第三章-6
「ギョェェェェェェェ!」
ホークと呼ばれた亜獣は大きく一鳴きして不満をあらわにしつつ、地球の重力に従って落下する体をどうにか顔を前にした直落下の状態にする。
「うおおおおおおおおおおお! やばいってぇぇぇぇぇ!」
突然、空気を切り始めたホークの背中でユリは振り落とされないよう全身でホークの背にしがみつく。
ホークはそんなユリに一切気遣いをすることなく、マグマすれすれで羽を広げた。
「あああああああああああ!」
今度は上昇のGが全身にかかり、ユリは全身がばらばらになってしまいそうなほどの圧力を感じている。
「ビィィィィィィィィィ!」
ホークは高らかに鳴き、落下へ打ち勝ったことを周囲に示す。
「いたたたた、ひどい目にあったけど、ホークよくやった!」
ユリがホークの頭を撫でてあげると、ホークはそれをうざったそうに避ける。
「ちょっと! ほめてあげようとしてるのに何で避けるの!」
「ビィ」
「そんなことより飯よこせって? 大丈夫、忘れてないよ!
あいつをぶっ飛ばしたらあげるから。だからあいつのところまで飛んでよ!」
「ビィィ」
「前も、そう言って飯よこさなかったって? 謝るから!
ごめんね! 今はちょっとそれどころじゃないの!」
「ビィィ」
「このクソチビですって⁉ 今、私の身長関係ないでしょ! うるさいな!」
「
ビィビィ」
「え? もう終わりってどういうこと?」
ユリがそう言った途端、ホークは宙返りをして背中に乗っていたユリを振り落とし、器用にくちばしでキャッチすると、思い切り塔の上めがけて投げた。
そのまま、ホークの姿は粒子化して消える。
「ああああああああああああああああああああああ! あいつ! 勝手に帰りやがった!」
適当に投げられたユリは空気中で姿勢を制御することなく、めちゃくちゃになりながら塔の上へ飛ぶ。
「あなたが生み出せるのは木だけじゃないと言うことですか。
なかなか汎用性の高い権能でございますね。
しかし、戻ってくると言うのであれば……そのまま落ちなさい!」
ユースケはユリの方へ向けて刀を上から下へ振り下ろした。
ユリは空中で加速し、ロケットのように塔の屋上へ突っ込む。
「うおおおおお! ホークめ! 後で絶対殺してやる!
だが、今はまず私の命を救わないと! 私以外の誰がエリの命を取るの!
インストール! ゴムの木(rubberTree)!」
ユリの軍刀が緑色に輝くとユリは無理やり体をひねって軍刀が先に塔の屋上へ届くように、屋上へ向かって軍刀を出すとそのまま塔の屋上へ激突した。
ユースケは乱れた息を整えるため、ため息交じりにつぶやいた。
「ふぅ。いい加減、戦闘不能になっていただきたいものですね」
一方、ベルの方は完全に苦戦していた。
ベルは自分の武器である大きな斧を手に相手の腕の動きに合わせて体を動かしていた。
「水の鞭なんてずるいねぇ!」
「あら、権能同士の勝負にずるいもクソもないでしょう?」
ベルはスミレに一切近づけないでいた。
スミレが戦闘開始直後に水の権能を使って作った鞭がベルの右肩口に炸裂し、ベルの白を基調としたレザードレスを切り裂き、右肩からは真っ赤な血が噴き出していた。
機動力を奪われてしまったベルは、スミレに近づくタイミングを失っていた。
鞭の先端のスピードは音速を超える。
適正な距離で狙われてしまうと、ベルとしてはその鞭をどうにか奪うことを考えなければならない。
だが、そこで相手は水の特製を生かしてくる。
斧の刃で水の鞭を切り裂いてしまおうと考えたベルが、水の鞭の動きに合わせて斧を振りぬくと、鞭は刃で切れたかと思った次の瞬間、くっつき直ってしまった。
「く……。水の鞭、便利すぎるよぉ……」
「ええい、ちょこまかと動くわね! いい加減当たってくれないかしら!」
スミレがキレのある一撃を放つも、ベルはそれをギリギリ体をひねって躱す。
「どうにか、隙を作らないといけないねぇ……」
後ろに飛んで距離を稼ぎたいベルだったが、スミレの鞭がそれを許さない。
ベルは斧を背中へ戻すと叫ぶ。
「エクスポート! 記憶の本(memoryBook)!」
ベルの端末に常にセットされている始動語ファイルが読み込まれ、左手に記憶の本が現れる。
ベルはスミレの鞭攻撃から目線を外すことなく、本のページをめくり目的の場所へたどり着く。
「あったよぉ! インストール! 酩酊の記憶(memoryOfIntoxication)!」
ベルはそう叫びながら本の一部、自分が極限状態まで酔っぱらったときの文章を右手の人差し指でそのままなぞった。




