第三章-4
ユースケが咳払いする。
「先ほども申し上げたが。エリ様の邪魔をさせるわけにはいきません。
私たちは大進化によって失ったものを取り返さなければならないのだから。
エリ様は心優しくも、この世界のすべてを元に戻すとお考えです。
あなた方もその恩恵にあずかれるのですから、おとなしくしていてください」
だが、ユリは口をとがらせつつ言う。
「あんたの言う、世界を元に戻すって言うのが、時間の逆行を意味しているなら、それは不可能だよ。
それは、亜獣狩りに所属する科学者がきちんと解明している。
バイオナノマテリアルはあくまでも汎用的なエネルギー体に過ぎない。
それをどれほど集めたところで時間を戻すことはできない。
時間は宇宙全域で等しく進んでいる物だから」
ユリは軍刀に手を置く。
「もし、エリから時間を戻すと聞いているなら、それは嘘だよ。
あんたたちは別の計画に協力させられている可能性がある。
だから、そこを通して。その辺も含めて私がエリに確認してあげるから」
ユリの説得はユースケやスミレの表情一つ動かすことができなかった。
ユースケはため息を吐きつつ言う。
「詳しい理論など、私らなどにはお教えいただけませんでした。
だが、世界をもとに戻したいと言う熱意は本物です。
だからこそ、私もスミレもエリ様を信じることにしたのです。
そんなエリ様を殺すと公言している、至天の案内人を通すわけにはいかないのです」
ユリとユースケのにらみ合いの間にスミレが波の模様をあしらった扇子をバッと開き、ぶつかり合っていた視線を切った。
「もうそのくらいでいいかしら? エリさまは本当に素晴らしい方。
こんな狂った世界で、ただ一人、正しいことをなさろうとしているのよ。あなたたちはそれがわからないみたいだから、私たちが、成敗してあげる!」
ユースケとスミレは左腕にあるデバイスを起動する。
「私たちはエリにけじめをつけさせる、それだけを目的に百年生きてきた。
今更エリが何をしていようと、私たちの目的は変わらない!」
ユリの言葉を皮切りにユリとベルも自分たちのデバイスを起動した。
デバイスを起動したことにより、周囲のバイオナノマテリアルとリンクした万能感を体感する。
権能持ち同士が戦う場合、戦闘の実力以前に相手の権能を見抜くことが勝利への近道となる。
だからこそ、相手の権能を完全に見抜いた場合、権能を使った瞬間勝負が決まることもある。
相手が不死者であるからこそ、相手の弱点を突いた遠慮のない巨大な一撃をもって相手の戦闘力を奪うことが大事であった。
ユリは相手を素早く観察する。
ユースケは燕尾服を着こなしつつ、脇には刀を装備している。
ユリはユースケの戦闘タイプを近距離と遠距離のバランス型であると仮定した。
反対にスミレは青色の朝顔の花をあしらった浴衣姿で武器らしい武器は無く、手に持った扇子を構えてこちらを狙っている。
ユリは、スミレの戦闘タイプを何らかの体術を修めている可能性はあるものの、基本的には権能で戦うものだと仮定した。
「私はユースケの方をやる。ベルはスミレね」
「わかったよぉ」
二人は頷き合うと、一気に駆け出した。
走りながらユリは腰に差していた軍刀を抜き放ち左手で持つと、LBMT(左腕のデバイス)に右手の人差し指と中指をそろえて触れると叫ぶ。
「インストール! 森の支配(dominionOfTheForest)!」
LBMT(左腕のデバイス)上の画面に森の支配(dominionOfTheForest)ファイルが表示されると、ユリはそれを添えていた右手で左手の先へフリックした。
ファイルはユリの手先からファイルが軍刀へ溶け込む。
始動語をまとめたファイルが武器上で発動するとユリの武器にはバイオナノマテリアルが集まり、効果を発動する準備として緑色に光り出す。
ユリはその光を確認することなく素早く軍刀の刃を下に向け、地面を擦る。
軍刀が少しだけ床に傷をつけた瞬間、ユリはユースケの方へ軍刀を上へと一気に振り上げた。
軍刀が振り上げられた場所から勢いよく木々が生える。
木々はまるで蛇のようにうねりながらユースケを捕まえんと彼に迫った。
「ほう! 植物を操る権能ですか!」
ユースケは感心しつつも、ユリの数多の手のように伸びる木々を、時に上体を逸らし、時に伸びてきた木を踏みつけ、自分を捉えさせなかった。
「くらえ!」
伸びている木の一本に乗っかり、髪をなびかせ黒いレザードレスをはためかせ、ユリがユースケへ肉薄すると、飛び上がって軍刀を振り下ろす。
「ふん!」




