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第三章-2

まだ何も言われていない段階から、マツバは自分がどれだけ弱く、何もできない存在であるかを熱弁する。

だが、ユリはそれを全て無視して、マツバの顔を覗き込んだ。


「マツバには一つやってもらいたいことがある」


「む、無理っす! 皆さんでどうぞっす! 俺はもう、ここから動かないっす!」


「マツバ!」


ユリはキレのある声でマツバの弱音を断ち切った。


「この街に来た時、鷹の亜獣と戦った。


あの時、君は私たちの後ろに隠れていた。その時、どんな気持ちだった⁉」


「そ、それは……、お二人とも強いなって……」


マツバは目を泳がせつつそうつぶやいた。

だが、ユリとベルの前で自分の気持ちを偽ることはできない。

ベルの記憶の権能は隠そうとする心まですべて丸裸にしてしまう。


ユリはベルの方を一度だけ見る。

ベルがうなずいたことを確認しユリは言う。


「嘘。本当は、自分も同じ場所に立って戦いたかった。

光の権能を使って華々しく活躍したかった。そうでしょ?」

 

マツバは顔の筋肉すべてを使って、渋い表情を浮かべる。

だが、その口から否定の言葉が出てくることは無かった。


「君が私たちの後ろの物陰から出てこれなかった理由は二つ。

一つは実力不足。

あなたは引きこもりから外に出て日が浅いから戦闘力も権能の能力開発も大して進んでない」


「それは……。仕方ないじゃないっすか……」


マツバのつぶやきにユリはうなずく。


「その通り。仕方ない。だが、もう一つの理由はね。君が君自身を信じていないことだよ」


「……どういうことっすか?」


「言葉通りだよ。

実力不足とはいえ、君は私やベルと一緒に行動しつつ、いくらか戦闘訓練を行ってきた。

今君が持っている物で、目の前の戦闘に役立てることは無いか? 必死で考えた?」


マツバは黙って下を向く。

物陰に隠れていた時、考えていたのはユリ達が早く目の前の亜獣を倒してくれることであり、自分がそこへどうやって参加しようなどとは露程も考えなかった。


「でも、あんな戦闘参加できるわけないじゃないっすか!

俺は、ずっと、百年間洞窟に閉じこもってたゴミなんすよ!」


マツバは目を見開いてユリにそう主張した。だが、ユリは首を振る。


「私はそんな過去のマツバではなく、活躍している未来のマツバを信じるよ」


ユリはそう言いつつ、マツバの手を取ると一粒の種を手渡した。

種は人差し指と親指で作った円形ほどの大きさであり、外皮はとても固いクルミのようだった。


種を渡されたマツバは訝し気にユリの事を見た。


「もし、君が本気で本気で私たちと並んで戦いたいと思っているなら、今から言うことを実施してほしい。

もしもの時、これが必要になるかもしれないから」


マツバは種をじっと見つめた。活躍する自分を考えない時など無かった。

だが、いつも妄想するだけで終わっていた。

もう、そんな時間は終わらせなければならないのかもしれない。マツバはそう思うようになっていた。


「わかったっす。覚悟を……キメるっす」


マツバは顔を上げ、ユリの事をまっすぐ見つめた。

ユリはその瞳に嘘を感じなかった。


「よし。エリはこの街のバイオナノマテリアルを使い切るつもりで、計画を始動していると思う。

でも、私らがエリをぶち殺したら、エリが使おうとしていたバイオナノマテリアルは霧散しこの街全体がバイオナノマテリアル不足に陥って、落下しちゃう」


ユリは手のひらを横に広げ、ふらふらと下へ動かした。


「そこで、エリを殺した私たちが安全にこの街から出て行くために、そして、街の人々を助けるために、この岩盤をひっくり返して落とす必要がある。

そのために、この種を使う。

この種をまくと巨大な大木が斜めに生える。

この大木によって横の地面をグイっと押す」


ユリはひらひらさせていた手のひらのうち中指を斜めに伸ばす。

そして、もう一方の手で作った逆さ街を囲む崖に中指をトンと突き立てる。


「こうして勢いをつけて街をくるりとひっくり返す。

で、マツバには勢いよく生える大木によってそれが可能な地点を割り出して、種を植えておいてほしいんだ。

大木が生み出す力や斜めに生える角度など詳細はこれ」


ユリはメモをマツバに渡す。


「街が落ち始めてしまう直前に発動するから、それまでに植えてほしい。できる?」


マツバはユリの計画を聞いて迷った。

今の自分では全くできる気がしなかった。

種を植える位置を算出し終えた自分も、種を埋めに行く自分も一切想像できなかった。

いくらでもやらない理由が思い浮かんでいた。

だが、マツバは唾を飲み込み弱音を消すと、代わりに聞いた。


「ユリ姐さんの中の俺は、成し遂げてるっすか?」


ユリからの返事は簡単なものだった。

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