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第三章-11

だが、ユリはすぐにスミレを無視し、いつの間にかベルの持つ斧の斬撃を受け止めているユースケの背中を切りつけた。


「こっちだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


背中をバッサリと切られたユースケは苦悶の表情を浮かべる。


「ぐぅぅぅ! クソ! 先ほど発動した権能はコンビネーション力を上げるものでしたか!」


「惜しいな、洞察力はさすがだね」


ユリはそうつぶやくと、後ろに大きく飛び下がってしまったため、まだ体勢を立て直し切れていないスミレに軍刀を向ける。

スミレは自分に攻撃が来ると判断しLBMT(左腕のデバイス)に右手を沿える。


「インストール! 水の盾(WaterShield)!」


スミレの扇子が青く輝き、彼女の前に直径一メートル、厚さ一メートルはあろうかという、盾が出現する。


だが、ユリはにっこり笑ってスミレに向けていた軍刀をおろす。

スミレは自分の肩に手を置かれた感覚で、自分の状況を把握した。


「……負けましたわ」


「水の権能の弱点は、バイオナノマテリアルを水に変換する工程そのものに時間がかかることだよぉ」


いつの間にかスミレの背後に立っていたベルが、スミレに対して直接始動語ファイルをインストールする。こうすることで、ベルは自分自身をまきこむことなく、相手に記憶を植え付けられる。


「じゃあねぇ。起きたら全部終わってるよぉ。インストール。安眠(memoryOfQuietSleep)」


スミレの全身から力が抜け、その場に倒れ込む。

呼び出した記憶はベル自身の酒に酔い過ぎて一日寝過ごしてしまった日の深い睡眠だった。


「あ、しまった、この記憶、途中でゲロ吐くんだったよぉ……」


ベルは仰向けになってすやすやと眠るスミレを少しの間見つめていたが、スミレを横向きにし、吐いても息が詰まらないよう、いわゆる回復体位へと動かす。


そんなベルを尻目に、ユリはユースケの首筋に軍刀を当てていた。

いかに不死人でも、首を斬られれば再生するまで一日以上かかる。ユースケはおとなしく観念した。


「やられました……。一体どうやってこれほどのコンビネーションを……?」


「私は別に苦労は無いよ。

ベルが私の記憶を覗いて、私の動く先でピンチとなりそうなものを排除する役目を担ってるだけだよ」


「……ああ、コンビネーションを高めたわけではなく、そっちのゲロ臭い方があなたに動きを合わせていただけなのですね……」


「あたし、やるでしょぉ。ゲロ臭いは余計だけどねぇ」


ベルはユースケに対してブイとまばゆい笑顔を見せる。

ユースケは溜息をつきつつ言う。


「……エリ様があなた方に負けるとは思いませんが……。一つだけ」


「何? 忠告でもしてくれるの?」


ユリの言葉にユースケはハッと馬鹿にした表情を浮かべる。


「私があなたに? そんなことはあり得ませんよ。

そうではありません。あなたは罪を抱えているとおっしゃいました。

ただ、何かを抱えている人間があなただけとは限らないのです」


「……それは、どういう……?」


「後はご自分で確かめてください。それでは」


ユースケはそう言うと自分の刀で自分の首を切り裂いた。

ボトリと首が落ち、ユースケの体が傾いた。

ユリはユースケの最後の言葉の意味を胸に刻むこととし、顔を上げた。


「さて……。ようやく、ここまで来たぞ」


「エリちゃんを、殺すための百年だったからねぇ」


「うん。行こう」


ユリとベルは一度深呼吸をすると、エリのもとへ歩みを進めた。

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