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第二章-18

ユリはそう言いつつも、頭を高速回転させる。

大進化の後、生物が使えるようになった異能力の事を、誰からとは言わず『権能』と呼ぶようになった。

違和感を感じなかったためにそのまま使っていたが……。


そして、エリの質問にベルが答えた。


「能力の権限……」


エリは頷いた。


「その通り。権能はバイオナノマテリアルによって実行され、事象として顕現する。

ただし、その使い方については生物個別に権限が与えられ、できることが限られるようになっている。

だから『権能』と呼ばれる」


エリはそう言いつつ、ユリ達の目の前に光の輪を作り出す。

その時も、エリはインストールすらせずに、バイオナノマテリアルを光の粒子へ変換している。


ユリは理解する。

使い方が限られているからこそ、ユリ達はその使い方を定義した始動語ファイルをバイオナノマテリアルへ『インストール』しているのだ。

つまり、バイオナノマテリアルへお伺いを立てているのだ。

こんな風にバイオナノマテリアルを使いたいんですけどいいですか? と。


インストールが成功すれば、インストールに使った媒介物(武器等)にバイオナノマテリアルが淡い光を放つ形で付着し、権能の発動を使用者へ知らせる。


「さて、聡いはずのあなたたちならもう理解していると思うけど。私がインストールせずに権能を使っている事がどんな意味を持つのか」


ユリはつぶやいた。


「つまり……エリはバイオナノマテリアルに対して、権能を使ってもよいかお伺いを立てる必要がない。

『全権保持者』……。この世にあるバイオナノマテリアルをどんな風にも活用できる……」


「そう。私はバイオナノマテリアルを完全に自由に扱うことのできる唯一の人間だよ」


相手の弱点を探ろうとしていたユリは、何だそのチートはとため息をつきたい気持ちに支配された。

そのような人を相手に、絶対殺すと息巻いていた。


ユリは唐突に示された強烈な障壁『エリがなんでもできる能力もち』であると言う現実を受け止めきれず、黙ってしまう。


エリは控えていた浴衣の女に指示した。


「こいつらは地下の牢に入れておいて」


「わかりましたわ」


女は恭しく礼をすると、左腕のLBMTに触れて言う。


「インストール! 水の荷車(waterWagon)!」


女の持つ扇子から水があふれユリ達を包み込むと、水はあっという間にリアカーのようになり、ユリ達を運び出す準備が整った。


スミレはランの事をじっと見て言う。


「お前だな。ここへ至天の案内人コンシェルジュを招き入れたのは。顔を覚えたわよ」


スミレがそこからユリ達を運び出す。絶

句していたランとうなだれていたショウは何もできず、その様子を見守る事しかできなかった。



▼覚悟


「……こんな牢屋があるなんて、知らなかった。世の中は広いな……」


「ユリ姐さん。感心してないで脱出の方法を考えてほしいっす」

 

リとマツバは二人で手分けして牢屋の作りを観察していた。

どこかに錆は無いか、どこかに穴は無いか、どこかに鍵開け用の針金が落ちていないか、探し回っていた。


「権能使っても牢屋に傷一つつかないなんて……。さすがは『全権保持者』ってわけね……」


「ユリ姐さん、手が止まってるっす」


「もう私の担当範囲終わったから」


「マジっすか? 早すぎっす……」


マツバはユリを煽るつもりだった勢いを失い、いそいそと一人牢屋の点検をする。

その様子を見つつ、ユリはそんな脱出につながるような場所なんてないんだろうなと考えていた。


黒のレザードレスのしわを直しベルの横に腰を下ろしたユリは、ベルの読む記憶の本を覗き込んだ。


「何してるの?」


「マツバの記憶を読んでるのぉ。

断られたけど、どうせ、ユリちゃんの事だし、一応記憶の本はすべて精査しておきたいとかいうんでしょぉ?」

 

ベルが本から顔を上げ、ユリの方を少し不満げに見る。ユリはフフッと笑うと言う。


「私の事、わかってるじゃん」


「まぁねぇ。長い付き合いだからねぇ」


ベルはそんなユリをやれやれと見つつ、記憶の本を読み続ける。

ベルは記憶の本の一字一句を逃さぬよう慎重に読み進める。


ちょうど十人目の依頼人の時、ベルもとてつもない衝撃を受けた。

『心に刺さったメンタルソーン』がある人に、安易に『死』を与えてはいけない。

あの時、ユリと共に誓った。『心に刺さったメンタルソーン』はすべて解析しようと。


ベルが真剣に本を読み始めたため、ユリはこれ以上邪魔しないようにしようと、立ち上がる。

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