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第三章-8

ベルが呼び出したのは落雷に打たれた人間の記憶だった。


「飛んでも意味ないよぉ!」


ベルの言葉を聞いた瞬間、スミレは考え方を変えた。

このままでは濡れている自分だけが大ダメージを負ってしまう。

少なくとも痛み分けにする必要があった。


一瞬考えたスミレは、この状況で自分より相手の方にダメージを与える方法を思いついた。


「インストール! 大海原の激浪(ragingWavesOfTheOcean)!」


スミレは素早くLBMT(左腕のデバイス)で始動語ファイルを扇子へ読み込ませると、扇子を前でバッと横向きに開いた。

開いた途端、スミレの周囲に海が発生し、高波となってベルへ襲い掛かった。


「うわああああ!」


ベルは酩酊状態のまま足元がおぼつかず、高波を避けられなかった。

真正面から海水を浴びてしまったベルは顔が真っ白になる。


「水の権能だと思ってたけどぉ、海も行けるのぉ! ずるいよぉ!」


スミレが頭からかぶってしまったのはバイオナノマテリアルで作り出した純水。

不純物がほとんど入っていない。

だが、ベルに浴びせた海水は様々なものを含んでいる。

どちらが電気を通しやすいかなど火を見るより明らかだ。


「さあ、雷の向こう側で会いましょう!」


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


ベルの悲鳴もむなしく、雷はほぼ同時にベルとスミレに落ちた。


「あああああああああああああ!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ベルとスミレは雷の巨大なエネルギーに焼かれ黒く焦げる。

だが、不死人らしく、お互い死んではいない。先に膝をついたのはベルだった。


「あ、あ、ああああ、あ、あ」


感電してしまい、うまくしゃべれなくなったベルは本を指し示そうとしてもうまく指が動かない。

スミレもほぼ同じ状態だったが、スミレの方はおおざっぱな行動ならできる程度のダメージで済んでいた。


「ふふふ! わ、私の機転もっ、なかなかっのも、ものかしらね……!」


若干ろれつが回っていないものの、スミレは左手のデバイスに右手を添えて言う。


「イ、インストール……! 水大砲(waterCannon)!」


スミレは若干震える手で、扇子を持ち上げベルの方を指し示した。

直径一メートルほどの円柱型の水がまっすぐベルの方へ飛んできた。


「ああああああああ!」


ベルは思い切り流され、ユリが作った木に激突した。


「いったぁぁい!」


ベルは大声で叫けんだ。

不死者の体として、少しすればしびれは取れる。

だが、相手に完全にしてやられたことは否めない。

悔しい気持ちと動かない体がベルをもどかしくさせる。


「でも、酩酊はちょうど、大量の水があったから飲んで解消してやったよぉ」


ベルはそう言いつつ口元を拭うと立ち上がる。

そして、スミレを見ると、その横にはユースケが立っていた。


「スミレ。問題ないか?」


スミレはユースケに対してうなずきつつ、LBMT(左腕のデバイス)を操作する。


「インストール! 水排除(waterExclusion)」

びしょ濡れだった、スミレの浴衣はまるでお日様に干した後かのようにきれいに乾く。

だが、残念ながら雷によって黒ずんでしまった色は取れなかったようだった。

スミレは少し眉を顰めつつベルを睨んだ。


「あなたのせいで、この浴衣が台無しよ」


「あたしが、そんなこと知るかよぉ。それより、そっちの執事さん。ユリちゃんはどうした?」


「さあ、私は存じ上げません」


「まさか、ユリちゃん、死んだぁ?」


「死なないってば」



ベルがもたれかかっている木の横からユリの顔がにょきっと生えた。

ユリはそのまま出てくると体の節々を伸ばしつつベルを見た。


「あんた。臭すぎ。なんでそんなアルコール臭とゲロ臭と焦げ臭を一緒くたに放ってるの?」


「あたしの、匂いの分析しないでよぉ!」


ベルはそう言いつつユリに抱き着いた。


「うわ! ちょっとこっちに来ないでよ!」


「そんなこと言わなくてもいいじゃんかぁ! あたしはあたしで頑張ってるんだからぁ!」


ユリは抱き着こうとしてくるベルをいなしつつ、ユースケとスミレを見る。

スミレはそこそこダメージを負ったようだったが、ユースケに関しては左肩をぶち抜いた程度で大したダメージを与えていない。


ユリはそのまま、彼らの後ろに目を移す。

エリが作り出すバイオナノマテリアルの球体は少し前よりもさらに大きくなっていた。

街から聞こえてくる悲鳴もほとんどなくなり、街のあちこちに亀裂が入り始めている。


「……時間がない」

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