第二章-21
一方、ランはエリの側近であるスミレによってショウが余計なことをしないよう、また、ショウに対して至天の案内人が余計なことをしないよう、人質として捕らえられ、エリの執務室に縛り上げられ正座していた。
エリに向かってランは止まらずに文句を言っていた。
「ちょっと! 聞きなさいよ!
もうちょっと、この街を支えているショウに感謝があってもいいんじゃないかしら!
何よさっきの! ショウが『死』を望んだのはあんたのせいでもあるんだからね!
彼はせっかくこの五十年、寝ずに街を支え続けた功労者なのよ!
人を人とも思わない冷血な女ね!」
だが、エリがランに向けた目はとても冷たいものだった。
「人? いったいどこに人がいるんだ?」
「は? あんた、何言って……」
「もういい。こんなやついらない。
こいつは死なないんでしょ?
もし、あのユリが、きちんとユリお姉ちゃんをエミュレートしているなら、こんな風に人質として連れてきたところで止まるわけない」
エリはそう言うとユースケにスミレを下がらせるように指示する。
「エリ様。申し訳ありませんでした、浅慮でございました」
スミレは恭しく礼をすると、ランを引きずって部屋を出る。
ランは最後までエリを罵っていた。
扉が閉まり、ランの声が聞こえなくなった時、エリはユースケに問いかける。
「私の計画はもうすぐ完了する。あんたは世界が戻った時、誰に会いたい?」
エリはそう言いつつ窓の外を見る。
塔の頂上近くにある部屋からは、眼下にマグマ、上に逆さ街が見える。
塔の中だけは逆さ街でも普通の重力となっている。
ユースケは礼をしつつ言う。
「私は、息子夫婦と孫に」
「そうか。私は、お父さんとお母さん。
そしてユリおねえちゃん、ベルおねえちゃんと会いたい。
久々に会えた時、きっとこの大進化後の記憶なんて無くなっているけど、会いたかったって抱き着きたいな」
エリはユースケとスミレの方へ向き直ると言う。
「もう少しだ。バイオナノマテリアルが必要量確保できるまで。最後まで付き合ってもらうぞ」
「御意」
ユースケは、自分の望みをかなえてくれる主に対して深々と頭を下げた。
ユリ達が脱出の準備を進めているところ、牢屋の前に誰かの気配を感じた。
ユリは警戒してゆっくりその人物を見る。
「ショウ?」
「はい、そうです。皆さんを解放しに来ました」
ショウはそう言うと、どこからか盗んできた鍵でユリ達の牢屋を開ける。
牢屋は塔の中にある。塔の中であればショウは動ける。
「なんで解放しに来たの?」
ユリの問いかけにショウは少し焦って言う。
「ランが、あの、スミレとかいう女にさらわれました……!
僕は罪がある。でも、彼女には何の罪もないんです。助けてあげてほしいんです……!」
ユリはぐっと口を閉じ、牢屋の中から出ずに言う。
「一つ確認する。私を解放すると言うことはエリを殺しに行くと言うことだ。
エリがやることを傍観すれば、お前の罪である大進化は無くなるんじゃないのか?」
「それは、その通りかもしれません……。
ですが、よく考えました。
僕の本当に罪を犯したと思っている瞬間は、俊さんのラボからバイオナノマテリアルを盗み出した、あの瞬間です。
エリさんはそれより前に世界を戻したりはしないと思います。
もちろん、世界は戻ってほしいですが……。
僕の罪はそれでは無くならないんです。
それよりも、ランの安全を確保したい。そう思っています」
「フーン。ショウ。あんた、ランが好きなんだ?」
ショウは少しうつむいて言う。
「……そうです。僕なんかが好きになっていいとは思いませんが。
それでも、幼馴染で昔から一緒で……。好きになってしまったんです」
ユリは頷いた。
「わかった。ランは助けてあげる。私たちに任せておいて」
「ショウもなかなか見る目があるねぇ」
「あんなきれいな女性、なかなかいないっすからね!」
ユリ達は口々にそう言うと牢屋から出る。
「よろしくお願いします」
ショウはユリ達に深々と頭を下げた。
「まずは、作戦会議だ。ショウの部屋へ行こう」
ユリがそう言うと、四人は階段へ走った。
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次から第三章です。
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