第三章-10
ユリはベルの前に立つと軍刀を構えつつ、周囲のバイオナノマテリアルの濃度を測る。
バイオナノマテリアルはこの空間においてかなり希薄になっていた。
「……小技をいくつかと、大技をこっちが一回、向こうが一回使ったら枯渇するな」
ユリのつぶやきに後ろでごそごそ準備しつつベルが言う。
「じゃあ、向こうに先に使わせれば勝機があるかなぁ?」
「いや、二人同時に使われたら面倒だ。先に仕掛けるよ」
「了解だよぉ」
ユリは軍刀をゆっくりとユースケとスミレに向けた。
ユースケが目を細めユリを見た時、ユリは言った。
「いくぞ」
その掛け声とともに、ベルがユリの肩に触れつつ叫ぶ。
他人に触れている場合、白い光の粒子は触れた人間のみに作用する。
「インストール! 記憶の調和(harmonyOfMemory)!」
ベルの権能が発動した。
だが、ユースケたちから見て、ユリ達には二人が少し淡い白の光の粒子で包まれている以外何の変化も無かった。
「何をしたのですか!」
ユリは余裕たっぷりの笑みを浮かべつつ言う。
「何をしたでしょう。確かめてみて」
ユリはそう言うと駆け出した。そのすぐ後ろをベルが追いかけている。
「私が行きましょう!」
スミレにそう声をかけ、ユースケは前へ走りつつLBMT(左腕のデバイス)を操作すると、目的に始動語ファイルに触れる。
「インストール! 局所的流力(kyokushotekiryuryoku)!」
「お前の権能、もう見切った! インストール! 防風林(windBreakForest)!」
ユースケがユリに刀を向け、権能を発動させる前に、ユリが軍刀を塔の屋上の床へと刺した。
すぐさま緑の光の粒子が床へ広がったかと思うと、ユリ達の姿が森の中に消えた。
床より勢いよく生えてきた木々がユリ達の姿を隠す。
「くっ、どこに消えましたか!」
ユースケのその言葉を聞いてユリは確信する。
――ユースケは権能の発動をするとき、必ず私を見ていた。
これは権能が相手の位置を自動的に検知しないことを意味している。
だから、私が見えなければ発動位置を決定できない。
ユースケの隣にスミレが立つと扇子を広げ、森へ向けると叫ぶ。
「私に任せて! インストール! 水機関銃(waterMachineGun)!」
扇子の骨組みの先端にビー玉程度の小さな水球ができると、その弾が次から次へと発射される。
水弾はユリの作った林の木々を次々と打ち倒す。
「ふふふ! さあ、出てくるといいかしら! このままじゃじり貧よ!」
だが、どれだけ撃ち続けてもユリ達が姿を現さない。
ユースケは少し慌ててユリの姿を探すが、どこにもいない。
まさかユリが計画を進めるエリを先に仕留めることにしたのかと思い、エリの方を見たが、そちらにもいなかった。
「どこに……!」
「ここだよ! インストール! 天へ向かう巨木(giantTreesTowardTheSky)!」
ユリ達の声はユースケやスミレが立っている場所の真下から聞こえてきた。
「マズイ!」
「きゃ!」
ユースケは何が起こるかをすぐに察知し、スミレを抱えて後ろへ飛んだ。
ちょうどユースケたちが立っていたところにしたから極太の幹を持った立派な木が生えた。
「あぶないところでした……!」
「こんな程度で安堵してちゃだめだよ!」
ユリの声が上から聞こえたユースケは見上げると、すでにそこにユリとベルがいた。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
ユースケは抱えていたスミレを後ろへ投げると、刀でユリの攻撃を受け止める。
ユリは着地すると、今度は体の小ささを生かし、太ももやひざなど低い場所を切りつける。
「くっ! 小さい体はそうやって使うのですか!」
「ちっさい言うな!」
ユリは頭に怒りマークを浮かべつつも、ユースケに一切反撃の隙を与えない。
「私もいるのよ!」
放り投げられたスミレが体勢を立て直しユリに対して権能を使おうとした時、ユリの後ろで影のように控えていたベルが隠し持っていたナイフを投げる。
ナイフはまっすぐ飛び、スミレの指を切り落としてしまう。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
スミレは叫び声を上げつつも、戦意を喪失していない。
ベルをキッとにらみつけるとベルに対して権能を使おうとした。
だが、ベルはすでにスミレを見ていない。
どういうことと思った瞬間、自身で培ってきた危機意識が危ないと訴えてきたため、その場から後ろへ飛ぶと、ユリがスミレの死角から切りかかってきていた。
「あ、危ないわね!」




