


マツバの後ろではショウがランの事をぎゅっと抱きしめていた。

ショウは今にも泣きそうな雰囲気であり、ランはその様子をみて驚きの表情を浮かべていた。


「ショ、ショウ? そんなに寂しかったの……?」


だが、ショウは首を振った。


「ちがう。僕は怖かったんだ。君がさらわれたと聞いた時、僕は心底怖かったんだ……。

心何てもうなくしたと思っていた。僕の心を動かす者なんてもうないと思っていた。

でも違った。こんなに近くに、僕の心のよりどころがあったんだ」


明らかな愛のささやきにランは顔を真っ赤にしつつも、ショウをさらに抱きしめる。

ショウはその感触を感じつつ言う。


「僕は『死』を望み、この世から自分という存在を消したいと思っていた。

でも、いざ、自分の身近な人が消えるかもしれないと思うと、とても平静ではいられない恐怖を感じた。

僕はこんな気持ちを君に与えていたんだね……」


ショウは消え入りそうな小さな声でつぶやいた。


「ごめんね……」


ランは抱き合っていた体をショウから離すと、自分の頬に伝ってくる涙を乱暴に拭い、ショウの頬を手のひらで両側からぎゅっと挟み込んだ。


「そんな簡単に許すと思ったら大間違いよ。私はやっぱり、君に生きてほしい」


「ぎょ、ぎょめんなさい……」


ショウはランの目をまっすぐ見つつ、すぼめられた口でそう言った。


「でも、それも、普通に明日が来ればの話よね。

エリが計画していることがうまく行ったら、世界は過去に戻るのよね?」


賞は黙ってうなずいた。


「ユリさんは時を戻す方法なんてないと言っていたけど。

あれだけ周到に準備していたエリさんが、その程度の事を考えてないはずがないんだ」


ショウはそう言いつつマツバの方を見る。

マツバはいたるところの壁を使って、必死に計算をしては首をひねっている。

ショウはその計算式を見て何を考えているのか悟った。


「マツバさんは、ユリさんたちがエリさんを殺す事、疑ってないんですか?」


マツバは一瞬ショウの方を見て、すぐに計算式に顔を戻しつつ言う。


「疑ってないっす。ユリ姐さんとベル姐さんはやると言ったことを必ずやる人っす。

それが善の行いであれ、悪の行いであれ」


マツバは一度、言葉を切ったのち、ため息交じりに言う。


「ただ、今回に限って信じるかどうかを語る意味はないっす」


「え?」


「エリが世界を戻してしまう。それなら、街をひっくり返す必要はないっす。

マグマから浮いていた街というのは存在しないことになるっす」


「なるほど、つまり、ひっくり返す準備をする以外やることがないと言うことですね?」


「身も蓋もない言い方をすれば、そう言うことっす」


マツバは頭を掻きながら計算を続ける。

そこへショウが一度息をゴクンと飲み込んで、覚悟を決めてから言う。


「僕も手伝っていいでしょうか? こんな、罪深い僕ですが……。

僕のやる事信じてもらえないかもしれないですが……」


臆病者のマツバにとって他人の勇気には敏感だった。

ショウがどれほどの覚悟を持って今の発言をしたのか、正確に捉えていた。マツバは言う。


「もちろん頼むっす! 俺は高校物理程度しかわからないっすから。でも一つだけ約束してほしいっす」


マツバの言葉にショウの顔がゆがむ。

何をお願いされるのか、疑っている表情だった。

マツバは安心してほしいと少し微笑みつつ言う。


「もし、これで街をひっくり返して救ったら、少しだけショウ自身の事を自分で認めてやってほしいっす」


「え?」


「終わった後、よくやったって自分をほめてあげてほしいっす」


ショウは面食らった表情でマツバを見ていた。

マツバは計算を一度やめ、ショウをまっすぐに見つめた。


「俺は一度『死』を望んたことがあるっす」

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