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第三章-9

ユリはそうつぶやいた。

その一言でベルはユリが何を考えているか察した。

ベルはユリに抱き着こうとするのをやめ、ユリの考えている作戦を考える。

どう考えても自分ばかりが苦労する。


「ユリちゃん。その作戦でもいいけど、あたしがめっちゃ疲れるからやだなぁ」


「ベル? あなた、私に借りがあるよね? あの食堂で」


「あ」


ベルは自分が食べてしまった肉を思い出す。おいしかったなぁ。


少しだけ浮かべてしまった恍惚の表情をユリに見抜かれる。


「ベル。味の感想を思い浮かべなくていいから。借りはここで返してもらうよ」


「くぅ……。拒否……できないよねぇ。わかったぁ」


ベルはしぶしぶうなずいた。


ユリ達がそうやってこそこそ話して方針を決めた時、スミレを介抱していたユースケがユリ達に対して叫んだ。


「あなた方は世界を戻したくないのですか!」


ユリとベルはユースケを見る。

ユースケは真剣な目をしてユリとベルを見ていた。

問いかけられたユリとベルが何も言わなかったため、ユースケは続ける。


「エリ様のお力なら、世界をもとに戻せる! 私は息子夫婦に!スミレは娘に!

大進化のあの日、大進化に適応できなかったからと死んでしまった人々に会えるのです!

あなたがたも大切なものを取り戻せる!

それに、エリ様はあなたの妹だとお聞きしました!

なぜ殺そうとするのですか!」


ユリはゆっくりと立ち上がるとユースケをまっすぐに見る。

ユリ達はユースケがスミレの体力を回復させるために話題を振って来たのではないかと疑っていたが、ベルもひどい状態であったため、会話に乗ることにした。


「世界を戻すとか、関係ない。

エリと私は姉妹。そして、エリは両親を殺して逃げた。

罪に罰が伴わなくなった世界で、肉親である私がエリを殺す理由がこれ以上必要?」


ユースケはなおも叫ぶ。


「ですが! その罪も世界を戻すことで意味をなくすでしょう?

世界を戻せばご両親は帰ってくるのです! それで何が問題なのですか!」


「本当にエリが世界を戻して私たちの両親が戻ってくるのかわからないけど。

仮に戻ってくるとしよう。で、戻したらすべて解決なのか?」


「え?」


ユースケは豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべる。

ユリは低くつぶやくような声で言う。


「万引きした中学生が商品をもとに戻したら窃盗罪は無くなるのか?

金を奪った詐欺師が金を返したら詐欺罪は無くなるのか?

人を殺したけど復活させたら殺人罪は無くなるのか?」


ユリはユースケに発言させないよう、言葉を続ける。


「そうじゃないでしょ。やってしまった事を無かったことになんてできない。

元に戻したとしても、罪は罪だ。償わなきゃいけない。

きちんと償ったうえで世界を戻すならどうぞお好きに。

でも、罪から逃げることは許さない。エリは親殺しだ」


ユリは両手を握りしめ、一切こちらを振り返らないエリを睨む。ユースケは叫ぶ。


「罪から逃げてはいけないとおっしゃるなら!

あなた方がやっている至天の案内人コンシェルジュの活動はどうなのですか!

人殺しを繰り返して! それでのうのうと生きているじゃありませんか!

何が罪と罰ですか!」


「違う! 至天の案内人コンシェルジュの活動は人殺しという罪ではない!

『死』の返却だ!

私の両親が大進化という形で世界中の人から『死』を奪ってしまったものを返している!」


「……両親の罪滅ぼしだとでも言うのですか。

人を殺しておいて、それは罪じゃないと言うのですか!」


ユースケの叫びに対して、ユリは静かにため息をつきつつ言う。


「その通り。私は両親が人様から奪ってしまったものを返す。

ただ、さっきも言ったが返すだけでは罪を償った事にはならない。

私は『死』を返す時には必ずその人の人生に寄り添い、最後まで共に過ごす。

どんなにつらく当たられても、どんなに拒絶されても、奪ったものの返却を依頼されれば必ず寄り添う。

この活動は私が『死』を得るその日まで続く。これが私の償いだ」


「だが、それは……」


さらに言い返そうとしたユースケをユリが手のひらを向けて制する。


「そして、活動の是非についてこれ以上お前に意見を聞くことは無い。

もはや世界には法律も裁判もないんだ。

私の周囲の出来事の罪とその償い方については私が決めること。

お前じゃない。私はこの方法で両親から引き継いだ罪を償う。

そして、エリには死をもって償ってもらう」


ユリのつぶやきにユースケは大きく息を吸って、吐いた。


「わかりました。あなたが、私では一切説得できない人種であると言うことが。

もはや、言葉は必要ありません。力づくで止めさせていただきます」


ユリはニヤッと笑う。


「そう、その方がシンプルだ。もとより、私たちは力づくで通り抜けるつもりだからね!」

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