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第三章-1

▼世界リストア計画始動


逆さ街の空中岩盤の中心、白の塔の屋上には、巨大な広場が作られており、その中心に物々しい機械類が並んでいた。

機械類は頭上に見えるマグマに照らされ赤々となまめかしく揺れていた。


機械たちに取り付けられた計器はすべて基準やゼロを示している。

機械たちはその役割を果たす時を今か今かと待ちわびていた。


その中心にあるデバイスにて、エリは素早く始動語を打ち込む。

《世界を戻す》ため、あの大進化の日から積み重ねてきた研究の成果が、今、デバイスへとまとめられ実行を待つ状態となる。


エリの後ろに控えるスミレとユースケは、期待を込めた視線でエリの作業を見つめていた。


「エリさま。準備のほどはいかがかしら?」


スミレが恭しく頭を下げながら、エリに伺う。

エリは振り返ることなく答える。


「順調。始動語の構築、問題ない。最

後のエラーチェックももうすぐ完了する。

三時間後には世界が大進化前に戻ることになる」


エリは一度手を止め自分が作り上げた装置を見つめる。

世界を戻すための装置。

作成に三十年かかった。


だが、その苦労は今日報われる。

世界が元に戻り自分はこの百年の記憶を全て失い、無垢な高校生として、あの、両親や姉との最高の時間へ戻る。


「あなたたちもよくやったと言っておく。

はっきり言って、お前たちの手を借りるつもりは無かった。

だが、その熱意と手を借りたことによる効率の良さは否定できなかった。感謝する」


エリの言葉にスミレとユースケは恭しく頭を下げた。

二人はエリからの感謝の言葉を頭の中で反芻し、感動で胸を震わせていた。

大進化の後、絶望の中で見つけた唯一の希望。

エリからどれほどつらく当たられようとも、あきらめず向き合ってきた苦労が、あと少しで報われる。


エリはデバイスに表示されたエラーチェックの結果を見て満足そうにうなずいた。

ユースケはエリの雰囲気を察して一歩前へ出ると、頭を下げつつ言う。


「エリ様。それでは……」


ユースケの言葉にエリはうなずいて答える。


「うん。私はこれからこの装置が正常に動くことをずっと見守らなきゃいけないから。

あなたちは、邪魔が入らないようにしてね」


「承知しました」


ユースケとスミレは再度頭を下げる。

エリは振り向くことなく、雰囲気でそれを感じ取ると、一呼吸おいて装置の始動ボタンを押した。


「それじゃあ、世界リストアを始めよう」




エリがボタンを押した途端、白い塔は白銀に輝き出した。

塔は周囲のバイオナノマテリアルを吸収し、塔の頂上にある機械へと運ぶ。

運ぶ際に、高密度のバイオナノマテリアルは、粒子同士がこすれ合い、発生した余分なエネルギーを光として放出する。


この白い塔が放つ強烈な光だけでも、とてつもない量のバイオナノマテリアルが集まってきていることは明白だった。


そして、その光が街中に届いたかという時、逆さ街の岩盤は、まるで台風の時に出港してしまった船のごとく、とてつもなく大きく揺らいだ。

あまりの揺らぎの大きさに、ショウの部屋にいたユリ達は思わず地にへたり込んでしまう。


「なにっ!」


ユリの疑問にショウが答えた。


「エリさんの計画が始まりました!」


「え、もう⁉」


「はい! 世界を元に戻す装置が始動し、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


話の途中でショウは全身に力を漲らせ、自身の権能へ意識を集中させる。

あまりに突然のことで、ユリ達は驚いてしまう。


「ショウ、いったいどうしたのぉ?」


ベルがそう聞くとショウは少し苦悶の表情を浮かべつつ言う。


「エリさんの計画が始動し、この街にあるバイオナノマテリアルがどんどん吸収されてます……!

このままじゃ、この街は落下するか、もしくはエリさんの計画が完了し世界が戻ってしまいます……!」


ユリは一度深く深呼吸して冷静な頭を取り戻す。


「ショウ、この街を支えられるのはどのくらい?」


「もって三時間程度です……!」


「よし、マツバ!」


ユリから声がかかったマツバは、すでに部屋の端にある棚に体ごと預けて、小さくなっていた。


「な、なんすか……! こんな状況じゃ、俺は無理っすよ……!」


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