第二章-13
「お前ら、本当にこの不死の世界で人を殺して回っている人殺し集団だよな。
怖い怖い。俺も殺されちまうのかな?」
チグサが全く怖がっていない表情でそう言った。
どうやら、人を殺せると言うことに関して、一切信じていないようだった。
「あんたからは依頼されてないから、特に『死』を与えたりしない。
死にたいなら私たちに臨むことだ。
お前がどんなゴミでも、依頼は必ず受ける。
とりあえず今は、また寝てもらうよ」
「は?」
ユリは何の容赦もなくチグサの鼻を掴むとぐいっと上を向かせ、口の中に薬液を流し込むと、すぐに口を閉じさせた。
息ができなくなったチグサは薬液を飲み込んだ。
チグサが、薬のあまりのまずさにぺっぺっと口の中に残った液体を吐き出して、言う。
「クソっ、大体、死なせる活動なんて無駄なんだよ!」
「どういうこと?」
「この街の長であるエリ様がな、『世界を戻す』らしいからな。
これまであったことは全部無かったことになるそうだ。残念だったな。
一生懸命、俺を誘拐したようだが、無駄だったわけだ……!」
チグサはそう言い残して睡眠してしまう。
ベルがチグサの頭に細い針を一本指し、針に左手を沿えつつ、右手でLBMT(左腕のデバイス)にある始動語ファイルをフリックする。
「インストール! 記憶削除:直近一時間(memoryDeletion_LastHour)!」
ベルの手のひらから白い光の靄がチグサの頭の中へ入る。
「よし、これでチグサをスナッフバーに戻しておけば、何もなかったことになるよぉ」
ベルの言葉にうなずきつつユリは、チグサの残した言葉を考えていた。
だが、すぐに切り替えると、ベルは記憶の本の表紙を確認する。
ショウのハートマークから棘が一つ消えているのを確認した。
「ショウ。まずは一つ目の『心に刺さった棘』の解消お疲れ様だよぉ」
ベルに話しかけられたショウだったが、うなだれ、小さくうなずくだけだった。
ユリはそんなショウの肩をひとなですると言う
「今は、まだ混乱していると思う。
これから、私たちは二つ目の『心に刺さった棘』を解析するから、それがわかったらまた会いに来る」
ショウは頷いた。ランはそんなショウに隣で付き添う。
ランは、とりあえずランが付き添っているなら大丈夫だなと判断し、マツバに言う。
「マツバ、チグサを運ぶよ」
マツバは不満そうな顔をして言う。
「お、俺っすか? 怪我がまだ痛いんすけど……」
「もう治ったでしょ。一時間もあれば傷はふさがってるはず」
「……なんで、そう鋭いんすかね……」
マツバはやれやれと思いつつ、寝ているチグサのロープをほどき、彼を担ぎ上げた。
▼二つ目の『心に刺さった棘』
スナッフバーでユリ達を怪しむような人はすべてユリ特製の薬で眠らせ、ベルの権能で記憶を削除しておいた。
おかげで、ユリ達はチグサを難なく元の部屋へ戻すことができた。
今、ユリ達は休みなくやっていると言う、『なんでも食堂』で腹ごしらえをしようとしていた。
「大体、不死になったのに、なんで腹が減るんすか?
食っても食わなくても一緒っすよね?」
「そりゃ、不死になっただけで、人間の基本的な構造が保存されているんだから、人間の腹減り機能も残るでしょ」
ユリの正論にマツバはぐぅと声を上げる。
「でも、昔ほど、空腹に振り回されなくなったよねぇ」
「それはそうだね。晩御飯を抜いたからって夜中にお腹が減って耐えきれないなんてことは無いね。
ま、いくら食べて太っても、いくらご飯を抜いても痩せても、死んで復活したら元の体形に戻るんだから、食べたいものを食べるに限るね」
店主の男がお待ちどうと、ユリ達の前に食事を運び込む。
大皿で届いた料理はどれもホカホカでおいしそうだった。
ただ、昔のような食材というよりは、大進化で変質してしまって、それでもまだ食べれると言うようなものを厳選しているため、見た目はあまりよくない。
「これがきゅうりって言うんだから驚きだよ」
ユリが持ち上げた皿の中には醤油ベースのソースがかかった緑色のとげとげが付いた芋虫のような物体。
きゅうりは進化して、周囲に対して攻撃的になった。
鋭い棘は刺さると手をあっさり貫通するほど鋭利になっていた。
食べるときには棘をハサミできっちり折ってからとなるため、不人気植物だった。
ただ、味は別格においしいため、こうした料理店では扱っていることがある。
「ま、ごちゃごちゃ言わずに食べるっすよ」
マツバの言葉に、ユリは頷いて、料理への攻撃を開始した。
三人とも、次々に皿の上にあるものを平らげ、店の店主を過労死させようとする。
食べている途中で、ベルがショウの記憶の本を開いて二つ目の『心に刺さった棘』を確認しつつ、話題を提起した。
「チグサが言ってた、エリの準備している、『世界を戻す』ってどういうことだろうねぇ」
ユリが攻撃を仕掛けていた亜獣肉から顔を上げて言う。
「うーん。そもそもさ、何をもって『世界を戻す』だと思う?」
ユリがそう言うと、サラダに攻撃を仕掛けていたマツバが言う。
「普通に考えれば『時間を巻き戻す』んじゃないっすか?」
マツバの言葉にユリは首を振る。




